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聞き込み調査

 さて、後は秋羽伊那あきばねいなの持つ『魂食い』の完全破壊のみが目的だ。

 ターゲットにされていた世ノ華雪花よのはなせっかの身の安全も確保し終えているので、もう『守る』ための行動をとる必要はどこにも存在しない。『魂食い』を破壊するだけだ。

 ただ壊す。

 それ以外にするべきことはない。それだけでこの戦いは終わる。

 実に簡単な作業だ。

 が、しかし。

 ここで大きな大問題が一つある。

 それは。


 その秋羽伊那の潜伏する居場所が分からないのである。


 故に夜来初三やらいはつみ鉈内翔縁なたうちしょうえんが辿り着いた現在の場所は、鉈内が秋羽と出会ったきっかけである裏路地だ。ここで情報収集をする以外に彼女の居場所を突き止める方法は見当たらなかった。

 しかし結果は惨敗。

 情報など微塵もありはしなかった。

 刑事ドラマでは都合よく犯人の髪の毛や持ち物などの手がかかりが見つかるパターンが多いのだが、現実は当然そこまで甘くなかった。

 よって、二人は裏路地から渋々抜け出て、夜中だというのに人が多い大通りに姿を現す。

 そして夜来は開口一番。

「何の手がかりもねぇじゃねぇかクソ野郎。ホンット役に立たねぇチャラ男だな―――死んどけカス」

「ひっどいな~。僕は結構頭使ってたんだよー? もうちょっとオブラートに包もうよ―――このハゲ」

 と、お互いに毒を吐き合うといういつもの会話。

 しかし実際に現在の収穫はゼロだ。まったくもって敵の尻尾を掴むことさえできていない。

 そんな八方塞がりの状態だった時、

「―――そうだ!」 

 気づいたように鉈内が声を上げた。

 なにやら名案を閃いたような顔だったが、夜来は怪訝そうな表情を向けている。あまり期待はしないほうが良いだろうと踏んだのだろう。

 鉈内翔縁はそんな夜来を無視して近くのファミリーレストランへ直行していった。まさか晩ご飯でもゆったりと休息しながら食すつもりか、と一瞬思った夜来だが、さすがにいつもおちゃらけている鉈内もこの状況下でファミレスに客として入出はしないだろう。そんな馬鹿な真似をするほど彼はアホじゃないはずだ。

 後から追いかけていった夜来が見たものは、受付の店員に何やら話しかけている鉈内だった。ナンパのように見えてしまったのだが、実際は違った。

「あのさーお姉さん。さっきそこの裏路地で小さな女の子見なかった?」

「ええと……」

 なるほど、と密かに鉈内を感心した夜来。

 聞き込みという手は考えつかなかった。確かに目撃証言からならば敵の何かしらの足跡は発見できる可能性がある。もちろん信頼性の高い物的情報ではない。しかし目撃情報なども入手する価値は大いにあった。

 だが。

「すいません。そのような女の子は見かけておりません……」

 どうやらハズレらしい。

 女性店員は申し訳なさそうに頭を下げてきた。

「あはは。全然大丈夫ですよー。そんな気にしないでくださいね。あー、じゃあじゃあ、この辺で最近変なこととか起こってません? 例えば―――突然の急死事件とか」

 鉈内翔縁は基本的にこちらの都会側に足を運ばない。夜来もどちらかと言えば田舎側のマンションに暮らしているので、学校以外では都会の道を通ることさえない。

 なので二人はと街の中心部で起きている出来事や事件を耳にすることは皆無なのだ。

 故に尋ねてみた結果、


「あー、ありますね。なんだか少し前から次々と人が意識を失って死んでしまうという事件は起こってます。今のところ……何人かはお亡くなりになってますよ。まだニュースとかにはなってませんが」


 今度はビンゴだ。

 間違いなく、それは秋羽伊那の仕業だろう。彼女がなぜ『悪い人』だけを殺害するのかはいまだに謎が解明できていないのだが、『急死』という言葉からしておそらく彼女が犯人だ。

「それと、あまり死んだ人を悪く言うのもなんですけど、その死んだ人たちって―――不良とか暴力団関係者だとかチンピラみたいなガラの悪い人達ばかりでした。だから街の中では『悪党が消えて良かった』と喜んでいる人もいるそうです」

「「……」」

 鉈内も夜来も押し黙る。

 やはり、犯人は秋羽伊那の可能性が高い。

 もちろん確証は存在しない。しかし、彼女は鉈内達の前でも『悪党は死ぬべきだ』と断言して魂を奪う行為を正当化しているようだったのは事実。秋羽はなぜか『悪党』だけの魂を食い奪っているのだ。

 だからこそ。

 その『急死事件』の犯人は『死神の呪い』を宿した彼女の可能性が非常に高い。

「ありがとうお姉さん、助かったよ」

「……仕事中に悪ぃな」

 鉈内も夜来も、調査に協力してくれた心優しい女性店員にお礼を告げてから踵を返す。

 その時だった。


「久しぶりだねー茶髪のガキンチョ」

 ガランガラン、とファミレスのドアを開けて店内に入出してきた数人の不良がガンを付けてきたのは。


 当然夜来の知り合いではない。そもそも彼は茶髪ですらない。

 が、しかし。彼でないなら誰の知り合いかというと……。

「んー? んー? あーあーあーあー、確かちょっと前に僕にボッコボッコにされた人達じゃーん。どうしたのぉ? なーんかお友達も増えちゃってさぁ」

 秋羽伊那を救った際にお灸をすえてやった不良達だと思い出した鉈内。

 そんな彼と夜来の周りを囲む八人程度の不良達。明らかに人数が増えていて、目的がなんなのかは復讐の色が混じった目からして明白だった。

 いわゆる、お礼参りというやつだ。

「おら、ちっとツラ貸せや茶髪」

「うっわー、なにこれもしかして僕大ピンチー? ちょーウケるわ」

「調子乗んのもいい加減にしろや!! 絶対ぇ殺してやるからなコラァ!!」

 不良達のリーダーと思われる長身の男と鉈内のやり取りを眺めている夜来。

 もちろん夜来初三は無関係だ。だというのにこんな面倒くさい状況に巻き込まれてしまえばイラついてしまうのも必然だろう。

「……おいチャラ男」

「なにかなやっくん」

 夜来は周りに群がっている不良達と、怯えている店内の者達も含めて全員を視線で一通り見回し、

「テメェのマイブームは随分とハタ迷惑的らしいなァ。つーか俺までテメェのドタバタに巻き込んでんじゃねぇよ、このクソボケ」

「あれ? あれれ? もしかしてやっくん、ビビっちゃってんのー? あーごめんね、こんな怖い人達に囲まれたら、か弱いやっくんはぶるっちゃって指一本動かせないよねー」

 ビュッッ!! 迎え撃つように挑発してくる鉈内の顔面に、近くにあった客待ち名簿のボールペンを掴み取って突き刺した夜来。が、ボールペンの先は鉈内の左目に直撃するギリギリの位置で停止している。

「それ以上その薄汚ぇ口臭撒き散らしやがったら眼球かき回すぞ―――ゴミクズが」

「うわわわー。ちょー怖いもうすんごく怖いわー。まぁ考えてあげるよ―――うすらハゲ」

「ンだぁ? そんなに自殺願望があったとは驚きだねぇマゾ男くん? 俺ちょーびっくりだわ、本格的に引いちまったぜドMクソチャラ男」

「えー、ちょっと悲しいなぁ。常に周囲から引かれてるやっくんに引かれるとかちょー悲しいわー。僕ってば自己嫌悪しそう。悲しいなう」

 鉈内が言い返した瞬間、夜来はついに激昂して持っていたボールペンを全力で彼の左目めがけて引き裂くように投擲した。しかし目には直撃することはせずに、投げられたボールペンは二人を囲んでいる不良達の間を猛烈な速度で駆け抜けて、壁にガァン!! と激突してバラバラにぶち壊れた。

 鉈内は口元に手をやって笑い、

「ぷぷっ、ちょーダッサー! マジでダサいわ本当ダッサイ!! なに外しちゃってんのマジ恥ずかしいわー!!」

「気ィ遣って外してやったのが分からねぇたァ相当頭にウジが湧いてるみてぇだなあ!! いい加減死んでこの俺に詫びてみろよボケナスがァ!!」

「はあ!? そっちこそさっさと爆笑必至の死体にチェンジして葬式開いてもらえよタコが!! マジでその顔見ててムカつくんだっつの!!」

 そのあまりの喧嘩のレベルに度肝を抜かれている店内の人間達。店員も客も含めて、唖然とした顔で二人の様子を凝視している。

 そして。

 ……完全に存在を忘れらている不良達。

 彼らのリーダーである長身の男はついに我慢しきれなくなったのか、

「お、俺らのこと忘れてんじゃねぇぞゴラァ!! さっきは油断してたからてめぇに負けたが、今度こそボコボコに調理してやんよォ!! お隣のお友達も合わせて一緒になァ!!」


「「―――あ?」」


 そこで初めて。

 彼ら二人の喧嘩に落ち着きが現れた。

 同時に振り向いて声が重なった鉈内と夜来は、そのまま長身の不良を血走った目で凝視し、

「「今、なんつった?」」

 おぞましい声だった。

 まるで地獄の底から響いてくるような恐ろしい声。

 その威圧感と恐怖によって一歩後ずさった長身の不良は、

「え、え? い、いやだから、そこの奴も一緒にボコボコにしてや―――」

「「お友達―――とか言ったよな? お前」」

「あ、ああ」

 夜来と鉈内のドスが効いた声の音がシンクロして鳴り響く。

 さらに彼らの目には明らかに―――殺る気に満ちている色が塗りつぶされていた。

 ……間違いなく、キレている。

「このクソチャラ男と―――」

「ここの前髪ヤクザと―――」

 視線は長身の不良にロックオンさせたまま、お互いに指を向け合って、


「「お友達?」」

 

 ごくり、と生唾を飲み込んだ不良達。

 背筋が盛大に凍ってしまった不良達。

 恐怖のあまり一歩後ずさった不良達。 

 そんな彼らをギロりと睨みつけている二人の少年。

 前髪が長く全身黒ずくめで目つきの悪い少年は、首元に手を添えて首の関節をゴキゴキと鳴らし、

 パーカーを着用していて茶髪が目立つ少年は、拳の関節をコキコキと鳴らして薄く笑い、


「「表出ろコラ」」


 自分たちに群がる不良共に対してそう言い放った。

 ……殺る気満々で。



 





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