遭遇
「おいおいスッゲーな。何だよ張り切ってるじゃねえか」
豹栄真介は返り血に塗れた夜来の姿に口笛を吹いた。対して、たった今肉塊に変えてやった若い女を空き缶を蹴り飛ばすようにして簡単な掃除を行った夜来初三はゆっくりと振り返った。
「何でここにいる」
「殺して回ってたら、どっかのクソガキとバッタリ遭遇しちゃった」
「そりゃお互い不幸なもんだな」
「まったくだ」
二人は外にいた。『エンジェル』の本部の最上階よりも上の屋上庭園にいたのである。室内で襲撃してやったのだから、馬鹿な奴らは必死に逃げ回って身を潜めることが多い。故に夜来は屋上へ足を運んだのだが、見事に幾つかの敗兵が屋上に身を潜めていた。
ここは屋上庭園故に、屋上とは言い難いほどにメルヘンチックな花や木が生い茂っている。まるで童話の世界に迷い込んだようだった。尚更、豹栄も夜来もお互いにお互いを毛嫌いしている関係上から、メルヘンなここに二人きりというのはめちゃくちゃ気持ち悪いのだが。
「で、残りはいくつぐらいだ?」
「知るか。数える暇ァあんならせっせと働けシスコン」
夜来は吐き捨ててから、クルリと踵を返す。
豹栄真介の横を素通りして、カツカツと足音を鳴らして立ち去っていく。
しかし。
その途中で。
ガン!! と、いきなり土色の翼を生やした豹栄真介が、そのウロボロスの右翼を使って夜来初三を叩き飛ばしていた。
突然の事態。
しかし夜来初三に怪我はない。『絶対破壊』を微弱ながらも肌に設定していたため、翼自体を破壊することはできなかったが衝撃、威力、感触までは確実に破壊した。
故に大きなゴムボールが当たったようなもの。
ほとんど回避をするために吹っ飛んだのだ。自分から豹栄との距離を取り、態勢を立て直して、右手に魔力を集中させる。
「テメェ、死に場所ぐらい選べよ。こんなクソッたれな場所に墓ァ立てる気か?」
「……やっぱボランティア活動はいいことねえな」
あ? と夜来が疑問の声を上げた。
その時。
突如、先ほどまで夜来初三が立っていた場所から半径五メートルの床が膨れ上がってきた。噴火活動を行う前兆のようなものだ。ビシビシと亀裂が走って行って、次第に膨らんでいた場所は風船のようにパンパンになり、
直径五メートルの横幅を持つ莫大な閃光が突き出てきた。
ゴッッッ!!!! と鼓膜を叩く爆音が響く。その威力も規模も、あのとき通常時に切り替えていた『絶対破壊』を纏っていた夜来初三では破壊しきれなかったレベルだ。
間違いなく、この一撃は奇襲というやつだ。
破壊の嵐が次第に止む。
奈落の底が出来上がった場所を挟んで立っている夜来初三と豹栄真介。彼らはお互いをなぜか睨みつけていた。これはでまるで敵対する者同士である。とても仲間とは思えない。
しかし。
「……どういうつもりだ」
「お前が死んだら使える従業員が減る。会社の経営を安定させるのも俺の役目だ」
「礼なんざ言わねぇぞ」
「欲しくもねえよ、誤解してんじゃねえよゲロ野郎が」
「チッ」
結果的には借りを作ってしまった。夜来からしたら、『豹栄真介に助けられた』という事実が形ながらも出来上がってしまった現状だけで、腸が煮えくり返る思いである。
故に。
「おいクソ野郎。引き金を引いたのはテメェだ。どうしてくれる」
そのムカつくきっかけを作った奇襲相手を睨みつける。そいつは破壊の閃光が走ったことで出来た穴を使ったのかどうかは知らないが、いつの間にか夜来と豹栄の二人から距離が離れたところに立っていた。
庭園であるこの場所でも、もっとも綺麗な白い花が咲き誇る木々の下だ。
「夜来初三に豹栄真介かー。なーんか面白い組み合わせだなー」
無気力な声が響く。
こげ茶色の長い髪を、ドレッドヘアーにしてポニーテールに結んでいる男だった。その髪型も特徴的ではあり、褐色の肌をした男らしい肌の色も目立つ。服装も妙だ。肌寒いこの季節には少々不釣合いな、赤と黒のボーダー柄をしたジャージを上半身にも下半身にも纏っている。
ガラが悪そうに見えるが、眠そうな顔から一切威圧感は感じない。
常にダラダラしてそうな想像がつく、大学生くらいの男だ。
「あー、いやごめんね。俺も特別お前らに恨みとか憎しみとかダークな思い入れがあるわけじゃないのよ。けど仕事だし。っていうか奇襲したのって、そっちからだからお互い様?」
「自己紹介はどうした。入学式の後にやるあれだよあれ。それだけで学校生活のスタートをこけるかダッシュできるか区別される悪夢の儀式はどうした。さっさとやれよコラ」
「あ、ごめん。何か嫌なこと思い出させちゃった?」
「うるせぇ。俺のスクールライフに触れるな。凍傷で死ぬぞ」
「えぇー、凍傷になるほど冷たかったの? 何か本当にごめんね?」
あまりにも敵……とは感じられない男。敵意も殺意も感じ取れない眠たそうな顔からして、懐を探りにくい面倒なやつだとは豹栄も夜来も理解できた。
夜来初三との会話を一旦区切り、彼は言った。
「霜上陸っすー。お見知りおきを……でいいのか?」




