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クソッたれ

 どこまで現実は腐っているのだろう。

 今、同じ時間、別の場所では、

 温かい家族と共に家で談笑している子供がいるだろう。

 友達と一緒に遊び回って笑顔でいる子供がいるだろう。

 お母さんやお父さんと手をつないで散歩をしている子供がいるだろう。

 なのに。

 だというのに、上岡の視界に映る子供達はどうだ? 彼らは、今まさに幸せでいる子供達と同じ子供だというのに、なぜあんなにも死にかけた姿でやつれているのだ? ズタボロになって手錠で拘束されていて、この薄汚い部屋の中に監禁されているのだ?

 あまりにも、彼らは報われなさすぎる。他の子供は外で友達と鬼ごっこをし、両親とご飯でも仲良く食べているというのに、彼らはここで食事も駆け回ることもできずに生きている。

 おかしいだろう。

 この世はどこまでもおかしいのだ。

 故に、

「あはははははははははははははははは!! あ――っはははははははははははははははッッ!!」

 上岡は笑いが止まらない。自分も『子供の頃から実験動物として生きてきた』からこそ、目の前で実験動物として生きている子供達を見ると、昔の自分を思い出してしまう。こんなオカルト臭プンプンの実験に利用される気持ちは非常に共感できた。

 だから笑ってしまう。

 おかしい現実。

 自分とデジャブする子供達

 この二つの要素によって、彼の笑いのツボは的確に突かれていた。

 そして同時に、



「ふざっけるなァァああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」



 猛烈な怒りと殺意が湧き出てくる。『上岡真』として生きている上岡真かいぶつだからこそ、あの実験を鮮明に覚えているからこそ、今目の前で絶望している子供達が『どういう苦しみ』を味わったのかは理解している。

 故に。

(実験をしてる場所はここ!! 同時にここはクズ共の拠点!!)

 尚更。

 腹が立って、全部全部ぶっ殺してやりたくなる。

「が、あァァああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 いつもの彼からは想像もつかない雄叫びが上がった。上岡の周りには子供達を閉じ込めていた部屋の壁しかない。コンクリートの頑丈な壁である。しかし構わない。上岡真かいぶつにとっては、人間が作り出した程度の技術に従い製造されたコンクリート壁など紙くずだ。

 つまり。



 人間の常識は怪物の常識に通用しない。

 


 上岡は叫びながら、すぐ近くにあった壁を殴りつけた。それだけだ。ただ拳を一撃振り下ろしただけで、ゴガッッ!! と壁から先の『世界』が完全完璧に消し飛んでしまう。本当に文字通り、上岡の拳の先には『荒野』が広がっていた。

 歪み一つない『無』を生産したのだ。

 粉塵が舞う。

 怪物の手によって、奴らの本部であるこの巨大施設の三分の一程度が消失したのだった。

(……殺そう)

 上岡は笑顔をゆっくりと取り戻す。いきなりの絶対的破壊現象に唖然としている子供達は、目を見開いて上岡を凝視していた。しかし彼は気にしない。ただ今は、改めて自分の精神状態を整理している最中だった。

(殺そう。はは、殺して殺そう。また性懲りもなく同じ過ちを繰り返す馬鹿を、生かしていく気はない。全部殺しますよ、決めました。全部というのは『この施設』も含めて、全部です。奴らの存在を示す存在はまとめて絶命させる)

 上岡は一息吐いた。

『エンジェル』の本部? そんなもの怪物が本気を出せば即座に散る。『エンジェル』の下っ端だとか、脅されて無理やり『エンジェル』として活動してたとか、守りたいものがある故に『エンジェル』に在籍してたとか、いろいろな『理由』を持った者がたくさんいるだろう。

 しかし。

 上岡はもう知らない。

 細胞一つ残すことなく、『エンジェル』の味方をするカス共は引き裂いてやる。涙溢れる理由で誰かを守るために『エンジェル』にいる者も目玉を弾いて爪を剥がしてやる。確実に全員の心臓を止めて、脳をミキサーにぶち込んでかき混ぜてやる。

(ここは連中の本部。もう一つ本部があるらしいけども、未だに見つかってはいない。ならここだけでも消す。今はここだけでも、ここだけでも抹消させる。……しかしその前に)

 怪物はニッコリと笑った。

 いつもの『顔』へ完璧に戻った怪物うえおかは、未だに呆然としている子供達に顔を上げて、

「見苦しい姿をお見せして申し訳ない」

 彼は子供達の傍に歩いていく。それだけで、捨てられた子犬のように子供達は肩をビクリと跳ね上げた。怯えている。『実験』として大人達に様々な激痛を塗りたくられてきたからだろう。上岡を『エンジェル』の者と勘違いしているのだ。

 しかし上岡は冷静な対応を取った。

「ご安心を。すぐに助けてあげますからねー」

 軽い調子で言った彼は、ヒョイと人差し指を振る。ただそれだけの動作で、ガシャン!! と子供達の自由を奪っていた拘束具は全て地面へ落ちていった。

 原因不明の力に、思わず動揺する子供達。

 そんな彼らの中で、一人の女の子が恐る恐る上岡を見上げながら、

「お兄さん……だれ……? 助けてくれるの……?」

「ええもちろん。僕を信用しろとはお願いしませんが、今だけはちょっと信頼して欲しいかなーなんて」

「……どうして、助けてくれるの?」

 単純な質問。

 それに対して、怪物かいぶつは『上岡うえおかまこと』として答えを告げた。

「『上岡真』なら、絶対に助けるだろうから助けるだけですよ」

 だから気を遣うことはないです、と上岡かいぶつは最後に微笑んだ。


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