殉職
『エンジェル』という組織は怪物の研究を行っているものでもある。彼らの本命の『計画』とは別に、怪物・呪いという非科学的な存在の詳しい解明を行っているというわけだ。そのため、『エンジェル』の第二本部であるこのアジトには大きな研究施設がある。
巨大な空間に並び立つ、パソコンの群れや複雑な形をした機械。そんなものしか存在しないこの研究室には、ざっと三十人近くの白衣をきた男女が仕事をしていた。
「ったく。相変わらず小難しい役割だよな。やってることなんざUMA研究家とか心霊研究家とか、たまーにテレビの出てくる奴らと同じことだってのに、何で俺らはこんな苦労してんのかね」
「確かに怪物の研究なんてそいつらと似たような仕事だろうが、俺らが夢見てる『計画』の進行は俺らじゃ役不足だ。本命の『計画』は由堂さんやザクロさん達、力ある者がやってくれてんだ。俺らも小さなことを頑張るしかねえよ」
会話を行っているのは、大きな円形の机の一部を使ってパソコンを打っている二人の男。何かのデータを作成しているようだが、発言からして相当な時間を作業に費やしているらしい。
「……そういや、由堂さん、殉職したそうだな」
「ああ、『そういうリスク』も承知の上で、あの人は『計画』の進行を最前線で勤めてたんだ。一方、俺らはここでキーボード打って機械ガチャガチャいじるだけだ。明らかに、十分に、楽をしてるだろうが。だからギャーギャー言わずに、手ェ動かせよ」
「ああ、そうだな。俺が悪かった」
素直に己の非を認めた男が、ふと己の腕へ装着されている時計へ目をやった。
そろそろ作業の交代時間だ。
「おい、B班と代わるぞ。せっかくの休み時間、謳歌しなきゃ損だ」
「もうそんな時間か。随分と早いな」
「あー、お前あれだろ。絶対一日の大半を勉強とか趣味とかに没頭しちゃって、気づいたら一日終わってましたチャンチャン的なあれだろ」
「お前は一日の大半をぼーっと過ごして一日を長く感じるあれだな」
軽い冗談を混ぜ込みながら、二人は椅子から立ち上がった。巨大な研究室故に、多くの人が行き交う中をうまい具合に歩いていく。全員仲間だ。自分たちと同じ、『計画』に魅了されて叶えたいことを現実にするべく集まった同士。
「なんつーか、みんな、頑張ってるな」
「何だよ急に。そりゃそうだろ、どいつもこいつも守りたい人、助けたい人、幸せにしたい存在がいるからこそ『エンジェル』として活動してんだ。まあもちろん、それでいろんな奴らを傷つけたこともあるし、ぶっちゃけ全員悪役ポジションだろうが」
「それでも、お前も俺も皆も『計画』のために戦うんだろ?」
「当たり前だ。しかし痺れるもんだな、こんなカッコイイ動機で死ねるなら本望だぜ」
「おいおい、死んだら全部パーだろ。不吉なことを言うなって」
そんな風に、どこか真面目な匂いを漂わせながらも苦笑して話をしている二人。自分たちが背負っている存在について各々考えているのか、歩くペースも落ちていく。
そのときだ。
本当に、唐突に、いきなりすぎるタイミングで、
ガン!! と、並んで歩いていた男の片方の頭蓋骨が砕け散った音がした。
正確には、研究室と外を遮断している窓ガラスも同時に砕け散ったので、狙撃されたということだ。
瞳の色を失くし、男は糸が切れた人形のように倒れてしまう。一切の受身も取ることなく、平衡器官が消失したのかと疑うほどに呆気なく転がった。
側頭部には穴が空いていた。
丁度右耳のすぐ上。
ドクドクと鮮血を零している傷口の場所から分かる通り、間違いなく脳を貫通していただろう。
「……は」
取り残された男は、友人であり仲間であった存在の絶命を前にして、あまりにも現実を受け入れられなかった。ただただ、言葉にならない音が喉で転がっている。
それでも、男は悲鳴や混乱が起こっている研究室の中で。
ふと、砕け散った窓ガラスの先へ顔を向けた。
「―――」
そして見た。よって息が止まった。
かなり遠い崖の上だ。タバコの火のような煙が巻き上がっている。焚き火にしては小さい煙だった。そして煙の発生ポイントには、一人の男がうつ伏せでいた。
その手に大型スナイパーライフルを持って、スコープを覗いている黒髪短髪の男がいたのだ。
そして、お互いの距離は凄まじく離れているというのに、目があったような気がした。甲高い悲鳴が上がる研究室の中で、友人を射殺された男はスコープを覗いてライフルを持つ男と目があったような気がした。
よって固まっていた。
直後に、
目があってしまったことが原因だろう。
ガン!! と、再び銃声が炸裂したと同時に、射出された鉛玉が残された男の眉間から後頭部を突き抜けていった。
まるで友の後を追うように死んだ男。筋力が消えたかのように後ろへ倒れた彼の姿によって、その他の男女は急いで研究室から飛び出ていく。
だがしかし。
入口となっていた扉を逃げ惑う中の一人の男が開いた瞬間、
ゴギュン!! と、扉を開けた男の顔が百八十度反対へ向き、首の骨が盛大に折れた音が炸裂する。
男の後ろにいた者たちは、唖然としながら背中にある男の白目を向いた顔をみて息を止めた。もはや何も言えない。ただ分かるのは、あれは確実に死んだということ。
と、そこで。
男の体が蹴り飛ばされた。真横へ吹っ飛んでいった後に、壁に激突して生ゴミへと完全に変わる。
そして男を蹴り飛ばした張本人こそが、
「ちーっす。テメェら全員埋葬しにきましたぁー、ぎゃははは!!」
全身黒ずくめの死神が、そこには邪悪に存在していた。まるでからかうように笑った彼の笑顔は、突如、快楽殺人鬼そのものへと変貌する。
この瞬間。
極悪人の虐殺劇が開幕した。
『デーモン』・・・・・・えげつない(笑)




