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変態街道横断

「こ、このガキィ……!!」   

 もとはと言えば、数時間前にサタンが『コンビニのハンバーガーを食べてみたい』とか言い出したことがきっかけで、夜来は面倒ながらも近場のコンビニエンスストアに向かったのだ。その結果、この有様である。彼の目が血走っているのも頷ける、理不尽な悪魔の注文が全ての元凶だ。

 のそりと夜来はベッドから起き上がる。

 そして、頬をぷくーっと膨らませているサタンの傍まで近づき、

「生意気言ってる口はこの口か? ああん?」

「ふぁう」

 サタンの唇をきゅっと指で摘んで、目と鼻の先で低く言い放つ。

 が、なぜだか効果は変なベクトルへ変わり、

「あ、ああ……こ、こひょう。わらはいやばふぁい。ちょーやふぁい」

「は? なに?」

 なぜか顔を赤くして何かを伝えようとしているので、手を離す。

 するとサタンは恍惚とした顔のまま、両手をゆらりと夜来に向けて、

「わ、我輩ってば、小僧のドSっぷりのせいで―――何かMに目覚めちゃった。や、やばい。小僧にぶたれたくて欲情してきちゃった。こ、これホントやばいマジやばい」

「変態街道横断しちまったのか!?」

「こ、小僧殴って。小僧なら殴っていいから。マジで何かいろいろやっていいから。え、エッチなことも大歓迎だから殴って目隠しして拘束して無理やり襲っていいから!」

「う、うぉぉぉ!? く、来るな這いよってくんなドクソがァァああ!! こ、こっちくんなっつってんだろ!! マジでよるな変態!! っつーか自称マゾヒストのくせして何でンな積極的なんだよぉぉおお!?」

 何だか変態を極めてしまったサタンのようだが、無理やり夜来の胸にのしかかってニヤニヤと発情しているところからして、おそらくはSもMも両方いけるのだろう。……もはやサタンに打つ手なし。無理やり攻撃しても興奮されて、大人しくしていれば無理やり攻撃される。変態王・サタンの誕生シーンだった。

「だ、だから近寄んな!! 殺すぞドクソガァ!!」

「うぎゃ!?」

 一方的に押し倒されていた夜来は、無造作にサタンを蹴り飛ばす。

 可愛らしい悲鳴と共に床を転がるサタンだったが、ゆっくりと顔を床から上げると、

「あ、あふん……あ、ああいい結構いい、今の凄くイイ。ご、ご主人様ってよぼっか? 小僧のこともうご主人様って呼ぼっか!? そうして一線超えちゃおっか!?」

「何で気持ちよさそうなのお前!?」

 そんな感じでいつも通りのやり取りをしている二人。彼らの関係は一切変わらず、何も変化はない微笑ましいことだった。

 だがそこで。

 夜来初三の携帯電話から着信音が鳴り響き出す。彼はニヤニヤと笑いながら胸に頬を擦り当ててくるサタンを放っておいて、面倒くさそうに電話を取った。

 画面には『スマイル野郎』とだけ書かれてある。

 誰かは言うまでもなかった。

 つまりこの着信が意味するものは、


 

 クソッタれな闇の世界への出陣コールである。



 夜来初三はため息を吐いて携帯電話を閉じ、

「オラ、行くぞクソガキ」

「え、マジで? もうイクのか? 小僧ってば早漏!? っていうか敏感すぎじゃね!?」

「……………………………後で殺す」

「こ、小僧? あのな? そうやってボソボソと言う感じの殺すって怖いんだよ? ハッキリ言ってくれないと本気だと思っちゃうんだよ? 我輩マジで今ビビってるんだよ? だ、だからね、ハッキリ殺すって言おう! そうしたら冗談だって分か―――」

 いちいち下の方に持っていく変態悪魔の着ているゴスロリ服の襟首を引っつかみ、ズルズルと部屋から出て行く夜来。ああだこうだと喋っているサタンには一切の耳を貸さずに、彼は額に青筋を浮かべながら仕事場へ直行していった。 

 


 

 

  

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