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悲しい結末

 出口のない迷路に迷い込んでいるような困惑に飲み込まれる鉈内。そんな彼に襟首を掴まれているままの少女は、ふと、急に笑顔を濃くした。

 今までの恐ろしい笑顔とは違う。

 待ち望んでいたモノが手に入ったような、幸せそうな笑顔。

「ああ、お兄ちゃん。やっと終わったよ。きっと世ノ華雪花も死んだよね……うん、そうだ死んだ。死んだよ。そして雪白千蘭にも、お薬うった。あいつも死ぬ。だから、だからさぁお兄ちゃん。頭、撫でてよ。よくやった、って褒めてよ。お兄ちゃんのために頑張ったんだよ、ねぇ、褒めてよ……褒めてよ」

 少女、本道詩織はゆっくりと右手を夕焼け空に向けて突き出した。赤く染まった雲を掴み取るように、天へ届かせるように、なにかを握り得るようにして。

 まるで。

 まるで。

 天国にいるだろう兄へ会いたがるようにして。

 呟く。

 お兄ちゃんに、呟く。

「もうさ、全部やったよ……? ずっとずっとお兄ちゃんとしか向き合えなかった、怖くて怖くて震えて、ずっとずっとお兄ちゃんにしがみついてた私が……お兄ちゃんのために、頑張って、やり遂げたんだよ……? すごいよね? 私、少しは成長したよね?」

 両親には見捨てられ、生まれつき酷く脆い故にまともな生活が出来ず、精神的にもボロボロだった本道詩織。しかし、倒れそうになった彼女をどんな時でも支えてくれた、自慢の兄はいつまでたっても詩織を褒めてくれなかった。いつまでたっても、頭をなでてくれる気配はなかった。

 それも仕方ない。

 なぜなら兄は、見上げている夕焼け空の先にいるのだから。

「ああ、そっか。ごめんねお兄ちゃん。褒めたくても、そんなに遠いんじゃ、私の頭、撫でられないよね」

 彼女は笑顔だった。

 しかし笑顔のままだというのに、その両目からは涙が溢れてきた。あまりにも表情とは不釣り合いすぎる涙。それは一筋だなんて程度ではなく、ポロポロと彼女の頬を伝って床へ弾ける。

 思わず、鉈内は彼女から手を離していた。

 距離を取って、呆然としながら本道詩織を見つめ続ける。夕焼け空に両手を伸ばして、いつまでも泣きながら幸せそうな笑顔でいる詩織を見つめる。

「あはは、お兄ちゃんってば届かないよ。そこじゃ届かない。もっと来てよ、もっと、ちゃんと、私のことナデナデしてよ」

 鉈内には何も見えない。おそらく、きっと、誰にも『お兄ちゃん』なんて視界に映らない。だがそれでも、彼女の目には何かが見えているのだろう。

 大好きなお兄ちゃんが、しっかりと存在しているのだろう。

 だが、もちろん、現実は、

「そうだよね。来れないよね。だってお兄ちゃん、死んじゃったもんね」

 本道詩織はそう言って、微笑む。

 誰もいない空に、微笑む。

 何もない空へ、微笑む。

 そして、

「じゃあ、私がお兄ちゃんのところに行けばいいよね」

 本道詩織はボロボロと泣きながら、笑いながら、続けてニッコリと天国に向けて告げた。



「そうしたら、きっと、『よくやった』って、お兄ちゃんは褒めてくれるよね?」


 

 嫌な音が、直後に聞こえた。

 鉈内翔縁も七色夕那も、肉が潰れたような響きを鼓膜が受け取ってしまう。さらに目は捉えてしまう。ブチリ、と思い切り舌を噛みちぎった本道詩織の口から飛び出る赤いシャワーを。

 水道から水が出るような音と共に、鉈内の服にはビシャビシャと鮮血がかかっていく。そして音が止む。代わりに、バタリと死体となって倒れた―――哀れな少女の骸がそこにはあった。

「な……んで……」

 ここまで異質な人間の死を、鉈内は初めて見た。

 ただ『兄に褒めてもらいたい。でも兄は死んでる。じゃあ死んで兄のもとへ行き褒めてもらおう』なんて理由のみで舌を噛みちぎった少女の結末は、あまりにも理解が追いつかないものだった。

 近くには赤い塊が転がっている。

 おそらくは、舌だろう。死体からかけ離れてしまった、可哀想なパーツだろう。

 こうして全ては終わる。


 復讐に従う悪人は死んだ。

 男を憎む悪人はもうすぐ死ぬ。

 全てが全て『死』に覆い尽くされただけが結果となり、救いなんてものはどこにもない。






 復讐に従う悪。

 ただただ憎き相手を屍に変えるためだけに動いた悪人。そんな悪人は、結局、会いたくて会いたくて仕方ない相手のもとへと旅立ってしまった。理由は単純。復讐が終わったからだ。やるべきことがなくなったからだ。

 復讐を遂行してしまった故に、これから生きていく気力さえも消失してしまったからだ。

 復讐とは、言わば目標。つまり目標を達成してしまえば、もう目指すものはなくなる。その結果、膨大な無気力感に『生きる意思』が飲み込まれて、彼女は最終的に死を迎えた。

 すなわち。

 復讐を終えて、もう生きる意味などなくなり、無性に兄へ会いたい気持ちが心を支配したことで自殺した。 

 それだけだった。

 彼女が生きる理由なんて、復讐という目標ただ一つだった。

 だから、それが消えた今。

 彼女が生命活動を続行する理由なんて、一体どこにあるというのだろう?

 結論。


 

 復讐を終えた悪人に未来は皆無。



 それだけの悲しい結末が、両手を広げて待っているのだ。

 それだけの悪だったのだ。

 


 

  

 

鬱展開になりそうな終わり方で、復讐に従う悪は完結です・・・どうでしたでしょうか? おそらくは今までに章(~悪)の中でも一番短い悪人話だったと思います。

 

なんとなく、最後は雪白ちゃんがあのままですし『完結』とは言い難い雰囲気ですが、実質的には完結なんです。なぜなら今回の悪人話は『復讐に従う悪人』を描いたものだから。雪白千蘭と世ノ華雪花が主人公見えて、実際は敵キャラの本道詩織ちゃんが『主人公』なんです。

なので、最終的に彼女は『死』という最後を遂げたので『復讐に従う悪』は完全完璧に完結はしてます(笑) 



本道詩織ちゃんは、本文でも書いてありますとおり、『復讐を成功させたことで生きる意味』がなくなってしまいました。よって兄が待つ天国・・・いや、地獄かもしれませんが、とにかくあっさりと死んだんですね。


復讐はしている間はいいのだが、終わったあとは『何もすることがない』んです。よって存在理由が消失した詩織ちゃんは舌を噛んであっさりと自殺しました。


もしかしたら、今回の笑いながら自殺という終わり方は、一番ダークファンタジー臭がプンプンしたかもしれません。今までの悪人話でも、死人は結構でましたが、『自殺』という最後を迎えた敵―――悪人は本道詩織が初めてです。


兄の本道賢一も、妹の本道詩織も、どちらも『微塵も報われることなく』死んでしまいました。おそらく、一番今までやってきた、悪人話の中でも悲しい結末だったと思います。男を憎む悪、滅亡させる悪、生死を分ける悪・・・・・・と続いた悪人話でも、もっとも『ある意味』ダークだったのはこの話かと。



さて、雪白ちゃんの寿命は一週間だとかなんとか。なぜ一週間も持つのか? 『王』とは何か? 彼女は死ぬのか? っつーかあのドSヤクザは何やってんだよオイ、などのお言葉があるかと思われますが、徐々に伏線や疑問は回収しますので、これからもお目を通して頂けると幸いです!



だんだん『エンジェル』編も進展してきました。次章からはもっと大胆に動かしたいです。


ご感想、評価、良ければお願いいたします。



雪白ちゃん、どうなっちゃうんだろう・・・・・作者の自分が何を言ってるんだろう(笑) 彼女を生かすも『殺す』も・・・全て我輩の手だというのに・・・・・・・・・・危ない匂いでいっぱいですね(笑)

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