ロウソクの火
時間帯は夕方だ。
空は綺麗な夕焼けに染まり、幻想的な世界へ出来上がっている。
「残るはここだね」
「そうじゃな。消去法だなんて原始的なやり方じゃったが、仕方ない」
世ノ華雪花を七色寺まで運んだ鉈内と七色。『羅刹鬼の呪い』にかかっている故に、世ノ華は死ぬことはないだろうが、安静にする必要は大いにあった。しかし問題はもう一つ残っている。雪白千蘭の居場所が未だに分かっていないということだった。
よって、鉈内と七色は街中を縦横無尽に駆け回っていたのだ。
雪白が戦闘中ということを考慮すれば、必然的に居場所の特定は可能になった。人気がない、一般人を巻き込まない、暴れまわっても問題ない、そんな舞台は限られてくる。
そして。
ひたすらに街中を探し回った結果、最後に残ったのは鉈内と七色が見上げている廃ビルだった。見覚えある忌々しい廃ビル。しかし暴れまわるにはもってこいの場所でもあるので、鉈内と七色は顔を見合わせてから室内へ向かった。
汚れた階段を駆け上がりながら、二人はそこで違和感に気づく。
音がしなかった。
殺し合っている、暴れ合っている、命の奪い合いを行っているだろう轟音、破壊音、大声、足音、そういった『戦っている証拠』となる存在が空っぽだった。
その事実が意味する答えは二つ。
一、雪白千蘭はここで戦っていない。
二、雪白千蘭と敵の『決着』がついてしまっている。
「……急ごう、夕那さん」
二の可能性を考えた鉈内は、思わず顔を青くする。万が一にも雪白千蘭のほうが敗北していたというのならば、それこそ最悪の現実となるだろう。決着がついたということは分かっても、『どちら』が敗北したのか、負けたのか、はたまた死んだのかまでは謎のまま。
よって鉈内と七色は一番最後の八階まで駆け上がった。
そこには一つの部屋がある。
残るはここだけ。
ここに死体があるのか、誰もいないのか、それは扉を蹴破れば全て解明する。
「雪白ちゃん!!」
頭よりも体が先に動いた鉈内。
七色の横を通って、無造作に靴底を腐敗していた扉へ叩き込む。簡単にドアは外れて、ガシャン!! と豪快に転倒の音を響かせた。
「「―――っ」」
そして入出してから、見た。
鉈内も七色も、目を見開いてそれを見た。
ガクガクと全身で痙攣するように震えて、うつ伏せで倒れている雪白千蘭の悲惨な姿を。
血を流しているわけではない、傷が深いわけでもない、重傷なわけでもない―――ただし、何かやばい薬でも多重摂取したかのような、異常な状態で震えていた。
「……ぁ……っっ…………か、………ぁ……」
そんな呼吸しか出来ずに、雪白は瞳孔を開いたまま吐息を漏らしている。痛々しいというより、すぐにでも力尽きてしまいそうな、ロウソクの火みたいな脆さだった。
時たまビクンと跳ね上がる肩。
助けを求めているのか、恐怖から逃げているのか、もぞもぞと這う白い腕。そんな状態へなった過程すら分からない鉈内と七色だったが、二人はすぐに呆然としていた自分を振り払って雪白に駆け寄った。
鉈内はしゃがんで、咄嗟に雪白を上半身だけ抱き起こす。
「雪白ちゃん!! ねぇ、聞こえてる!? 僕のこと見えてるよね!?」
「おい雪白!! 儂じゃ、分かるな? こっちに目を向けろ、おい!!」
呼びかけるが、雪白の目はどこにも向かないままだった。眼球自体がピクリとも動かず、死んだかのような瞳をしている。しかし心臓は動いているし、体だって時たま動くし、意識も残っていることからして生きている。
そう。生きてはいる。
しかし、植物人間のようになった彼女の様子を見ても尚、『生きている』という理由のみで安心なんて絶対にできない。
・・・・おい、え、ちょ・・・・・みたいな展開です(笑) ユッキー(雪白)どうなっちゃうのやら・・




