レーダー
場所は廃ビルの屋根のない一室。
高さは八階だ。
そこには二人の少女がにらみ合っている構図が続いていたのだが、ついに状況も変化する。
(っ!? 消えた……!?)
雪白千蘭の視界から、本道詩織の姿が消えた。その現象には度肝を抜かれた雪白だったが、敵の居場所が掴めない現状、何の対応もできるはずがない。
よって。
ズガン!! という衝撃が背中に突如走り、無様に床を転がっていく。
(後ろだと!?)
咄嗟に態勢を立て直して振り向けば、そこには虚ろな目をした本道詩織が立っていた。おそらくは蹴り飛ばされたのだろう。だが、そこまでの過程である『移動』の速度が早すぎた。
目では追いつけない。
異次元すぎる移動速度だ。
(どういう理屈かは知らんが、目で見えないなら……)
直後に、思案している雪白の目の前から、再び一瞬で本道詩織は消えた。雪白の力はあくまで清姫の炎。とてもじゃないが、スピードタイプに応戦できる能力は持ち合わせていない。
「……遅い……死ね……」
またもや雪白の背後へ回った本道詩織は、もう一度同じ要領で強烈な蹴りを叩き込んだ。今度は背骨を折る。その意思がさらに彼女の脚力を倍増させていた。
しかし。
ひらり、と雪白は身を翻すだけで蹴りを鮮やかに避けてみせる。
「っ!?」
「遅いだと。どの口が吠えているんだ? ん?」
余裕たっぷりの笑みから出てきた言葉。雪白はそれだけ絶対的なまでの自信があるということだろう。回避したことで即座に反撃に出た雪白は、強烈な回し蹴りを本道詩織の側頭部に叩き込んだ。
ガン!! と脳みそを揺らされた詩織。
フラフラと後ろへ後退するが、あまりダメージにはなっていないようで表情は変わっていない。
「……なんで、よけれたの……?」
「ハッ。馬鹿馬鹿しい質問だな」
雪白千蘭は本道詩織のスピードについていけなかった。だというのに、彼女はあっさりとした調子で二撃目は回避してみせた。
この謎は、やはり詩織にも分からないらしい。
対して。
雪白千蘭はトントンと自分のこめかみを人差し指の先で叩き、
「お前の脳はよほど小さいらしい。頭を使え。ない頭を精一杯使って無様にあがけ……と言うのも悪くないが、それじゃつまらないな。いいだろう。教えてやる。どうせネタばらししても、こっちの優位性は変わらない。答えはレーダーだ」
「……レーダー……?」
「私の炎を『薄く床に張り巡らせている』んだ―――それがレーダーの役割を担っている。よって些細な動きさえあれば『炎は波立つ』んだよ。そしてこの場所には私とお前の二人しか動くものはない。ならば単純な話、私が動かない時に炎が波立てば、その波立った場所に『何か』が動いたということ。つまりお前だ」
「……なるほど……確かにそれじゃ私もどうしようもない……」
己の炎を薄く床全体に水平線のように広げておくことで、その炎に何かが触れれば炎は必ず揺れて動く。つまりレーダーだ。本道詩織の動きを追うのではなく、彼女の移動場所を瞬時に理解できる独自レーダを作り上げていたのだ。
やはり賢い。
やはり聡明。
やはり雪白千蘭は頭が回る天才だった。この短時間の間で、炎を利用した発見器のような代物を活用してしまう賢さは一種の武器であった。
ただ気がかりなのは。
(結局、アイツの速度を保っているものが分からない。魔力? 妖力? いや、違うな。もっと別の何かか。あいつの呪いの具体的な中身が未だ不明なままだ)




