最凶の『悪人祓い』
白咲黒乃はスクランブル交差点へ逃げて来ていた。人気がないことが好都合で、彼女はダメージの影響で重くなった足を動かしていた。
もはや撤退しかない。
自分以外の仲間は全て世ノ華雪花に撃破されてしまった。彼女は見た目とは裏腹に好んで人を殺すような人間性ではないので、おそらく皆生きてはいるだろう。いずれは『エンジェル』の負傷者回収班が回ってきて、綺麗に怪我人は救助されるはずだ。
ならば、後は自分の身を考えるしかない。本道詩織とは別動隊として行動していたので、助ける義理はそれほどはないのだ。
(逃げなきゃ……)
白咲は必死に歩いて、ここ天山市から離れようと歩みを止めない。近くには、この街までたどり着くことに利用したトラックがある。さらにトラックを使って移動すれば、いくらでも救助の声は仲間へ連絡可能だった。
故に。
希望は捨てずに歩く。
広い道路を、スクランブル交差点からスタートして歩いていく。
しかし。
そこで。
カン!! という、空き缶をポイ捨てしたような音が鳴り響いた
「っ」
遠くから、広い道路が広がっている先から、金色の影が見えた。神秘的な形だ。腰までストレートに伸びた金色の髪は美しく、メルヘンチックなワンピースが実に洋風な容姿と絡み合っていて似合い、片手にはアルコール飲料が入った缶がある。
そう。
やってきたのは。
『悪人祓い』で結成された大規模組織・『夜明けの月光』を従えるフラン・シャルエルだった。
彼女は一人だった。さらには十歳前後にしか見えない容姿もあってか、威圧感は一切感じられない。そこらへんの一般人では、迷子かと思い駆け寄るほどだろう。
だがしかし。
白咲黒乃は知っている。
『悪人祓い』だからこそ、知ってしまっている。
フラン・シャルエルという存在が、どれだけ驚異で危険で恐怖かを。さらに今更になって気づくが、周囲に人間がいないことがおかしい。まるで意図的に人払いをして、戦場の準備を整えていたようだった。
「……ぷはぁ。つーかよぉ」
フランは残っていた酒を飲み、味わって、喉を潤してから酔った調子は皆無な顔色で言ってきた。イライラが抑えきれていない声だ。酔っ払っていたら、それこそ吠えて暴れだしそうな魔物の唸り声が、彼女の声に身を潜めている。
「こっちゃあ昨日の夜から禁酒して、今日届くっつー七色からのアサヒちゃんを楽しみにしてたっつーのによぉ。あれだろォ? 聞いた話じゃ、テメェが私の酒ェ台無しにしたんだろォ? ふざけんなよ、オイ。大した根性だよなァ、私の生命活動に絶対必須な命の水をアスファルトにばら撒いたんだって? ハハ!! おいおいおいおい、スゲースゲー。超スゲーよ……スッゲー殺したくなってきたァ」
「……ぁ、か……」
本来、酒缶の詰め合わせを破壊したのは本道詩織の方なのだが、白咲は誤解を解く余裕なんてなかった。呼吸するという初歩的な事さえも忘れていたからだ。フラン・シャルエルの根本的な部分まで知っている故に、その恐ろしさが細胞を震え上がらせていたのだ。
なぜなら。
それも仕方ないことで。
フラン・シャルエルは『最凶』の『悪人祓い』として恐怖されてきた存在だったからだ。
七色夕那が『最強』の『悪人祓い』ならば、フラン・シャルエルは『最凶』の『悪人祓い』。
あまりにも乱暴で、強大で、手がつけられない狂犬のような『悪人祓い』だった故に、その膨大すぎる力を鞘に仕舞うことがきっかけで『夜明けの月光』を設立したらしい。言ってしまえば、自営業に切り替えて会社を作ったようなもの。
フラン・シャルエルが怪物退治に向かえば、怪物どころか街一つは半壊する話もあった。故に『悪人祓い』として活動するには、あまりにも危険だということで強制的に『悪人祓い』としての資格を剥奪されたらしい。
言わば、手のつけられない化物ということだ。
凶暴過ぎる行いによって、『悪人祓い』をクビになった狂獣ということだ。
ついに・・・・奴が・・・・




