最強の『悪人祓い』
彼は真剣な顔で世ノ華を見下ろしているが、しばらくすると肩をかすような形で世ノ華を抱き起こす。
「あ、んた……なんで……ここ……いん、のよ」
ポツリと、世ノ華が呟く。
「連続して炸裂する爆音。七色寺まで伝わる地響き。そんなもん感じたら、鈍感主人公に憧れてる僕だって気づくだろ。っていうか一人でなに相手にしてんの、仲間はずれとかショックだよ」
「……ガールズトーク的なアレだよ、アレ……」
そこで、背後から足音が聞こえた。
同時に、ソプラノの声も耳に滑り込んでくる。
「じゃあ、儂は女の子じゃないということか世ノ華。ええ?」
「っ。な、七色さんまで、何で……!?」
「じゃからお主が近所迷惑しとったからじゃろ。お主、自分のやったことを全部まるまる思い出してみろ」
確かに思えば、世ノ華は地面を叩き壊して衝撃波を広範囲に撒き散らしていた。今更ながら、七色寺まで影響が出るのも頷ける。今回ばかりは自分の馬鹿力に感謝するだけだった。
助けが来たことに、情けないことだが安堵の息を吐く世ノ華。
……だったのが、
「痛いな、ったくもお。女の子いきなり蹴り飛ばすとか、えーっと……鉈内翔縁だっけ? アンタ最低よ。そんなんじゃ独身貧乏決定ね」
「少なくとも、僕は正体不明の不審者女に使う優しさはない」
「ありゃま。こりゃ一本取られた取られた」
パンパンと埃を払ってから起き上がる白咲。彼女は鉈内に肩をすくめて苦笑すると、持っていた槍の先を突き立てた。
応戦する気だ。
そう誰もが思っただろうが、どうにも様子がおかしい。白咲は額から冷や汗を流していて、注意深く観察すれば分かるとおり―――怯んでいた。
まるで、肉食動物に睨まれている小鹿のような。
もちろん、この状況下においての肉食動物とはただ一人で、
「七色夕那……あなたは出ちゃダメでしょ。何でこう大先輩がルーキーの私と真っ向からやり合う気まんまんなの?」
七色夕那こそが恐怖の存在。
そこで世ノ華は気づくが、白咲黒乃は『悪人祓い』だった。ならば同じ仕事についている、最強クラスの伝説的『悪人祓い』―――七色夕那に怯むのも納得できる。
対して、七色は自分の存在価値があまり自覚できていないのか、
「はて? お主のような小娘とは会った覚えがないのう。……ううむ。あ、もしかし京子ちゃん? いやいや久しぶりじゃのう、元気してたー? まだ元彼の浮気引きずってるのー?」
「夕那さん、京子ちゃんは復縁したでしょ。あの女は敵だよ敵」
「え、マジで!? 儂ってば全然知らんかった!!」
……人違いという領域にまで達していた。ここまで来ると、もはや一種の嫌がらせである。
はぁ、と溜め息を吐いた白咲黒乃。
彼女は、で? と告げると、
「最強の『悪人祓い』が何の御用で? そっちの茶髪は戦力外だろうし、どうでもいいけど、あなただけはお引き取り願いたいわ。七色夕那さん」
「ふむ。ま、あれじゃ。世ノ華とは深い付き合いじゃし、ぶっちゃけ男二人しか子供がいない儂にとっては娘みたいなものじゃからな」
だから、と七色は付け足し、
「娘の体に傷をつけた罰じゃ。苦しめ小娘が」
七色夕那。
彼女は和服の中から御札を一枚取り出すと、呪文を短く唱えて放り投げた。宙に舞った御札は次第に発光していき、輝きを増していく。
『悪人祓い』の世界では、誰もが知っている実力者。
最強とまで称えられた七色夕那の絶対的実力は、今まさに一匹の小物へ牙を剥く。
御札が発光を超えて爆発を引き出した。核爆弾でも炸裂したのかと思うほどの光が一度だけ視界を覆う。しかし直後には、ズガガガガガガガガガガガガガガガ!! という閃光の嵐が炸裂した。先ほど、似たような攻撃を世ノ華は白咲から喰らった。あの時はなんとか対処できたのだが、明らかに七色夕那のものは次元が違う。自分じゃ一瞬で消し炭になっていただろう。
彼女の扱う『対怪物用戦闘術』は高レベルすぎる。
神をも殺す猛攻だった。
地面は地形そのものが変えられてしまい、戦場の跡に残された感覚。もはや一撃一撃が大砲から飛び出る破壊兵器と同種であり、最強の『悪人祓い』という肩書きが並ではないことが理解できる。
しかし。
「……逃げたわね」
「ああ、尻尾巻いて逃げ帰るとは腰抜けじゃ……と言いたいところじゃが、実力の差を認めて逃亡した判断力には素直に感服じゃのう」
死体はそこに残ってなかった。いや、そもそも七色の一撃は殺すためではなく鎮圧するためのものだったのだろう。それならば尚更、白咲黒乃の肉体が残っていなければおかしいのだが、やはり彼女は姿を消していた。
くそ、と世ノ華は吐き捨てる。
だが、
「まぁそう焦るな世ノ華。あやつが何者かは知らんが、きちんと残飯処理は任せてある」
「……? だ、誰にですか?」
七色はかすかに笑って、
「そりゃあいつに決まっとるじゃろ」




