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敗北

 上半身から無造作に、倒れふしてしまった。汚い地面に彼女の髪が這っている。沈むことも許さない固い土の感触と嫌な臭いは、まさしく敗者に与えられる苦汁そものだった。

「さーってと。世ノ華雪花撃破~! わーいわーい黒乃ちゃんバンザーイ!! 的なことをしたい気持ちもあるんだけどねぇ。何かあなたって中ボス的な存在だったし、RPG半分クリアした感覚がすんごい爽快なのよ。でもまぁ、とりあえず邪魔者を始末するってお決まり展開でいかなきゃね」

「……く、そがァ……!!」

 世ノ華はかすむ意識の中で、確かに唸った。

 瞬間。

 彼女の額に広がっていた『羅刹鬼の目』を表した紋様が広がっていく。目は次第に血走っていき、額から生えていた角は禍々しさと長さを増していく。

 そして。

 世ノ華雪花は這いつくばりながらも、魔王のような顔と声で絶叫した。

「舐めてんじゃねェぞ……!! 格下がァァあああああああああああああああああっっ!!」

 無理やり『羅刹鬼の呪い』を引き出したことで得た筋力を使い、地面に拳を振り下ろす。それだけで地盤は砕けて地上は崩壊するような現象を巻き起こし、ズガン!! と地面がズレ落ちる驚愕の天災が如き事態が発生する。

 だが。

 白咲黒乃はニタリと笑って、

「おしいんだけどなぁ」

「っ!?」

 ヒラリとした動作で世ノ華のもとへ近づいた。すると周囲一体の破壊には巻き込まれることはなく、無傷という状態で笑顔になる。

 まさかの事態に世ノ華は呆然とする。

「あのさ、なんていうか、君って天然さん?」

「な、んで……」

 困惑している世ノ華を見下ろして、白咲は言った。

「君は私を殺すためにさっきの大破壊を巻き起こした。ってことはさ、簡単な話、私を狙った攻撃であることに間違いはない。で、その攻撃ってのがポイントなんだけど。―――『自分を巻き込むような攻撃』を誰がすると思う? 普通、自分も怪我するような攻撃、誰だって無意識にしないよね?」

「っ」

「そ。つまり破壊を引き起こした張本人は君なんだから、どこまでを破壊するかは君が計算してる。なら話は簡単でさ。君の傍にいれば安全ってわけ。君が自滅する意思だったのなら話は別だけど、『自分を巻き込む攻撃』なんてしないよね。だから必然的に君の傍は安全地帯ってわけ」

 世ノ華雪花は世ノ華雪花を攻撃しない。ならば彼女の傍に移動するだけで、攻撃の危害に襲われる心配はないということだ。

 拳銃を持った者の周囲一体は弾丸が飛ぶので危険だが、拳銃の所有者が弾丸に襲われる心配はないのと同じ道理だった。

「じゃあ世ノ華雪花ちゃん。お別れの時間がやってきました」

 打つ手はない。

 逃げる手もない。

「さようなら、不良娘」

 白咲が構えた槍の先が、世ノ華の顔を捉える。逃げ道なんてない。辿る末路は脳みそがぶちまけられる結果だけ。

 世ノ華は目を瞑った。

 目の前の恐怖から逃げるように、瞼を強く下ろしたのだ。

 しかしそこで、

「っが!?」

 悲鳴が聞こえた。

 すぐ目の前で、丁度槍を構えていた女がいた場所で、甲高い声と同時に何かが転がっていく気配を感じた。

「……?」 

 疑問に思い、ふと目を開ける。

 そこには、白咲黒乃はいなかった。彼女は離れた場所で痛み苦しんでいるようで、こちらをギロリと睨みつけて片膝を折っている。

 代わりに。

 世ノ華の目の前にいたのは。



「どうして何も言ってくれなかった」


 

 茶色の髪、フード付きのパーカー、右手で握られている黒刀。そんな鉈内翔縁の姿が、そこにはあった。

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