ターン
まるで野球をするような感覚だったろう。鬼にとっては、その程度の驚異でしかなかったのだろう。見事にスイングされた金棒によって、閃光はホームランと感想を漏らすほどの勢いで術者である白咲黒乃のもとへ突っ込んでいく。
「っ、運動神経抜群だね!!」
跳ね返されたことには驚いたようで、白咲はバッと身をよじるように避ける。
しかし、その隙を鬼は見逃さない。
「こっちのターンだぞクソ野郎。ブルっちゃってガックガクになるのも分かるが、ちったァ笑えるリアクション取ってくれよォ?」
凶暴な笑顔が咲く。
そして鬼は金棒をただ単純に振り下ろした。しかも片手で。おもちゃを振るうような感覚で、三メートルを超える漆黒の撲殺用武器を地面へ叩き落としたのだ。
爆音が炸裂する。
叩き落とされた金棒が、地面へ直撃した。すると地盤そのものが砕けて、白咲の立っていた地上そのものがズガッッ!! と真っ二つ裂ける。その有様は地獄に繋がる怪物の口内のようだった。
回避に成功した白咲は肩をすくめて苦笑し、
「妖怪風情が調子にのらないでもらえる」
「ほざけ豚が。調理の下準備はしてあンだろうなァ?」
「ほざくのはどっちよ、その女子力皆無の面構え直したら? いい整形してくれるとこ、教えてあげよっか?」
「カッチーン。マジで切れた。ぶっ殺す」
再び世ノ華は飛び出す。
一瞬で白咲黒乃の眼前へ迫った。
「っ!?」
「死ねやブス。来世はもっとドブスだろうよ」
告げて、世ノ華は金棒を振り上げた。あとは頭上に掲げた鬼の武器を振り下ろすだけで、全てが終わる。この近すぎる距離では回避なんて不可能だし、御札を取って呪文を呟く暇もない。
勝った。
世ノ華は勝利を確信した。
(これで終いだ、クソ野ろ―――)
しかし。
なぜだか、白咲黒乃の顔にはうっすらとした笑顔が張り付いていた。
そのことに疑問を持った時には既に遅い。
ズプリ、という生々しい音と共に。
世ノ華雪花の腹部には、槍の先端が突き刺さっていた。
目を見開いて、世ノ華は思わず硬直する。
(な、ん―――で……!?)
「がっ、は……!?」
ビチャビチャと口から溢れていった吐血。地面に真っ赤なカーペットを作り上げていく血液の量は、呪いにかかっていなければ即死だったろうレベルだ。
世ノ華は混乱している自分を抑えて、腹部に刺さっている槍の先端から視線を徐々に上げていく。
そこで見た。
白咲黒乃の着用している茶色のコートの『内ポケット』辺りの場所から、『対怪物用戦闘術』を使用する際に必須の御札のような発光をしている光。
ぼんやりと光っている、胸の辺り。
白咲は笑みを貼り付けたまま、ゆっくりとコートを脱ぎ捨てた。
「てっ、めぇ……!!」
「おお、こわこわ。引っかかったお宅の責任でしょー?」
長袖一枚になった白咲は、槍の柄をしっかりと握っていた。間違いない。コートの内ポケットにあらかじめ御札を仕込んでおいて、呪文を唱えると同時に武器が取り出せるようにしていたのだ。
完全に世ノ華の死角をついた戦法。
あっという間に鬼を撃破してしまった『悪人祓い』。
「が、は……」
バタリ、と世ノ華は崩れ落ちる。




