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白の化物

 世の中には悪人という人間が存在する。しかし先ほど述べた『悪人』とは悪い人間を指す言葉ではない―――『怪物に憑かれた悪い人間』を示す言葉だ。一人の少年は本物を信じて悪へ染め上がっていく悪人、一人の少女は滅亡して辺りを滅亡させた悪人、そんないろいろな形の悪を背負った悪人達に怪物は憑依する。よって呪いという現象が発生するのだ。

 悪人にしか怪物は取り憑かない。

 つまり怪物に憑かれた人間は悪い人間なのである。

 よって、

「燃えろ生ゴミ。リサイクルしてやる」

 手当たり次第に炎を撒き散らしている雪白千蘭も悪人だった。怪物に憑依された悪人だった。よって彼女も悪い人間であるのだ。

 彼女に憑いている怪物は清姫。

 安診・清姫伝説という話がある。一人の男を愛した女が、その男に裏切られて、白蛇の大蛇へと姿を変えて男を焼き殺したという話だ。

 男を憎む怪物、それが清姫である。

 対して。

 雪白千蘭は昔から男に恐怖を植えつけられてきた。痴漢に遭い、襲われそうになり、服を脱がされそうになり、実の父親からも乱暴を受けそうになった。よって莫大な嫌悪感と恐怖心を抱き、心の底から男を軽蔑していた。

 男を憎む悪人、それが雪白千蘭である。

 事実、彼女は男へ殺意を抱き、清姫と融合することで関係のない男を殺そうとした。つまり悪人。過去が過去だけに可哀想だなんてことは関係なく、男を憎んでいるだけで無関係者までをも手にかけようとした大罪人である。

 ここで分かるのは、怪物と悪人は似た者同士。

 故に怪物に憑依された雪白千蘭は人間という殻を被った怪物なのだ。

「っ!?」

 ゴッッ!! と本道詩織の周囲一体が赤に染まった。いや、正確には赤黒い地獄の業火である。まるでフライパンの上で調理される食材の気分を味わえるほどの火力だった。

 よって瞬時に、詩織は真上へ跳躍して燃え上がっている床から距離を取る。

 だがしかし、



「単細胞で羨ましい限りだ、クソ野郎」



 その声は背後から聞こえた。

 跳躍したことで空中にいた詩織は、ハッとして顔を後ろの空へやる。 

 見えたのは白だ。

 雲ではない、背筋が凍るほどの白。キャンパスのような色を塗られる白ではなく、全てを無に返す黒をも喰らう絶対的な白だ。

 正体は雪白千蘭。

 生まれつき色素のない先天性白皮症という病によって、髪や肌は初雪のような純白さを誇り、瞳はルビーの如き色をした血にも見える赤。

「床を燃やしたのは『わざと』に決まっているだろうが。解答ミスにつき先生からきついビンタをやろう」

「っ……!?」

 白の化物が、業火を纏う右手を振った。宣言通りビンタをするような気軽さではあったが、実際は拳が直撃する。さらには威力も絶大。炎の熱もあってなのか、本道詩織は悲鳴さえもまともに上げることなく燃えている床へ吹っ飛んでいく。

 ズガン!! という轟音と共に廃ビル全体が揺れる。

 雪白も床へ着地し、興味のない目で敵の落下場所を見下していた。

「……チッ」

 思わず舌打ちする雪白。

 理由は実に単純明快なものだ。

「……痛い……」

 呟きが炎の先から聞こえた。さらに次の瞬間、ドッッ!! という正体不明の衝撃波が詩織の周囲で炸裂して、雪白の力で燃えていた床全体の業火が霧散するように消失した。まるで煙が晴れるように、辺りを支配していた蛇の豪炎は完全に失せてしまったのだ。

 そう、忘れてはいけない。

 雪白千蘭は悪人である。

 だが、

「痛い……だから、眼には眼を歯には歯をだよね……」

 本道詩織も復讐の女神に憑かれた悪人である。


  

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