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猫に小判

 世ノ華雪花は都会部から離れた自然の多い伐採途中の森の中にいた。というのも、雪白と同様に敵をおびき出して返り討ちにする目的のためである。

 そして、その罠に敵はかかった。かかってくれた。

 しかし。

 今、彼女の目の前には敵がいるのだが、



 軽く二百人は超えそうなほどの、大軍勢が誘いに乗ってきていた。



 意味がわからない。

 自分は本道詩織という女が目当てだったというのに、こいつらは一体……? と、首をかしげている世ノ華だったが、そこで声がかかってくる。

「誰が、本道詩織一人だと言ったのかしらーん? まさか襲撃者が一人とか妄想しちゃってたのかにゃ? はは、ごめんねごめん。残念ながら一人じゃありませんでした」

 軍勢の中から、一人の女が顔を出す。茶色っ毛のウェーブがかったセミロングの女だ。カーディガンを纏い、長い足が目立つズボンからモデルのような容姿をしている。

 その女は草を踏みながら足音を鳴らして、世ノ華との距離を縮めた。

「誰よ、あんた」

「『エンジェル』の白咲しらざき黒乃くろのだよ。記憶に永久保存しといてね?」

「ふざけろ。つーかクソうぜェな、オマエ」

 世ノ華は呆れ顔で溜め息を吐く。確かにそうだ。いつ、誰が、どこで、敵は本道詩織ただ一人だと決めつけた。今自分の目の前に広がっている大規模な人数が待ち構えているのも納得できる。

 しかし。

 それでは、本道詩織がここにいないということは。

(……雪白のほうへ回ったか。まぁ、あのババァ女は怒り狂ってるみたいだし、パワーアップ的なことしてるだろうし大丈夫でしょ)

「それで、私はあんたらを殺せばいいわけね?」

「おやおやまぁまぁ、もしかして頑張る気? やめといて逃げたらいいのに、もったいない命の使い方だねん」

「吠えてろ子犬。虐待してやるよボケ」

「うわお、情報以上に女子力皆無だわ。こりゃドン引き」

「人のコンプレックス掘り出すんじゃねェよ。それで? 何でテメェは私を狙う? あのキチガイ女みてェな復讐心から体ァ動いたとかじゃねェんだろ?」

「ああ、確かに詩織ちゃんはお兄さんの仇討ちが目的でしょーね。でも私は上から投げられた仕事―――あんたら殺して実験対象の精神変化を測る」

「……実験対象ってのは、また兄様か?」

「そりゃそうでしょう」

「じゃあもう一つ聞こう。テメェら、何で兄様をストーキングすんだ? いい加減気持ち悪ィんだよクソが」

 ドスの効いた声で言うと、白咲黒乃は肩をすくめて苦笑する。



「夜来初三も、あなた達も、夜来初三の背負ってる力がどれだけ『使えるもの』か分かってないのよ。彼は宝の持ち腐れ。猫に小判なの。『夜来初三と大悪魔サタンの本質』さえ完全完璧に引き出すことができれば全て終わる―――私達が望んだ世界がやってくる」


 

(兄様とサタンの『本質』……? それが狙いってわけ? っつーか何よ、『本質』って。覚醒みたいに中二臭いセリフで片付けるなし)

「アンタらには関係ないからここまでね。とにかく私たちは夜来初三と大悪魔サタンが欲しい。必須。絶対必須なの。だ・か・ら、邪魔する人は皆殺しってね」

「兄様を使って、何をする気だ」

「そうね……いや、教えてメリットはないか。ま、少なくとも『あなた達にとってもいい結果』を生むはずよ。それこそ」

 白咲は少しばかり微笑んで、

「世界中の存在が、ハッピーエンドになる」

 やはり、意味がわからない回答だった。夜来初三を利用することで、世界そのものが幸せになる? 自分達までもが笑える結果になる? そんな言葉を理解するほどの理解力は持ち合わせていなかった。

 世ノ華は視線を下げて、

「……あァそうかい」

 直後に。

 世ノ華雪花の額からズズズと徐々に角が生えていく。

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