思い出の地
「……いないな」
廃ビル内を歩く雪白。外は太陽が顔を出しているというのに、日光をにシャットダウンしている廃ビル内は薄暗い。その暗さもあってか、アルビノである真っ白な雪白の姿は実に目立つだろう。こうも辺りが己とは裏腹に暗いと、敵からしたら見つけやすいことこの上ない。今更ながら、自分の容姿を改めて嫌いになりそうだった。
(やはり、世ノ華のほうへ回ったか? いや、そもそも私と世ノ華だけをターゲットにしている保証はない。もしかしたら七色達のほうへ……)
様々な事態を想定しながら、彼女は階段を登って上のフロアへ向かう。確かに本道詩織が七色達のほうを襲う可能性もなくはないが、相手は『悪人祓い』だ。返り討ちに遭うことは目に見えている。
しかし、唯一の不安要素もあった。
それは『呪い』の力を持つ悪人や『悪人祓い』でもない、唯神天奈と秋羽伊那だ。彼女達を襲撃された場合、訪れるのは二人の死。もちろんそこは分かりきった問題だった。
だが、彼女達は現在安全地帯で生活しているので襲われる心配はない。唯神天奈は天山市中央病院に入院中で、腹部に空いた傷の手当をしている。よって公的機関に身を置いているので、そう簡単に本道詩織も手は出せない。その結果、一人になってしまう秋羽は速水玲に引き取られて生活しているようだった。よって彼女も速水という『悪人祓い』の保護下にある故に身の危険はない。
だから。
必然的に。
消去法的に。
「私か世ノ華を殺しに来るわけだ。ふん、安い思考回路で羨ましいなクソ野郎」
雪白千蘭は、とある一室に入ってから『クソ野郎』に向けてそう言い放った。そこはかつて自分が誘拐されて、あの少年が死に物狂いで戦って守ってくれた部屋。辺りには作業用の机が並んでいて、天井は雪白が誘拐された事件の際に消し炭になっているため存在しない。
日光が、部屋を照らしていた。
天井のない一室に、そいつはいた。
「本道詩織だったか。私を殺しに来たこと感謝してやる」
「……殺されたかったの……? 変な人だね……」
「アホが。殺し返してやれるからウズウズするんだよ」
本道詩織は机の一つに腰掛けていた。
雪白は彼女の座っている机で、ふと気づく。確かあの机は、自分が誘拐された時に気絶して倒れていた場所だ。そしてそんな自分(特に当時は夜来初三を監禁してしまっていた)を、夜来初三が死にかけてまで死守してくれた場所だった。
まるで、彼との思い出が汚されているようだった。
あの机は夜来初三が自分を守ってくれていたことと関係する、特別と言えば特別な場所だった。
彼と自分の出来事。
彼と自分の思い出。
それら大切な記憶に本道詩織が割り込んできたような感覚が走る。同時に猛烈な怒りが湧いてくる。自分と夜来初三の思い出に、あの女が入り込んできたような……。
とにかく。
雪白は彼との思い出がある机に、本道詩織が腰を下ろしている現実自体を―――ぶっ殺したくなった。
「そこを退け。そこは、ここは、全部全部私と初三が過去にいた場所で思い出の地だ。忌々しい思い出かもしれないが、あいつと私がここにいたというだけで、私にとっては大事な場所だ。だから、そこを、退け」
「……指図されるいわれはない……」
「―――じゃあ死ね。焼身しろクソアマ」
直後に。
雪白千蘭の赤い瞳から、殺意がドロリと溢れ漏れた。
雪白のヤンデレ治ってなくね? 回でした(笑) 作者的には可愛いです、歪んだ作者ですいません(笑)




