廃ビル
とりあえず二手に別れることにした。本来ならば世ノ華と雪白を敵さんは狙っているようなので、押しくらまんじゅうまではいかないが二人集まっている方が危険はすくない。しかし危険が少ないとなると『危険になる事態』・本道詩織が襲撃してくる可能性すらも低くなる。
それでは面倒だった。
よって、雪白と世ノ華はわざと本道詩織が襲撃しやすくなるように分散しているのである。
というわけで。
雪白は一人、人気のない裏路地を歩いていた。
「……面倒だな、くそ」
早く愛する彼のことを知りたいというのに、なかなか鍵となる本道詩織が現れない現実に思わず吐き捨てる。もしかしたら世ノ華のほうへ向かったのか? だとしたら自分はとんだハズレを引いたことになる。
故に、彼女のイライラは一向に上昇し続ける。
「早く会いたいな、あいつに会えれば全部終わるのに……」
本来ならば雪白千蘭のような華奢な少女―――しかも真っ白な容姿が誰よりも目立つ神々しい美少女が裏路地だなんて危険な香りが漂う空間を歩くこと自体間違っているのだろうが、今回の場合は人気のない場所を選ぶことで敵をおびき寄せるのだから仕方ない。
と、そこで。
裏路地をひたすらに歩いていた雪白は、ついに路地を抜けて拓けた場所へたどり着く。
見知った建物を発見した。
廃ビルだ。
過去に自分が祓魔師に誘拐されて、それをあの少年が助け出してくれた廃墟だ。
「どうして」
ポツリと呟く。
「どうしてなんだ……」
雪白は廃ビルを見上げて、今現在自分が置かれている状況や狙われているだなんて立場は全て捨てて、消去して、思考しないで、ただ一つの納得いかない事実に文句をつける。
「どうして、お前は一方的に私から離れて一方的に私を守って一方的に自虐するんだ」
くそ、と口調も荒くなる。
しかし雪白は興奮している自分と向き合っていた。ポケットに手を入れて、中から一本のヘアピンを取り出す。そう、あの少年へ渡した代物と同じ髪留めだ。その『夜来初三と共通する品』を両手で包むように持ち、胸に運んで、すっと息を吸い冷静さを取り戻す。
(ちゃんと……付けてくれてるかな)
包んでいた黒のヘアピンへ視線を下げて、ふと思った。
しかし、そんな不安は苦笑すると共に捨てて、
「さてと、ここなら好きなだけ暴走しても問題ない。絶好の狩場じゃないか、ええ?」
雪白千蘭は廃ビル内へと足を運ぶ。
ゆっくりと、あの少年のような凶悪性に満ちあふれた笑顔をうっすらと浮かべて。
「来るなら来い、クソアマが」
黒のヘアピンを前髪にしっかりと留めて、あの少年と繋がっている感覚に浸りながら戦場へ歩を進める。




