燃やし殺す
一瞬で全てが真っ赤に染まった。紅蓮の炎が全てを燃やし、全てを埋め尽くし、あっという間に田んぼ畑も含めて周りすべてを炎が飲み込む。
そして足音がなった。
炎が全てを包む中、業火を纏った核である白い少女が現れたのだ。
「おいクソ女」
その少女。
雪白千蘭は笑っていた。まるで知りたかったことを知れる寸前の、好奇心が満たされる直前の子供のように、うっすらとした笑みを浮かべていた。しかし笑みには、どこか溢れかえるほどの殺意も見える。
彼女の赤い瞳が凝縮する。
悪魔のような目へ変貌したのだ。
「初三の何を知っている? 私がアイツのことを知らないというのに、何でお前みたいなゴミが初三のことを知っている? ふざけるなよ。お前が初三のことを知ってて、何で私は知らない。ふざけるな!!」
どうやら、何よりも火が付いたのは雪白千蘭だったらしい。火が付いた彼女は、その火を燃え上がらせるように豪炎をまとっていた。間違いない。今の彼女は夜来初三を監禁してしまった時とほとんど同じだ。
あの時と違うのは、
夜来初三を傷つけないこと。
仲間を攻撃しないこと。
ただし、同じなのは彼に対する狂気的なまでの愛情と彼を思う心。
あの少年を苦しめるために、本道詩織は自分たちを狙ってきた。
ならば、それは雪白からしてみれば、
夜来初三を苦しめるクソ野郎、というだけの事実で完結しているのである。
よって、彼女はグラグラと赤い瞳を揺らして、殺意を押さえ込みながら、
「初三を狙う時点で燃やす。いや、初三のことを全部吐いてから燃やしてやる。ふざけるなよ、何でこう、あいつはいつもいつも私に頼らないんだ。勝手に背負って勝手に格好付けるんだ。……それとお前、何であいつのことを私より知ってるんだ? 舐めてるだろ、オイ。調子に乗るなよクソ野郎が……!!」
雪白千蘭は燃え盛る炎の中から現れた無傷の本道詩織を血走った目を使い、ギョロリと睨みつける。間違いなく昔の雪白千蘭だった。世ノ華たちを敵に回してでも、夜来初三を自分のモノにした狂気の化身だった頃の彼女だった。
その威圧感には、世ノ華雪花も息を飲んでいた。
今の彼女だけはやばい。
下手をすれば、自分まで纏めて燃やされる。
「答えろクソ女。お前は初三のなにを知ってる?」
「……殺し合ってる……たくさん……たくさん殺して殺し合って……あなた達を守ってる……」
「あの時の銀髪の男がそれか。くそ、何だ私は手の届くところにあの時いたんじゃないか。ふざけるな、どこまでも厄日続きだぞ、くそが!! くそったれが!!」
ガシガシと乱暴に頭を掻きむしった雪白。
彼女は乱れた白い前髪の中から、八つ当たりで全てを殺すような恐ろしい目を見せた。
「それでお前は、初三を苦しめるために私を殺すと?」
「……そう……復讐する……兄を殺したあいつに、復讐するから……」
「―――じゃあ私はお前を殺す」
きっぱりと告げた雪白は、体をさらに炎で包みながら目を殺気立てて、ギン!! と見開いた。
「私はあいつと『ずっと一緒にいる』んだ。『約束』してるんだ。お前に殺されれば、その約束を破るハメになる。だからお前は燃やしてやる。骨まできちんと燃やしてやる」
ゴッッ!! と、雪白の右手が赤黒い業火に包まれた。
宣言通り骨をも溶かすだろう熱を持った怪物の力だ。そして今の雪白千蘭は、あの少年を狙うクソ野郎に対して殺意を抱き、そのクソ野郎が自分よりもあの少年のことを知っている『嫉妬』によって―――。
猛烈な殺意に支配されている。
「全部全部燃やしてやる」
雪白は続けて、
「万物全て燃やしてやる」
雪白は続けて、
最後に、血のような赤い瞳を凝縮させて、
宣言した。
「燃やし殺して、あいつとの『約束』だけは守り通す」
ヤンデレ時代の雪白ちゃんにちょっと戻りましたね(笑) こっちもヤンデレ好きな私からしたら可愛いんですが(笑)




