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虚ろな目

 ほとんど反射的に振り向いていた。

 そして、ほとんど本能的に世ノ華は持っていた旅行用バッグを胸に構えて、盾のように活用していた。動物としての恐怖心が揺さぶられたのだ。今まで、幾度となく路地裏の不良や怪しいクソ野郎共とぶつかり合った過去がある世ノ華だからこそ、可能だった素早い行動だった。

 その結果、

「っ……!?」

 ズガン!! という衝撃波が盾がわりにしたバッグに炸裂する。そのあまりの威力によって、バッグは引き裂かれるハメになり、中に詰まっていたアルコール飲料も缶を破ってビシャビシャと地面へ溢れていった。

「チッ!!」

 苦い顔をした世ノ華は、軽く吹っ飛んでいって田んぼ畑へ転倒しそうになった。しかし体制を保つ。一体何が起きたかは分からないが、即座に『羅刹鬼の呪い』を発動する。

 鬼の筋力を手にする。

 人間の領域を超えた、怪物最強クラスの純粋な力を振るう。

「テメェ何なんだよゴラァ!!」

 叫び、アスファルトの地面をサッカーボールを蹴るように靴先で叩いた。爆音が鳴り響き、地盤は揺れる。そして鬼の一撃に耐えられなかった地面は、地層ごと地中から飛び出していって土砂崩れのような、津波のような、そんな怪物の魔の手へ変貌する。

 森が砂や土や石で飲み込まれていく。世ノ華の脚力によって、雪崩のように地面そのものが突っ込んでいったのだ。

 だが、

「っ!?」

 今度はハッキリと『それ』が見えた。土に埋め尽くされて平地に変えられた森。そんな荒野にも似た場所から、ドガン!! と大規模な爆発が起きる。

 土や砂が吹き飛ばされる。

 粉塵が舞い散る中、一つの人影が鮮明に見えた。

「……金髪……短気な女……ガラの悪い口調……莫大な筋力……」

 襲撃者の正体は女だった。

 虚ろな目をしていた。髪は片目を隠すほど伸びた無造作な前髪や病人のような真っ白な肌が特徴で、綺麗なストレートの黒髪と思いきや整えられてはいない。まるで本当に病人だ。真っ白な無地無色で白の長袖の服に、真っ白なサイズが合っていないダボダボなズボン。

 そして何より。

 無造作に伸びた非常に長い前髪や後ろ髪から分かるとおり、相当な間、髪を切ることもしていない。

 不気味な女だ。

 もはや一種の幽霊にも見える。

「誰だ、お前」

 そこで雪白の声が割り込んできた。どうでも良さげに女を見て、侮蔑するように目を細めていた。

 病人のような彼女は、その前髪で目が隠れた顔を雪白に向け変えて、

「……アルビノの容姿……白い髪……赤い瞳……男口調……」

 ポツリポツリ、先ほどと同じように呟いていた。

 雪白と世ノ華の特徴を順番に確認した女。彼女は直後に沈黙して―――パックリと耳まで割れた異質な笑顔を作り上げた。

 また、呟く。

 世ノ華雪花と雪白千蘭を色のない虚ろな目で捉えて、笑って、呟いた。



「世ノ華雪花と雪白千蘭、見――――――っけ」



 その狂気っぷりは酷く異常だ。

 高くもあって低い声音で言った、女の姿に眉を潜めた雪白と世ノ華。当然の反応だった。誰もがあの女には警戒心を高めるはずだ。

 しかし、女は相手に警戒されていようと構わない。

「まずは……そっちを……殺す……」

 世ノ華に首をグルンと向けた。

 そのイカれた笑顔にロックオンされている世ノ華は、怯えるどころかこちらも笑顔になって、

「ハッ。やってみろよキチガイ女。誰ェ敵に回したのか暴力で教えてやる」

 右手を突き出した。

 手を開き、『羅刹鬼の呪い』を使う。

 すると、

「埋葬決定だ、クソ野郎!!」

 金棒が出現して、それを世ノ華は握り、豪快に振るう。それだけの動作で風圧が走り抜け、辺りには旋風のような現象が炸裂する。

 肩甲骨まで伸びた金髪が、その影響で綺麗に揺れる。

 鬼の角を生やした世ノ華雪花。

 彼女の迫力に女は押されることはない。まるで感情の幾つかが欠陥しているような感じだ。世ノ華を見て怖いとも、強いとも、危ないとも、何も感じ取れないようだったのだ。

 よって、

「……殺す……世ノ華雪花……殺す……」

「だーからさっさと殺しに来いよゴラァ!! どこの誰でどこのアホかなんざ興味ねェ。どうせ呪い持ちの悪人だろ? 分かってんだよ、テメェのヤクやったみてェなアヘ顔とさっきの爆発で全部全部分ーってんだよ」 

 非現実的な力。

 あの『悪』を背負っているであろう、絶望を痛感したような虚ろな目。

 間違いなく、世ノ華や雪白と同じ人間だ。

 ―――悪人だ。

「だから来いよ」

 よって、世ノ華は全力で暴れまわることが出来る。辺りには巻き込んでしまうような一般人は誰もいない。さらには噛み付いてきた猛犬が自分と同じ悪人ならば、手加減する必要も道理も存在しない。

 世ノ華雪花はブチリと裂くように笑顔を濃くして、

「ぶっ殺してやるから、かかって来い」

 鬼としか言い様のない、凶悪な存在へ成り果てる。

 


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