モンスター
「うわ、このお茶美味しいですね」
「じゃろう? 儂が提示するモノは全て一級品じゃからな。もうマジで儂ってばちょー天才」
「ふふ、でも子育てに関しては七色さんは甘いのでは? もう片方のお子さんは、それはもう格好よくてクールで男らしい方ですが、こっちのはゴミですよ。ゴミ収集車が三台は必要なゴミですよ」
「ううむ、そうなんじゃ。完璧超人の儂だというのに、どうにもそこのチャラ男だけは手に負えんのじゃよ……」
場所は七色寺の内部に存在する、七色の家でもあるリビング。
ちなみに。
どこかの元ヤン金髪少女の手でボコボコにされたチャラ男は、雪白の傍にあるソファにぐでーっとダウンしている。その他の三人はテーブルを囲んでお茶を楽しんでいる状況だった。鉈内翔縁の自業自得の結果かもしれないが、こればかりは少々哀れみさえも覚える。
「ところで」
と、そこで七色夕那が新たな口火を切った。
「せっかく来たところ悪いんじゃが、実はお主らに頼みたいことがある」
「? 何だ一体」
「ちょいとあるものを届けに行って欲しいのじゃよ。その荷物が重くてな、華奢な儂じゃあ腕がポッキーみたいに折れてしまうわい」
雪白に返答を返すと、七色は部屋からそそくさと立ち去ってしまう。その結果、しばしの間顔を見合わせる世ノ華と雪白だったが、すぐに七色夕那は戻ってきた。
その手に旅行用バッグを持って、息を荒げながら戻ってきた。
「ま、まぁつまりこれを儂の知り合いのところに運んでくれんか? 正直、儂ってばこの後、寺の掃除とか墓の手入れとかいろいろあるんじゃよ。ヘルプミーってわけじゃな」
「七色さんにはお世話になっているので構いませんが……私たちだけで大丈夫でしょうかね? そのお知り合いの自宅を微塵も知らないのですが」
「ん、それなら心配いらんわ。安心しておくがいい」
世ノ華に向けていた笑顔を、七色は別方向へ向け変える。その無邪気な笑みの矛先には、一人の少年がソファで倒れ込んでいるのだった。
「……」
最悪だ、と沈黙している少年は思った。
しかし七色は止まらない。ソファに沈んでいる鉈内翔縁に向けて、こう言った。
「黒崎達の住まう『夜明けの月光』までの道案内役、頼んだぞ翔縁」
……知り合いっつーかバリバリ関係者じゃねーか、と呟いた鉈内だったが、結局のところ七色に反抗なんて出来ないので面倒くさい役を引き受けることになった。
ソファにさらに沈んで、彼は大きなため息をこぼす。
「……はぁ」
そんなこんなで。
外の道を歩んで行く鉈内翔縁の一歩後ろには、世ノ華と雪白の二人がついてきていた。異性に囲まれる憧れのシュチュエーションである。しかし、その状況を世界で一番喜びそうな鉈内翔縁くんは気分が重い。いつもの彼ならば、ハーレム最高ハーレム万歳くらいは叫びそうだというのに、なぜか顔色はよろしくない。
その理由としては実に単純で、
(会わせたくないんだよ)
肩を落とし、息を吐いて、彼はもう一度心で言う。
(会わせたくないんだよ―――後ろの美少女を燐ちゃんっていう豆腐メンタルに会わせたらどうなるよ!? あれだよ、もうなんか化学反応が起きてなんやかんやで燐ちゃん自殺するよ!)
……という、実に納得のいきそうな不安が凄まじいのである。確かに、ガラの悪い世ノ華やズバズバとモノを言う雪白の発言に、あの脆すぎメンタルの黒崎燐が耐えられるはずもない。おそらく、いずれは話の流れで『すいません、ちょっと大動脈切ってきます』とか黒崎は決心するに違いない。
そういう事態だけは、何をしてでも防がねばなるまい。
(後ろの女はどっちも化物だ……)
鉈内は背後で意外にも仲良く喋っている雪白千蘭と世ノ華雪花をチラリと見て、
(だからこそ、化物をあの純情可憐な燐ちゃんには接触させてはならない!! でも顔を合わせることは確実だ。クソッ!! 僕だけじゃ背負いきれない問題じゃね!? 無理に背負ってギックリ腰になるパターンじゃね!?)
じゃあどうする!? どうやってこの危険を回避する!? と、自問自答する鉈内。彼は必死になって、豆腐メンタルな同僚を守り切ろうとしていたのだった。




