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諦めます、君と釣り合うのは彼だけです

 しかし、そこで世ノ華と雪白の携帯が同時に着信音を鳴らす。

 二人は面倒くさそうにしながらも、それぞれの携帯電話を耳に当てて、

「おかけになった電話番号は現在使われてねェよコラ」

「もしもし。そうか分かった、それじゃあさようなら」

 無愛想に、舌打ちでも入りそうなくらい不機嫌な声で返してやった。不良ですらもう少しまともな取り方をするだろうと思う。しかし二人は先ほどのやり取りも生じて虫の居所が悪く、優しく対応する気力なんてゼロだ。

 吐き捨てて、マジで通話を切ろうとしたところで少年の声が鳴り響く。

『『あんたら誰にでもそうやって返してんの!?』』

 ……何か、どっかのチャラ男の声が二人の携帯電話から同時に聞こえてきた。メールじゃないのだから、同時に複数と通話なんて不可能なのではないかと思った少女二人だったが、彼女たちが動く前にチャラ男っぽい声が連続して響く。

『『いやね? 二人に用があったから声をかけようと思って世ノ華から電話しようとしたんだけど、どうせならビックリさせようと思って家電と携帯を同時に使ってるわけよ! どうよこれ、何か流行りそうじゃない? 僕ってばちょー天才じゃない? イケてない?』』

 世ノ華は目を細めて、無慈悲に、

「死ね」

『『ふっ、世ノ華からの罵詈雑言は聞き飽きたぜ! もはや元ヤン金髪女からの脅しに屈する僕じゃないのさ! はは、何事にでも耐性がつくんだよぉ耐性が。君はさ、そういうところが分からないか―――』』

「鉈内―――失せろ」

『『ごはっ!? ゆ、雪白ちゃんからのアタックベクトルは予想外だった……!! や、やばい、何か泣きそう。何かすんごく僕ってば泣きそう!』』

 もはや鉈内の言葉は涙声で生成されていて、メンタル的にもショックなようだ。しかし彼は折れない。ここで折れるようでは、髪を茶色にしてパーカーを来てネックレスをつけてチャラチャラしているチャラ男なんてやらない。

 この程度の少女二人に言い負かされては、チャラ男としてナンパだって出来やしない。故に、鉈内翔縁は明るい声で要件を申し付ける。

『『ふふははは!! じゃあ冗談もこのくらいにして、早速二人にお願いがあるんだよねー。いやさ、別に僕的にはちょーっと怪我も治ってきたし、美少女二人に手厚いお見舞い的なものを期待してるんだよね。夕那さんとかも相手にしてくんないし寂しくて泣いちゃいそ―――』』

「するわけねェだろ勝手に泣け」

「するわけないだろ勝手に泣け」

『『僕に対する態度を改めろォォおおおおおおおお!!』』

 自分の扱いに我慢ならなくなったのか、鉈内は怪我人とは思えない声量で叫んだ……正確には泣き叫んだ。彼は『悪人祓い』としての初仕事で片腕骨折という大怪我を負って帰ってきたようで、その怪我を治すためにしばらく七色寺じたくで安静に過ごしていたそうだ。

 が、どうやら大声で泣けるほどは元気になったらしい。もはやお見舞いに行く必要がない。

『『何で!? 何で僕とやっくんとじゃ扱いがこんな違うの!? おかしくない!? おかしくねぇえええ!? いやいやおっかしいから、マジで君たちよく考えなよ僕とやっくんじゃどっちがいい男か分かるでしょ!?』』

「兄様とロリコンのテメェじゃ比べるまでもねェだろ。さっさと寝て、さっさと食って、さっさと死んでろよ。な?」

『『な、じゃねえよ!! 寝て、食って、まで心配してますよ的なこと言って最後の最後で本命投下しやがったな!! 悪魔の三拍子か!! マジでさ、君たちよく考えて? やっくんと僕とじゃ、どっちが現実的にいい男か考えて? 考えてみそ!!』』

「兄様バンザイ」

『『何でだよ! いいか二人の乙女ちゃん、よく聞けよ? 君たちは、あの高校やめてどっかで暴れまわってるヤクザなんだかチンピラなんだか分からない将来不安定な前髪ヤクザと、『悪人祓い』って仕事に就いてて稼げる僕とじゃ、どっちが上でどっちが下か分かんだろう!? ほれ、言ってみんさいお兄さんに! 口も悪いガラも悪い将来危ないヤクザ予備軍と、イケメンで優しくて安定した職業に就いてるかわいい系の僕! ―――どっちか選んでみろや、おおう!?』』

「兄様」

「初三」

『『ぶふっ!? な、何で!? なんでなんで!? 僕のほうがお金持ってるのに!?』』

 意外と現実的な部分から自分の凄さをアピールした鉈内くん。確かに彼のほうが……と考える女性が多いかもしれないが、この二人は事情が事情ゆえにお金問題は気にも留めない。

 特に。

 特に特に。

 雪白千蘭という少女は特に、一途すぎて引くほどの心を持っていて、

「私が養うから問題ない。その代わり初三には『一週間の内七日間は外出禁止』だが」

 ……世ノ華も鉈内も凍りついた爆弾発言。

 即座に鉈内は『一週間の内七日間は外出禁止』だなんて結婚生活は送りたくない故に、

『『あ、ごごごごごごめん何かごめんなさい、はは、はははははい!! ど、どぉぞやっくんと結婚してください。はは、マジで僕でしゃばりました、もうマジすんません。も、ももももう何か雪白ちゃんは諦めました、僕は君に釣り会える精神は持ってねえダメ男です……け、結婚式くらいは呼んでください』』

「な、何が結婚式だ! だ、大体私は初三とまだそういうことも……」

 変なとこだけ乙女らしくなる雪白千蘭。あれだけのことを言っておいて、今更照れる必要はないだろう。世ノ華は引きつった笑みを浮かべていて、いろいろと諦めた溜め息を吐いた。

 その後。

 お見舞いに来てよ泣いちゃうよー、僕ってばリア充したいよー!! などと喚いた鉈内に負けて、二人の少女は大人しく通い慣れている七色寺へ向かっていった。


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