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天使と悪魔の激突3

「いいだろう、どっちがエサか教えてやる」

 夜来初三はサタンの魔力の『性質』を変更した。今までは『砕く』という設定をオートで使っていたが、今は『砕く』ではダメだ。無意味だ。ならば別の破壊方法、『溶かす』で応戦すればいい。

 雅の手から『砕けることはない』魔力の閃光が突っ込んできた。

 もちろん、今の夜来初三には一切効かない。額に直撃した閃光は、一瞬で液状化して『溶けて』しまったのだ。

 ようやく楽しくなってきたことに、雅は獰猛な笑顔を浮かべる。

「ハハ、何だそうだよやりゃあ出来るじゃねェか。『砕く』の次は『溶かす』できたか。面白い、じゃあ俺も魔力の性質を『溶けることはない』って設定に変えればいい」

「それすらも俺が破壊方法を設定し直したら意味がねぇだろ、バカが」

「ああ、このままじゃお互いに決着はつかねェ。だがな、よく考えろよウジ虫。俺は創造で、お前は破壊。この時点で長期戦に入ったときに『どっちが有利』かくらい分かんだろ?」

「知るか」

 返答とは裏腹に、嫌でもわかる。

 創造することが出来る向こうが有利に決まっているじゃないか。夜来初三は破壊方法を設定し直しても、向こうは考えたことを創造してくる。想像力を具現化させた力・創造。対して、破壊しかバリエーションのない夜来初三では、長期戦は敗北を意味する。

 打つ手はない。

 しかし負けたわけでもない。

 長期戦に持ち込まず、

「即効で殺せばいい話だ、クソったれ」

 吐き捨てた夜来初三は勢いよく雅のもとへ突っ込んでいった。破壊方法を『溶かす』から『切る』に変更する。よって雅にダメージが通ると確信していたのだが、直撃する寸前に天使の魔力が閃光としてぶつかってきた。

 もちろん、『溶けることはない』天使の魔力なのだから『切る』と設定している悪魔の魔力は効いた。ズタズタに散らばった閃光は、呆気なく夜来初三によって撃破される。

 だが。

「ちゃーんと理解しろよォボケナスが」

 雅は軽く失笑して、



「全てを創造する俺に、破壊される現実はありえねえ」



 直後のことだ。

 ゴバッッ!! と、背中から生えている天使の翼を思い切り振り下ろしてきた。翼には魔力が纏われていたのか、その一撃は隕石が落下した後のようなクレーターを作ってしまうほどの威力を持っていた。

 咄嗟に回避していた夜来初三。

 対して、雅は凶悪な笑顔を咲かせて語りだした。

「さっきの閃光を撃って、壊されたことで分かった。『切る』ことで破壊する『絶対破壊』にしてんだろ?」

(っ!! さっきの閃光は『わざと閃光を破壊させて俺の破壊設定を調べるため』のモンだったのかっ!!)

「ハハ、だったらこっちも『切れることはない』性質に魔力を変えちまえばいいんだよォ!!」

 もはや相手の応用力が高すぎて、破壊の設定をいくら変更しても間に合わない。夜来は苦い顔をして、爆発的な速度で一気に後方へ撤退する。

 結構な距離が開いた、夜来初三と桜神雅。

 彼らは静かに睨み合っていた。

 しかし即座に激突した。

 天使の魔力が豪雨のように撃ち放たれる中、夜来初三は適度に破壊設定を変更していきながら防御する。攻撃に転じるときは電柱を抜き取って投擲したり、サタンの魔力を放ったりしてぶつかっていった。

「唯神天奈を殺しにきたってのに、どうしてお前と先にぶつかってんだかねェ。本当にリアルって面倒だよな、思ったとおりに事が進まねェから腹ァ立っていろいろぶっ殺しそォになる」

 雅は天使の魔力を放ち、振り回し、辺りを破壊の渦へと突き落としながら言い放つ。路上を砕いてあらゆる建造物を倒壊させて、ビル群の窓ガラスを全て風圧だけで叩き割ってしまう。

「まァ、個人的にも俺とは正反対の怪物を抱えたお前の顔を拝みたかったのもあったし結果オーライか。想像通りの雑兵っぷりに腹ァ抱えて笑いそうだぜ、期待通りのカスが!!」

「くっだらねぇな。腹で飼ってる怪物の見せ合いっこの為にわざわざ命投げ捨てた神経がくっだらねぇな。俺に噛み付いた時点で死体に変わるって有名な話し知らねぇのかよ、クソが調子乗ってんじゃねぇぞゴラァ!!」

「どっちが地面のシミになるか理解もしてねェ馬鹿が喚くんじゃねェよ!!」

 悪魔と天使は叫び、またもや激突する。夜来初三は設定を変えた魔力をまとって襲いかかるが、桜神雅はサタンの魔力の設定を分析して己の魔力の設定を変える。

 夜来初三がドス黒い魔力を纏った拳を雅の腹にえぐり込んだ。強烈なボディブローが、丁度ミゾのあたりに突き刺さっている。

 しかし。

「『折る』って設定した魔力だろ、ンなもんこっちゃあ分かってんだよカスがァ!!」

 莫大な量のミカエルの魔力が膨れ上がった。雅の体から光り輝く魔力が爆発するように放出される。『絶対破壊』が効かない故に、夜来初三は血を吐き出しながら吹っ飛んでいった。

 それでも即座に体勢を立て直し、コキリと首の関節を鳴らす。

 桜神雅を睨み、大雑把な予想を立てた。おそらく、彼もまた何かしらの『悪』を背負っている悪人だ。そして『悪』を背負うほどの悲しみを味わい、苦痛を噛み締めて、絶望に屈しそうになりながら生きてきた悪人だ。

 夜来初三が『自分を悪と肯定する』ことで生きてきたように、彼もまた何か壮絶な人生を歩んできたに違いない。そして彼は『エンジェル』に在籍することで叶えたい望みや、守りたいものがいるのかもしれない。

 きっと、夜来初三と大差ない理由から、こうして殺し合っている。

 彼にも事情があるのだ。

 真っ黒で悲しい事情が。

「関係ねぇな」

 しかし夜来初三は、雅のことをある程度分かった上で殺す。彼にも何かの事情がある可能性を知った上で、ぶち殺す。

「テメェがどうして、あのまな板娘を殺しにいくかどうかは知らねぇ。あの女を殺して、俺を研究して、そうしなくちゃならねぇ理由があんだろうよ。テメェは『大切なもの』を失いたくないから、唯神を殺すのかもしれねぇ。だがな―――関係ねぇんだよ俺には。お前が恋人を助けるために戦ってる的なカッコイー理由があろうと、勝手に恋人ごと死んでろって話だ。俺の身内を狙うって時点で、テメェの背負ってるモンなんざ纏めて殺してやる。関係ねぇんだよ、テメェが何を守っていようと望んでようと」

「説教か」

「そうだな、本物の悪人として落ちこぼれの悪人に語ってやってんだ。感謝しろ」

「ほざけカスが。何が本物だ、結局はお前も俺も総じて悪人だろうが。悪人に種類なんかねェ、どっちも悪人で完結してんだよ」

「ハッ」

 夜来初三は思わず鼻で笑って、

「テメェは悪人ですらねぇみたいだな。底辺の悪たれだ」


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