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ファミレス

 唯神天奈と秋羽伊那のセットとはお馴染みの光景である。二人は手を繋いで街中を歩いている最中だった。その少し離れた場所にはもう一人の少女がいる。綺麗な白髪に赤い瞳は色素がないのだろう、もはや神秘的すぎてなにもいえない容姿をしていた。さらには顔も体も全てが整っているため、人通りの多い街中では勝手に視線を集めてしまっている。

 つまり雪白千蘭だ。

「綺麗なお姉ちゃんも早くこっちきてよー!! あそこいこ、あそこ。あのJKっていうのが行くファミレスってとこいこ!」

 はしゃぐ秋羽の額を唯神が軽くこずいて、

「JKなんて誰が教えたの」

「翔縁お兄ちゃんが熱く語ってくれた! JKは一番匂い、肉付き、全てにおいて最高なんだって」

「もう鉈内には近づいちゃダメ」

 二人のもとへ中々近寄らない雪白千蘭は、視線を泳がせて佇んでいた。というのも、彼女は唯神天奈と秋羽伊那の間に自分が割り込んでいいのかどうか悩んでいるのである。過去に彼女たちを苦しめたこともあったため、そうナチュラルに関われない。

 と、思案していた雪白だったが、

「ねぇねぇ、早くファミレスいこー。私はパフェを所望する!」

「あ」

 気づけば秋羽に手を握られていた。そのままズンズンと近くのファミリーレストランへ連れて行かれる。同じく秋羽伊那と手を繋いでいた唯神天奈は、小さく苦笑していたようだった。

(……そうだな。初三を監禁した件については終わったことだ。あまりウジウジ引きずってると、逆に迷惑をかけることになる。……忘れてはいけない罪だけど、少しは切り替えるべきか)

 雪白は決心した。故に、その後は大人しく秋羽伊那のお望みどおりファミリーレストランへ直行。店員には三姉妹かなにかだと思われただろうが、テーブルについて大人しくメニュー表を広げる。

 秋羽はパフェが届くと速攻でスプーンを振るっていた。美味しそうに食べているので、作った店側からしても嬉しいことだろう。

「そういえば、雪白。前から気になってたんだけど聞いていい?」

「? なんだ?」

 対面に座っている唯神が、ふと妙なことを尋ねてきた。彼女は雪白の長い白髪をジロジロと凝視してから、

「君の髪は染めてるわけじゃない、よね?」

「染めてるわけないだろうが。真っ白にまで染めるアホがいるか」

「いや、だって白髪って珍しい。……肌も真っ白だし目は赤い。気になっても当然、だよ」

 いつかはこの手の質問がくると予想していたのか、雪白は大きな溜め息を吐いた。しかし唯神の質問には答えるようで、

「あれだ。先天性白皮症せんてんせいはくひしょうという奴だよ」

「……生まれつき色素が少ないっていう病気?」

「アルビノって言われるものだな。私は生まれつきこうだ」

 雪白は自身の髪をいじりながら、どこか嫌気がさすような調子で言う。

「おかげさまで、私はどこへ行っても目立つし奇異の視線で見られる。いや、男は性欲丸出しの下種な視線だな」

「髪も凄く長い。それは?」

「髪がデリケートだからハサミを入れたくないんだ。それに散髪しにいって、私の髪を男が触ったりしたら吐いてしまうだろう。純粋に髪が切れないからこうなったんだ」

 確かにファミレス内でも雪白は客や店員にジロジロと見られている。病気なのだろうな、とは誰もが思っているだろうが、やっぱり珍しいものには目がいくらしい。

 唯神は疑問だったことが解けて満足したのか、コップに入った水を飲んでから、

「じゃあ、純粋に髪は触らせられないから長いということ?」

「自分で触ってても痛むこともあるからな、色素がないのはつらい。スプレー型の日焼けどめは毎日つけてるぞ。目だって日光なんか直視できないから、よくサングラスを使ってる」

 本当に苦労しているようで、彼女は疲れた顔をして腕を組む。

 すると、唯神が名案を提示してきた。

「それ、初三にやってもらえばいい」

「は?」

「髪をとかしたり、軽く切ったりしたいなら、あの人にやってもらえばいい」

「っ」

 ハッと目を見開いて、雪白はガタン!! と椅子を壊す勢いで身を乗り出しながら唯神に問いかける。

「い、いいなそれ! あ、でもあれだぞ! あいつは髪が長いほうが好きという情報があの元ヤン女から入ってるぞ! か、髪は切らないほうがいいんじゃないか!? 触らせたいけど!」

「い、いや、なら切らないでいい。というか今はそういう話じゃなくて……あ」

 そこで、唯神は店内に設置されていた時計を見て立ち上がった。

「? お前はどこに行くんだ」

「ん。ちょっと晩ご飯を買いに行く。そもそも本来の目的は食料の調達だから」

 店に入って三十分。椅子から立ち上がった唯神天奈は、食料調達に勤しむようだった。

 秋羽の隣に座っていた雪白は彼女をジト目で見上げて、

「さりげなく私に秋羽のパフェ代を払わせようとしてないか?」

「……そんなことはない」

「子供の前で嘘をつくのは感心しないな。第一、お前こそ一人で買い物なんて出来るのか? 聞いた話じゃ、お前は晩ご飯を冷凍食品オンパレードにしておいて、平然と手作りだと言い張った伝説があるぞ」

「レンジでチンしたのは私、だよ。その時点で手作り。確かに少し手は抜いたかもしれないけど、間違いなくチンは私がした。えっへん」

 胸を張って断言した唯神だったが、そこで証言者・秋羽伊那がクリームまみれの顔を上げて、

「ふぁ? 天奈お姉ちゃん私にチンさせてたよね? 確か花嫁修業だから頑張れとかなんとか言って」

「……おい」

 雪白からの痛い視線が突き刺さる。

 さすがに苦しそうな声を漏らした唯神は、

「今日はハンバーグを作るから勘弁」

 機械のようにセリフを吐き出して、そそくさと店内から飛び出ていった。その素早さに店員は食い逃げかと勘違いしたようで目を見開いていたが、伝票を背負う雪白が残っていたことに安堵の息を吐いている。

 パフェ一つくらいならいいか、と呟いた雪白。

 隣では秋羽が小さいスプーンを使ってクリームを食していた。

「良かったな、今日はハンバーグらしいぞ」

「うん、またカチンコチンのハンバーグだよ! あっためると食べれるやつだよね!」

「あの女は冷凍食品しか食文化を知らないのか!?」

 もしや、唯神は食料調達と言っておいて冷凍食品だけを買ってくるのではないかと不安が発生する。

 思わず溜め息を吐いた雪白。

 彼女はそこで、ふと窓ガラスへ目をやった。

「あ」

 片ポニーテールにしていた長い髪が、崩れそうになっている。見てみれば、髪を縛っていたゴムが切れそうになっていて寿命がきたのだろう。

 雪白は立ち上がって、

「すまん。私は少し手洗いにいくから、ここを離れるなよ?」

「うん、バッチシだぜお姉ちゃん!! ドンと構えて待ってるぜい!!」

「子供はそう言って離れるから怖いんだが……まぁ、信用するからな」

 ハグハグとパフェをスプーンですくっては口に運んでいる秋羽に苦笑して、雪白は髪を整えにトイレへ向かっていった。 

 こうして一人になった秋羽は、消えた雪白の背中からパフェへ視線を戻してクリーム摂取に励もうとするが、

「美味しいかい、そのパフェ」

 聞き覚えのない声がかかった。


 

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