爆弾責め
大柴亮は既に倉庫から飛び出て、離れた物陰で爆発音を聞いていた。連続した爆破の影響で、倉庫が半壊する光景を目にしながら軽く口笛を鳴らす。
「そこらの花火より迫力満載だな」
あの倉庫は使わないものを詰め込んだ倉庫に過ぎない。食品、機材、電子機器などの多種多様なものが揃っている。
そう。
だから大柴亮は、その倉庫にあったモノだけで『爆弾』を制作したのだ。
「俺は『凶狼組織』の一員だ。爆弾の作り方くらい、いくらでも知ってる」
パイプ爆弾。
材料のパイプには、水道工事などに用いられる、両端にネジの切られたパイプが使用されることが多い。パイプを密閉する事で内部の圧力を上げ、爆発の威力を上げる。また、容器として使用されているパイプが爆発によって破片となり、周囲に被害を与える。同様に、破片効果を目的として釘や細かな金属片を内部に詰め込むこともある代物だ。
―――倉庫にあったものだけで作れる簡単な爆弾だ。
火炎瓶。
瓶(主にガラス製)にガソリン、灯油などの可燃性の液体を充填した簡易な焼夷弾の一種だ。原始的な爆弾の一種とも言われるが、現在の日本の法律では爆弾とはみなされず、「火炎びん」という独自のカテゴリになる。これは炎上はしても爆発はしないため、このような分類となっている。故に爆発の威力を上げるものではない、熱と着火の役割を担った兵器だ。
――――倉庫にあったものだけで作れる簡単な焼夷弾だ。
小麦粉。
コンテナに積まれていた、大量の粉塵爆発のキーになるものだ。大爆発の八割近くが粉塵爆発によるものだろうが、これを引き起こすためにも火炎瓶は使用できた。威力は絶大。パイプ爆弾も加算されて最強の兵器と化しただろう。
―――倉庫にあったものだけで起こせる簡単な爆発だ。
爆弾責めというやり方だ。
あまりにも乱暴な方法だったかもしれないが、大柴亮からしてみればこれ以上の結果はない。下手をすれば自分も巻き込まれるし、近くには火力発電所の本体があるため着火して……最悪の事態を招くのではとも思った。
しかし。
「ま、結果的に勝った。それで終いだろう」
半壊した倉庫から踵を返す。
あれだけの破壊には耐えられないはずだ。
だが、
「大柴ァァあああああああああああああああああああッ!!」
ガン!! と、大柴の左肩に鋭い衝撃が走った。前のめりになって倒れそうになった彼は、膝をついて痛む肩を押さえつける。
「ぐ、っがあ……!?」
見てみれば、上腕の中心に小さな穴があいていた。弾丸が貫通し、血を静かに落としていたのだ。ゆっくりと振り返ると、やはり半壊した倉庫の中からヨロヨロと男が出てきていた。
「ったく……だから、俺は場違いだってんだクソッたれ!!」
大柴の視線が捉えているのは木崎仁。全身血まみれで、顔の半分が肉だけで出来ている痛々しい顔と体の男だった。爆発にやられたのだろう。彼には左腕の肘から先がなかった。
「大柴ァ、ふざけやがって……!! なに勝手に勝利確信して帰ろうとしてんだよ、あぁ!? まだ俺がお前をぶっ殺してねえだろうが。門限までに帰らねえとママに怒られるってか?」
直後に。
バン!! という銃声が木崎仁の右掌から生えている銃口から発生した。弾丸は大柴の右太ももに突き刺さり、鮮血を生み出す。
「ぐっがああああああああああああああああああ!?」
ついに絶叫を上げて倒れふした大柴。彼は片足、片腕を使えなくなったことで逃亡すらも不可能になっていた。
その様子に、木崎仁はニタリと笑って、
「安心しろ、お前はよくやったよクソったれ。サイボーグじゃなきゃ死んでた。負けてた。体ァ機械じゃなきゃ俺の負けだ。誇っていいぜ、その小悪党っぷりに」
「……ぐ、が……!?」
「ハハ!! 今更なにを足掻いてんだよバカが!! 雑魚は雑魚らしく閻魔に減刑願いしてこいよ小悪党がァァああああああ!!」
木崎仁がゆっくりと近寄ってくる。彼はおそらく死なないだろう。体が機械ならば、また機械を埋め込んでしまえば傷口は塞がる。故に大柴の完全敗北で終わるのだ。
その事実は誰もが確信するだろう。
しかし、
「は、はは」
大柴は笑い出した。
「はははははははははははははははははははははははははははッッ!!」
「……はぁ? なにやってんだお前、壊れたか?」
怪訝そうに大柴を見下ろす木崎仁。
しかし彼は構わず、
「はは、ははは!! いや、やっぱり俺はモブだって自覚したんだよ、くそが!! もう自分の情けなさに笑いが止まらねえっツーの!! チクショウ!!」
「おいおい、どうせ死ぬんだ。嫌なことはパーっと忘れろよ」
「だったら酒でも持ってきてくれ。冥土の土産にハイボールの味を覚えていきたい」
「はは、悪いがねえよ。唾液で我慢しろ」
「そうか……。チクショウ、ほんと場違いだ。何度も言ったが場違いだってんだ! 俺みたいな三下がでしゃばってる時点でおかしいんだよ!! あーもうムカつくぜ、俺をこの戦場に派遣した上に殴り込みいきたいっての」
「安心しろよ、『デーモン』はその内社員旅行で地獄行くから。俺が送り飛ばすまでは地獄で一人旅してろ、血の池地獄とか有名スポットらしいぜ?」
「パンフレットの一つくらい欲しいな、ねえのかよ」
「ないな。でも楽しすぎて最高な旅行だってのは保証する」
「そうか、サンキュ」
大柴は諦めたかのように息を吐いた。その様子に口を引き裂いて獰猛に笑った木崎仁は、右掌から生えている銃口をターゲットの頭に合わせて、
「じゃあ地獄で先に観光してろ。クソ野ろ―――」
しかしそこで。
バキゴキメキボキ!! という骨と肉がまるまる砕け散った音が、木崎仁の上半身から炸裂した。




