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小悪党

「で、お前は何で俺みたいなモブキャラを相手にしてきた。夜来初三のほうへ、さっきの女と二人がかりで回ったほうがいいんじゃないのか?」

「はは、そういうなって。俺はさ、勝てない喧嘩はお断りなんだよ」

「逆説的に考えて―――俺には勝てると?」

「自覚があって聡明だな」

 大柴亮は黒塗りの拳銃を構えて目を細めていた。夜来初三から離れた場所に移動しているので、周りには『デーモン』のアジトの一部分である火力発電所があった。

『デーモン』とは資金が無限にあるわけじゃない。

 故に、一般的な節約方法なども組み込まれたシステムで回っていることもあるので、白い外装をした巨大な建築物―――火力発電所の目の前で大柴は敵とにらみ合っていた。

 長身で片眼鏡をかけている、格好は赤を基調とした衣服で、全体的に線が細いからだをした男。すなわち『エンジェル』の木崎仁は演技がかった身振り手振りをしながら、

「あーあー、悲しいねぇ。悲しくてマジで涙溢れる展開だわ。今ここで華々しく散っていく果敢な男の末路を決定するのが俺っていう現実に泣きそうになるわ」

「まぁ、確かに俺は華々しく散るかもだな」

「だろ? いやいやごめんね? ぶっ殺すけど気にしないでくれると助かるわ」

「……ま、確かに反論はねえよ」

 大柴亮は両手でしっかりと構えている拳銃を少しだけ下げた。

 視線も一緒に下げて。

「俺はどっかのドSのガキみたいに魔力を使えるわけでもない。不死身の上司みたいに死なないわけじゃない。その上司みたいにニコニコ笑顔で絶対的な力を振るえるわけでもない。―――ただの三下だよ、俺は」

「え、ちょ、自覚超えて自虐じゃね? 罪悪感くるからやめろって」

「しかし、それは俺が『ちっぽけな悪』だからだ」

 自分自身への過小評価に、大柴亮は苦笑する。

 そして目を閉じた。

「あのガキも、豹栄さんも、怪物に憑依された人ってのは『悪人』ばっかだ。それも、俺みたいな小悪党とは違う、『信念』を持った『強い悪党』ばっかなんだよ。つまり俺が怪物に憑依されることもないモブ同然の悪人なのは、単純に『俺の悪が小さい』からだ。俺がちっぽけな小悪党だからだ」

「……」

「ま、確かにそうだよな。『怪物に憑依された悪人』って、俺の認識じゃあ『苦しい人生を味わった人』って感じなんだよ。実際そうだろ? 夜来のアホは『自分を悪と肯定する』ことでしか両親の虐待に耐えられず、豹栄さんのことは具体的なことは知らんが……多分、世ノ華雪花を守る為に『ウロボロスの呪い』宿してるんだろうな。上岡さんだって、聞いた話じゃ5千人以上の死を見てきたとも言ってる。どいつもこいつも、『怪物に憑依されたほどの悪人』ってのは『可哀想』なやつばっかなんだよ」

 大柴は目を開き、自分自身へ言い聞かせるように告げる。

「だが俺はどうだ? 怪物に憑依されて呪いなんて現象にはあってない。それはつまり、俺は全然『可哀想』でもない、苦しんでもいない、呪いにかかるほど『苦しみ』を味わってない生温い人間だということだ」

 つまり、と付け足して、



「俺は結局のところ『マシな悪』にしか過ぎないんだよ」



 ズガンズガン!! と、連続して銃声が鳴り響いた。大柴が木崎仁の胸をロックして弾丸を飛ばしたのである。容赦なく、躊躇いなく、呪いなんて宿していないが『悪人』らしく敵を始末するために動いたのだ。

 しかし、

「なんだ、案外お前ってばモブじゃないじゃん」

 直撃したはずの弾丸は、全てあらぬ方向へ弾き飛ばされた。つまりは木崎仁に傷はひとつも残らないという、絶対的な力の差がわかる結果で終わったのだ。

 チッ、と舌打ちした大柴。

 彼は一歩後ろに下がって、相手の様子を伺う。

「夜来、豹栄、上岡の三人だけをマークしておくべきかと思ったが……大柴、お前は面白いよ。なんというか、お前には『負ける気がする』って感じたわ。お前は突拍子も無い大逆転をしてくれそうな―――期待が持てる」

「馬鹿が。俺はただの三下だ、戦力差は変わらねえ」

「そう言うな。楽しく期待するってのも人生の醍醐味だぜ?」

「っていうか、わざとらしく『ふり』をかけるなよ。所詮はただの小悪党に過ぎない俺にやれることはない」

 大柴亮と木崎仁は静かに対峙する。

 直後に、本格的な殺し合いが始まった。 

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