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狂いに狂う夜来初三の、残虐になる理由

(い、いつの間にこんなに大量の魔力を……!? っ、そうか! さっきの地盤を壊した大規模な一撃の時に仕掛けてたのか!!)

 どうりで美神翼の体が連続して『壊れた』わけだ。しかし納得する暇があるのなら逃げなければならないのだが、どうやら悪魔は情けなんてないらしく、

「―――っ」

 美神翼の折れた両足が、ゴキゴキゴキバキボキベキバキベキパキベキィッッ!! と、連続して折れて折れて折れて折れていく音が足の中で鳴り響いた。サタンの魔力の効果・自由自在に破壊できる力である。

「っぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?」

 あまりの激痛に絶叫が上がる。

 しかし夜来初三の近づいてくる足音はやまない。ザッザッ、と徐々に這いつくばっている美神翼のもとへ距離を縮めてくるのだ。

「ぎゃっはははははははははははははははははははは!! 惨めだねぇ、SF実験の産物が。あぁ? カッコイーセリフで吠えて眩しい進化とかしねぇのかよ。つまんねぇ演出ばっかで見てて飽き飽きしてんだよボケ」

「が、っ……ぐあ……!?」

「呻くな、うるせぇんだよ」

 ズドン!! と夜来初三のストンピングが美神翼の右腕を捉えた。再び絶叫と悲鳴が混じった甲高い少女の声が上がるのだが、夜来初三は小指で右耳の中をかきながら一瞥していた。

 ニヤニヤとした笑みだけは絶えないまま、彼は無情にも追い打ちをかける。

 夜来初三は、現在、うつぶせで倒れている美神翼の右腕を片足で踏んでいる。―――が、何と彼はその先をいった行為を行った。

 踏み潰していた華奢な少女の腕を―――グリグリグリグリと押しつぶす。『絶対破壊』を纏っている足で踏み潰すことで、見事に美神翼の細い右腕はブチブチブチブチブチブチブチブチブチ!! と潰され、引きちぎられ、二つに分かれて肘から先がちぎれてしまった。

 驚愕の現象だった。

 誰もが目を背ける光景だった。

「あ、ばぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!!?」

「おいおいおーい。ンな泣き喚くなよアバズレが。こういうハードなの好きだろ? 俺も大好きなんだよ、SMプレイってマジ興奮するよなぁコラ!!」

 瞬間。

 美神翼の残った左腕も―――同じやり方で踏み潰し、ちぎって、二つに分けてやった。激痛に苦しむ少女の絶叫は泣き声へと変わっている。涙を流しながら、喉を裂くように声を上げて苦しんでいた。

 しかし、

「ハハ、あー面白ェ!! やべぇよやべぇよクッソやべぇよォ!! 理性とかブラジルに吹っ飛んじまったぜ犬畜生がァァあああああああああああああ!!」

 美神翼の右目に、中指と人差し指の二本指を突っ込んだ。眼球が潰れた感触を楽しみながら、夜来はそのまま美神翼を勢いよく投げ飛ばす。

 近くにあった壁にぶち当たった美神翼。彼女は悶絶するように息を吐いて、無抵抗に地面へ崩れ落ちる。

「あん? おいおい二回戦に行こうぜクソビッチ。まだ興奮してんだろ? 欲求不満は美容の大敵だ、俺がしっかり処理してやるから―――もっとあえいで死ねやゴラァ!!」

 既に意識を失いかけている寸前の美神翼を、容赦なく蹴りつけた。彼女の細い腹をひたすらに、二十回、三十回、四十回、五十回、六十回、七十回、八十回、九十回、百回と蹴って蹴って蹴りまくる。歯止めが利かない。もっともっと肉を潰したいのか、夜来は息を荒げながら少女の体を盲目的かつ楽しそうに蹴り潰していた。

「ぎゃは」

 狂っている。

 彼はやはり、狂っている。

「ぎゃっはははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 爆笑して。

「死ねよ、死ねよォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 罵声して。

「ア――――――ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 イカれて。



 暴虐の限りを尽くして、狂気の怪物へ染め上がる。



 もう数えるのも億劫なほど少女の体を蹴り潰していた夜来は、ほとんど目の焦点が合っていなかった。その状態で引き裂くように笑顔でいるのだから、恐ろしいにも程がある。

「ふざけんなよクソがァ!! 雪白さらったテメェら全員ぶっ殺すに決まってんだろうがよぉ!! あぁ!? あの白髪女に手ェだして、タダで済むとか思っちゃってるテメェの思考回路どうしちゃってんですかぁ!? ネジぃ緩んでんじゃねぇのかよクッソ野郎がァァああああああああああ!!」

 もはや美神翼は動かない。

 一切、ピクリとも反応がない。

 それでも。

 それでも。

 それでも。

「テメェ寝てんじゃねぇぞゴラァ!! まだ泣けよ!! まだ叫べよ!! まだ命乞いしろよ!! そうやって苦しめよオイ!! あいつら苦しめたクソがそう簡単に死ねると思うなよ―――殺して殺して殺して殺して殺してぶっ殺してぶっ殺すんだから寝てんじゃねェェえええええええええ!!」

 これこそが、彼が『残虐』になる理由かもしれない。自分の身内を、雪白千蘭を、巻き込んで傷つけたクソ野郎共に対する『怒り』が、純粋に爆発しているのかもしれない。

 よって止まらない。

 狂ったように、高くもあって低くもある笑い声を響かせながら、悪魔は容赦ない暴力で蹂躙する。

「殺す!! ぶっ殺す!! 起きろよオイ―――起きてもっともっともっともっと俺にぶっ殺されろよゴラァ!! 泣いてわめ―――」



「夜来さん」



 トン、という軽い音。返り血を浴びながら美神翼の体を踏み潰していた夜来の右肩に、一つの手が乗せられていたのだ。

「ぜぇー!! はぁー!!」

 もはや呼吸ができないほどに興奮していた夜来。彼は息をゆっくりと整えてから、ギョロリと背後に立っている上司へ振り向いた。

 夜来の血走った目に屈することのない上岡真は、ニッコリと笑って、

「彼女、もう死んでます」

 視線だけで、ただの肉塊へと変えられていた美神翼を示して告げた。すると夜来は、しばし動かずにうつむいていたが、やがて上岡の手を払って歩き出した。

 その背中に苦笑して、上岡は呟く。

「ほんと、手のかかる部下ですね」

 



 立ち去った二人の後に残っていたのは。

 グチャグチャになっている、挽肉のような物体一つだけだった。

 

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