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裁き

(ふざけやがってェ……!! あのクソアマ一体何をしやがった!? 俺の体は触れたモン全てを『破壊』することが出来る。つまり言っちまえば大前提として俺に攻撃は加えられないはずだ)

 夜来初三は口の中に残っていた血を、ぺっと地面へ吐き捨てた。彼が睨みつけているのはわざと思考する余裕を与えているのだろう、美神翼という少女一人。

 実に不可思議な光景だ。

 あの夜来初三がたった一人の少女相手に血を流しているなんて。

「そーいやさ、夜来くん」

 ふと、美神翼が呼びかけてきた。

「実は前からアンタのことはよく聞いてたんだよね。聞けば由堂さんの右腕引っこ抜いたり、ザクロさんのことグチャグチャにしたり、仲間のためなら顔すりつぶしたりして敵を潰すイカれた人なんだって?」

「何が言いたい」

「いやまぁ、なんていうかさ―――『病的』だよね、アンタって」

「あ?」

 意味が分からないという顔をする夜来に対して、美神翼は肩をすくめて苦笑する。実際に夜来初三の手で殺されかけたからなのか、その目には確固たる確信の色が宿っていた。

「何でそこまで残虐なやり方で仲間を守るの? ハッキリ言っちゃえばさ、とっとと敵を殺しちゃえばいい話じゃん。さっき私を踏み潰して肉塊に変えてたけどさ、『ジワジワ殺していく』時間がもったいなくない? さっさと私を殺して立ち去ればいいのに、アンタは私をいたぶって遊んでた。『遊ぶ』時間はいらなくないか、って話だよ」

「小娘が説教か」

「そうじゃないよ。ただの興味さ。どうして私をいたぶって遊んだの? そんな無駄な時間を使ったアンタの心を知りたい」

「……」

 夜来初三は沈黙する。悪人面が張り付いた彼の顔には、恐ろしい両目が美神翼をロックしていた。しかし美神は一切ひるむことなく、しばしお互いに視線を交差させる。

 が、折れたように夜来は溜め息を吐いた。

 面倒くさそうに告げる。

「『裁き』だよ」

「? さばき?」

「チッ。面倒くさいな」

 夜来は首をかしげた美神翼に舌打ちをして、

「俺は身内に害をなすクソ野郎は殺す。それがガキだろうと、女だろうと、ババァだろうと、ジジィだろうと、国だろうと、世界だろうと、仏だろうと、神だろうと、全部殺してやる。それも『残虐』にな。―――そいつらクソ共は俺の身内に手を出した。だからムカつく。だからじわじわ殺すんだよ」

「いいや、半分正解で半分不正解だね」

 美神翼は肩をすくめながら、尋ねる。

「アンタさ、『楽』なんじゃないの? 敵対したやつをジワジワなぶり殺して、笑いながらぶっ殺して、そうやって『客観的に見て悪人』になれる行為が『楽』なんじゃないの? だからそういう『病的な守り方』で仲間をまもってるんじゃないの?」

「……」

 似たようなことを、『エンジェル』の本堂賢一という男から言われたことがあった。『敵を残虐に殺す自分の姿が悪人らしいから、残虐な「フリ」をしているんじゃないか』と、あの男からも説かされたことがある。

 故に、夜来は同じ説教をくらった現実にイライラしたようで、

「うるせぇよクソ野郎」

 吐き捨てた。

 質問には答えずに、ただ吐き捨てた。

「純粋に噛み付いた犬をしつけるのが好きなんだよ―――テメェみたいなクソアマをいたぶって泣かせるのが大好きで大好きで仕方ねぇだけだってんだ」

「いやいや、ホントにそこまで残虐人なら『守る仲間』もいないっしょ? アンタ、『自分を騙してる』だけじゃない―――」

 美神翼の言葉は続くことがなかった。

 理由は単純。



 ゴッ!! と、夜来初三が地面を蹴りつけて。

 半径百メートルほどの地盤を盛大にぶち壊したからだ。



 雪崩のように崩れていく地上。その圧倒的な一撃に飲み込まれかける美神翼は、転がるような格好で緊急回避を行った。さらに加えて、回避に成功したと同時に『夜来初三専用弾丸』を装填されている右掌から生えている銃口を向けて、

「この短気が!! 少しは話を聞けよ!!」 

 ガン!! という爆音と共に、『絶対破壊』をすり抜ける弾丸が再び発射された。狙いは先ほど着弾した場所―――腹部だ。おそらくこれで、『サタンの呪い』を宿している夜来初三も少しは動けなくなるはずだ。

 だが、結果は意外なベクトルへ進む。

「そぉーいやよぉ」

 バリィン!! というガラスが砕けるような音と共に、夜来初三に着弾したはずの一撃が破壊された。ギョッとした美神翼は、思わず数歩後退する。

 だが悪魔は止まらない。

 一流の悪人は口を引き裂いて笑った。

「昔さぁ、俺がガキだった頃の話なんだけどさぁ、学校の授業でクッソ面白いモンを作った覚えがあんだけどさぁ」

「っ、何で……効いてない…!?」

「おい小娘」

 夜来初三は歩き出した。

 同時に首の関節をコキリと鳴らして、尋ねる。



「空気砲ってクソ笑えるモン知ってるか?」



(っ!? バレた!?)

 美神翼は干上がった喉を潤すために、生唾をゴクリと飲み込んだ。しかし夜来初三は凶悪な笑顔をさらに凶悪の色へ染め変える。黒い笑みをドス黒い笑みへ変化させて、

「今思い出してみたらよ、理科の実験かなんかで空気砲ってモンを作った覚えがあるんだよな。でさでさぁ、テメェみたいに俺を説教してきた男のことも思い出してつながったんだけどさぁ」

「っ」

「その男、俺が無意識に壊してなかった『空気』を操って噛みついてきたのよ。んで思ったんだよ俺は―――『空気砲』って改造して強化したら爆笑するレベルでヤバイ武器になんじゃねぇかなって。空気を壊してない俺に『空気砲』は効くだろうなって」

「あ、あはは、ピンポンピンポーン。だ、大正解。『夜来初三専用弾丸』は『空気を圧縮した弾丸』でしたとさ、おーしまい」

 おそらく夜来は本堂賢一との戦いでも見せた『空気も含めて本当に触れたもの全てを破壊』したのだろう。言ってしまえば、美神翼は本堂賢一の能力を科学的にコピーしたレプリカに過ぎない。本堂を倒したときと同じ手を打てば、それで終了だ。

「ハハ。おいおい、おしまいじゃねぇだろ」

 タネがバレたことで若干ながら動揺している美神翼は、じりじりと後ろへ下がっていた。その反応からして対抗策がもうないと察した夜来は、宣言する。



「『裁き』の始まりだろうがコラ」



 ズブッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! と、美神翼の右腕が肩から吹っ飛んだ。反応が追いつかなかった美神翼は、なくした右腕には構わずにひとまず逃げようと判断する。

 しかし

 ゴキィッ!! と、今度は両足が突然折れた。

「く、っがああああああああああああああああああっ!?」

 どうやらサイボーグでも痛みはある程度あるらしい。骨折した足では歩くこともままならずに、ドサリと美神は顔から地面へ転倒する。

 動けない。

 両足は折れていて、片腕もないこの状況では、とてもじゃないが逃げられない。

(な、んで、急にこんな怪我―――っ!?)

 そこで。

 違和感が生じた『地面』へ目をやった。



 サタンの漆黒の魔力がカーペットのように敷かれている、黒い粒子に包まれた地面へ目をやったのだ。



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