謎の弾丸
「あーあ、痛い痛い。私も女の子だしさ、顔とか体とかいろいろ気ぃつかってるんだよね。あんまりボコボコにしないでよー」
あれだけ踏み潰して、あれだけ蹂躙して、あれだけぶっ壊してやったはずの美神翼は起き上がってきた。さも当然のように立ち上がって、夜来初三に無邪気な笑顔を見せてきたのだ。
眉をひそめた夜来。
彼はそこで、周囲に大柴亮と『エンジェル』の木崎仁の気配がないことに気づく。おそらくは戦場を変えたのだろう。つまりこの場には、自分とあの『なぜか死んでいない』美神翼だけがいる。
夜来は持っていたままだった日傘を、ついに投げ捨てた。
明らかに日傘なんて持っていては『危ない』相手だと認めたのだ。
「テメェ、何で俺の許可なく呼吸してやがるクソアマが。きっちり俺ァテメェの内蔵を内側から『壊した』はずなんだがなぁ、びっくり仰天すぎて笑えるぞ」
「いやね、確かにお前の『絶対破壊』は私の体ズタズタにして『殺した』はずだよ。そこは肯定する」
「じゃあ何で結果的にテメェは『生きて』否定してんだよコラ」
「―――これだよ」
美神翼は潰れたはずの顔の傷口を見せてきた。まるで自分の作品を観賞させるように、ナチュラルに血まみれの肉を見せてきた。
が、おかげで謎は解けた。
夜来は美神翼の顔の傷口の『中』や、その他の傷口の『中』に目をやって理解した。―――美神翼の体の中には『金属』や『ネジ』が無数に埋め込まれていたのだ。
そう、まるで、
「『サイボーグ』ってか? なんだよそりゃ、SFすぎて引くぜガキ」
「にゃはは! でも体の九割が機械だからね、おかげでアンタに『絶対破壊』で内蔵めちゃくちゃにされても『内蔵なんてない』から助かったよ。胃袋、肺、肝臓とかその他の内蔵は全部『自己修復型の機械』が代わりになってる。―――よって私はどんだけ壊されても『機械だから』死ぬことはそうそうないってわけ。どう? びっくりした?」
「ああ、おかげさまで暇潰しにゃなった。お礼に今度こそぶっ殺してやるよ」
「いやいやいいって。そう簡単に死ぬのは純粋に好きじゃないし」
瞬間、美神翼の体中についていた傷口が徐々にふさがっていった。おそらくは皮膚も何かしらの機械で出来ているのだろう。まるで皮膚が伸びていくように傷を覆って、見た目はほとんどが綺麗な女の子に戻る。
が、さらに、
「今度はこっちの番だね、夜来初三。お前のことはよーく聞いて対策ねってるんだよ」
「吠えるな小娘。三流の悪人は三流らしく屍に変われやコラ」
「はは、そういう攻撃的な態度はすっごくタイプなんだけどな。場所が違かったら逆ナンしてたかも」
軽い調子で言った美神は、右手を夜来に向けてかざす。すると、手のひらからズリュ!! と黒光りする銃口が飛び出てきた。どこまで改造されているかは知らないが、どう考えても正気の人間とは思えない。
「鉛玉プレゼントだよ、夜来くん」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!! と、手のひらから生えた銃口から無数の弾丸が飛び出てきた。マシンガンというよりは機関銃というレベル。ただの人間では一瞬で肉そのものへ変えられるだろう。
「ったくよぉ」
そう。
ただの人間ならば、という話だ。
「何度も言わせんなよ、テメェがどんだけ体ァ弄られてようと俺にゃ届かねぇんだよボケ」
発射された弾丸は全て『破壊』された。まるで蒸発するように、存在そのものが悪魔の体に直撃した瞬間、無慈悲にもかき消されたのだ。
夜来初三は大悪魔サタンと似た存在。
故に彼には悪魔の神・サタンの魔力が身には宿っている。
よって、
「鉛玉ごときで俺に足掻こうとすんなクソボケ。SFチックな体が自慢みてぇだが、ファンタジーサイドの俺に届くと思うなよ小娘」
「いやまぁ知ってたけどね、やっぱ本当に効かないのかなぁって思って実験したんだよ。それにしても凄いね、何でもかんでも壊せるんだ。何かカッコイーじゃん」
「……テメェ、どういう思考回路してんだ? テメェがサイボーグって分かった今、俺はテメェを『機械ごと』みじん切りにすんぞ。今度こそ確実に殺せばいいだけの話だ。別に不死身ってわけでもねぇんだから、結局のところテメェと俺の絶対的な立ち位置は変わらねぇだろうが。なのに何でヘラヘラ笑ってられんだよ、あ?」
「あー、まぁそうだよね。確かにアンタに次触られたらアウトだ。間違いなく死ぬ」
「理解できててお利口さんじゃねぇかよ」
夜来の獰猛な笑顔をしばし眺めた美神は、クスリと苦笑して、
「うん、でもね夜来初三。私は『アンタに対抗する為』に『サイボーグ』にされたんだよ」
「あ?」
怪訝そうな声を上げた夜来に向けて、美神翼はハッキリと自分という存在を断言する。
「私は祓魔師に続く『夜来初三専用兵器』ってわけ」
直後のことだ。
ズガン!! という爆音と共に、夜来の腹へ重い衝撃が走った。さらには衝撃ポイントからドロリとした液体があふれた感触も発生する。その思わぬ事態に度肝を抜かれた夜来は、混乱している頭を使って状況を正確に分析した。
(っ!? 『絶対破壊』をすり抜けた!?)
見てみれば、美神翼の右掌から生えていた銃口の先から煙が上がっている。おそらくは『射撃』されたのだろう。しかしありえないはずだ、『絶対破壊』を展開している夜来の腹に弾丸が届くわけもない。
「ここでヒントです」
ゴハッ!! と口から血を吐き出した夜来は、思わず膝を折りそうになる。だがそれでも、可愛らしい笑顔を向けてくる美神翼をギロリと睨み、聞き耳を立てた。
「私は兵器です。それもお前専用の兵器。というわけで、さっきの弾丸も『夜来初三専用弾丸』を使用しました。さてさて、その弾丸とはなんでしょうか」
「く、っそガキがァ……!!」
「そう睨まないでよ、怖いなぁ。私だって好みの男傷つけるのは気が引けるんだよ?」
夜来は血が上った頭を振って、冷静さを撮り戻す。
そして、自分の体に直撃した謎の現象について思考し始めた。




