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次元が違う

「おいおーい、笑顔しか特徴のないモルモットがなにを凄んでるんだ? 君は大人しく半殺しにされて、俺にその『怪物人間』という評価を押される化物ボディを渡せばいいんだよ。わかるかなー? さっさと両手をあげて投降してぶっ殺されればいいんだよ実験動物が」

「はは、まぁ確かに『エンジェル』の実験で完成したのが僕という『怪物人間』ですし、モルモットという評価には反論できませんね」

「だろ? じゃあぶっ殺されろや」

「―――いいえ、お断りいたします」

 今度こそ。

 ハッキリと、上岡の笑顔から認識できるほどの禍々しい殺気が漏れ出してきた。明らかに殺す顔をしている。ニコニコと『出来るだけ殺気を抑えるように』笑顔を浮かべているのだ。

 今の上岡は間違いなく、夜来初三の言っていた『黒い』部分のみで構成されている。

「言ったでしょう? あの実験を知ったアナタは殺すって」

「そうくるか。まったくもって君と俺の意思は交わることがなさそうだね。……ってちょっと待てよ?」

 ハッとしたように顔をあげる獅子堂。

 彼は上岡に首を軽くかしげながら、



「上岡くん、もしかして君が『デーモン』に加わった理由は『多重怪物憑依実験』で死んだ自分と同じ実験体モルモットたちの『仇討ち』だとか、くだらん理由じゃないだろうな?」



「……」

 無反応という返事が返ってきた。

 否定することをしない上岡の様子に、獅子堂は思わず笑い声をあげる。

「く、ははは! ぷっははははははははははははは!! いやいやいやー!! これは傑作だなぁおい! 『デーモン』の中で三本の指に入る危険人物の君が、千の怪物を宿した俺ら『エンジェル』の作品だった君が、まさか仲間だった実験動物共の仇討ちのために俺ら『エンジェル』を敵に回したってのか!? そんな小さな小さな『怒り』という感情一つで!? だったら『くっだらない』自殺行為だぞオイ、こっち笑わせるセンス良すぎだろうがバ―――――――――――カ!!」 

「……ま、確かに僕としても少々命をかけるには小さな理由かと思いますけどね」

「自覚アリでやってんのか、それはもう脳内器官がトんじまってるぞ実験動物A!! ほら、大人しく俺に解剖されろよ、きっちろ脳みそ組立直して来世っつーもんに箱詰めで届けてやる」

「送料無料で?」

「ああ、丁寧に扱ってやるから感謝しろよ」

 そうですか、と上岡は柔和な微笑みを咲かせて、

 


「じゃあ代金替わりに、どうぞ真っ赤なショーをご覧あれ」



 直後のことだった。

 本当に理解が追いつかない現象が連続して発生したのだ。まず最初に、獅子堂の右目が弾けとんだ。内側からキュポンと、ビールの栓抜きをしたような軽さで眼球が吹っ飛んだのだ。

 しかし、それだけでは終わらない。

 目玉が弾けたすぐ後に、今度は両腕がドロリと溶けた。一瞬で泥水のようにビチャビチャと崩壊した腕には、既に骨や肉だなんてものはついていない。さらには体中のいたるところから、肉が飛び散る独特の音が鳴り響く。

 背中、顔、胸、腹、足、頭、喉、腰、指、爪、耳から穴があいて血液が水鉄砲のように噴出する。それも永続的なまでに、終わりが見えない残酷な現象だった。

「が、っつがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 あまりの激痛に、声帯がブチギレるような絶叫が上がる。

 地面へ倒れてジタバタと痛みに耐えられず暴れまわる獅子堂は、体中から飛び出てくる血液を無視して叫ぶように上岡へ言う。

「お、まえぇぇえええええええええええええええ!! いっ、ったい、何をしやがったああああああああああああああああああッ!?」

「はは、いやはや惨めなお姿で滑稽ですね」

「っぐ―――っぼぐゴォォあおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 ビシャビシャビシャビシャ!! と、軽く2リットルくらいの血が獅子堂の口から流れ落ちてきた。明らかに異常なまでの吐血量。胃袋まで落ちてきそうな勢いだった。

 しかし。

 それでも、獅子堂は上岡を唯一残った血走っている左目を使って睨み、

「こ、た、えろぉぉおおおおおおおおお!! な、にをしたぁあああ!?」

「ええ、まぁ簡単な話ですよ。あなたは確かに『時間』を使って傷をなくすことも出来るし、炎やその他の怪物の力を使っていろいろな能力があるんでしょうね。少なくとも十体分はね。ですから、まぁ、さすがに僕でも対処できないと思ってたんでしょうけど『次元』が違うんですよ。僕とあなたじゃ」

「じ、げん……?」

「ええ」

 コクリと頷いた上岡は続けていった。

「僕は『同時』に『千』の呪いを操れるんですよ。あなたは一つ一つでしか呪いを使えてませんでしたよね? まずは『イフリートの呪い』を使って、その後に『クロノスの呪い』を使ってました。ほら、そこが既に僕とは絶対的な差があるんです。―――僕は『一度に千の呪いを同時使用』できるから『怪物人間』なんて異名がついてるんですよ」

「ッッ!? ど、うじ……だと……!? バカを言うなクソボケがァ!! そんなことが可能なわけないだろ!! それじゃ、それじゃあお前は―――」

 信じれない化物を見るような目で、獅子堂は上岡を見上げながら、



「―――千の呪いを『同時』に使用できるんじゃ、お前はもう『千の怪物』の『集合体』じゃねえかよおおおおおッ!?」



 千の怪物の塊だった。

 上岡真は千の怪物を宿していて、尚且つ『同時』にその千の力を扱えたのだ。一つ一つ、呪いを切り替えて戦う獅子堂とは違って、『同時』に千の怪物の力を振り回せたのだ。

 よって、先ほどの獅子堂の体を襲った謎の現象も『千』の力の内、幾つかを同時に行使した結果だろう。獅子堂の宿している怪物十体を飲み込むほどの『大量の怪物』の力をぶつけてやったのだ。

 詳しいことは分からない。しかし絶対の事実は一つある。

 上岡真は千の呪いを同時に解放できる。

 それでは確かに、

「はは、いい評価ですね。集合体という言い方のほうがしっくりきました」

 千の怪物の塊―――『怪物人間』そのものではないか。

 千の怪物の塊は笑った。

「だから言ったでしょう。僕とあなたじゃ次元が違う。だって―――」

 彼は。

 ゆらりと両手を広げて、微笑みながら宣言した。



「―――僕とあなたじゃ、中に飼ってる怪物の数に絶対的な差があるんですからね」



 その言葉と共に、鮮血が辺りには飛び散った。上岡の笑顔にも返り血が吹きかかるが、彼は相変わらずな表情を崩さない。

 死体となった哀れな科学者を数秒だけ見下ろして、上岡は踵を返す。返り血で汚れてしまった金色のスーツの襟を両手で整えながら、

「あーあ、スーツ新しくしないとダメですねぇこりゃ」

  

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