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 木々が生い茂っている地上に飛び出た大柴亮は、巨大な筒のような物体を肩に担いでいた。正体は地対空ミサイルだ。地上から空中目標に発射されるミサイルで、大規模なミサイル・サイトを設置する必要のあるものから、発射機を肩に担いで発射する小規模なものまである。

 大柴はスコープの穴にそっと目を近づけて、ターゲットである大型ヘリコプターへ狙いをつけた。

「まったく。あからさまな囮だな。しかし囮とは思わせないほどの規模のへりを使っているところからして、連中もそれなりに頭は使ったらしい」

 まぁ、と含み笑いをこめて付け足し、

 大柴はヘリコプターを落とすために引き金へ指をかける。

「結局は地頭の違いだ」

 しかしそこで。

 覗いていたスコープに変化が生じた。スコープには黒塗りのヘリコプターがしっかりと映っているので問題はないのだが、上から何かが降ってきたのが見えたのだ。

 黒い影だ。

 それはヘリコプターの上へ、ガン!! と着地すると、グルグルと回っているプロペラを片手で掴んで強引に引きちぎった。

 大柴は咄嗟にスコープでズームしてみる。

 結果、やはり黒い影は全身黒ずくめの悪人だった。

「おいおい、俺の仕事をあっさりと奪いやがって」

 プロペラをもぎ取られたヘリコプターは機体を保つことができないまま、一直線に地面へ落下した。爆音と共に炎を巻き上げて炎上するへり。その残骸を踏み砕くように歩いてきたのは、日傘をさした夜来初三だった。

「ったく、へり一台にミサイル飛ばすアホがいるか」

「それはお前ら化物の基準だろう。俺は平凡で平凡な『小悪党』だ、それはお前がつけた評価だろう」

「自覚があるとは驚きだな」

 鼻で笑った夜来は、振り返って墜落したことで燃え上がっているヘリコプターに目を向けた。しかし妙なのである。中には運転手の男一人の死体が炎でこんがりと焼かれているだけで―――他に乗客員はいないのだ。

 つまり。

 おそらく。

「既にヘリから飛び降りて『地上』に移動しているというわけか」

「チッ。アクションスターもびっくり仰天だろ」

「どうする。一度上岡さんと合流するか? ヘリの中にいたのが、どれほどの実力者かは知らない。しかし一度は全員でまとまったほうがいいだろう」

「つっても、あのシスコン野郎とクソ上司は今まさにドンパチやってる最中じゃねぇのか? 全員仲良く集まってワイワイやんのは無理があんぞ」

「だが―――」

 そこで大柴の言葉が途切れた。

 原因は、茂みの中から現れた複数の男たちが見えたからだ。彼らは銃火器を所持していて、慎重に狙いを定めてきていた。

 喉が干上がった大柴は、咄嗟に身を庇おうと腰を落としたが、

「ゴミクズが。俺の背中に銃口向けるとはいい度胸じゃねぇかよ、あ?」

 悪魔の一言と共に、男たちの足場になっていた地面がいきなり崩壊する。ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!! という轟音が響く。まるでクッキーが割れたような現象は大規模な破壊の爪痕を残したのだ。

 その圧倒的な力を目にした大柴は、ポツリと言った。

「ほんと、これが敵じゃなくて良かったな……」

 が、どうやら敵はそれだけではないらしい。

 茂みの奥からは二人の男女が姿を現した。

「夜来初三に大柴亮だな。人違いじゃなさそうで安心したよ」

「私も同感。厄介な相手は先に殺しとくのがルールだよね~」

 男のほうは長身で片眼鏡をかけている。格好は赤を基調とした衣服で、全体的に線が細いからだをしていた。女のほうは短い金髪ショートヘアーでボーイッシュな可愛い子だ。短パンにラフなTシャツを着用している、子供っぽさが残っている顔と雰囲気だった。 

「『エンジェル』の木崎仁きざきじんだ。よろしく大柴くん」

「『エンジェル』の美神翼みかみつばさ。よろしくイケメン夜来くーん」

 どうやら本格的に激突するレベルの敵が現れたようだ。大柴はゆったりとした動作で、肩に担いだままの地対空ミサイルを木崎仁へ構える。

 夜来は侮蔑するように、無邪気な笑顔を見せてくるパッと見は快活そうな女の子・美神翼を眺めていた。

「おい夜来。どうしてお前だけイケメンがつくんだ、やっぱり若きゃ誰でもイケメンになんのかよ」

「知るか。つーかあんなアバズレにイケメン認定されても萎えるわボケ。嫉妬すんなら他所でやれ」

「で、どうする」

「どうするってお前……殺すに決まってんだろ」

「そうじゃない。向こうさんは既に男のほうが俺、女のほうがお前を潰す気まんまんだろうが。それに大人しく付き合うのかって話だよ」

 夜来は無邪気な笑顔を向けて手をヒラヒラと振ってくる美神翼を確認し、

「あのクソアマは俺が殺す」

「ここでドSキャラは無理に出さなくていいぞ」

「アホが。―――ああいうニコニコ笑顔のメスほど顔をぶっ壊す感触がたまらねぇんだよ」

「本音は?」

「女のほうが殺すの楽」

「だと思った。確かに女のほうが楽に仕留められそうではあるよな」

 諦めるように息を吐いた大柴は、目の色を『凶郎組織』であり『デーモン』の一員でもある悪党の色へと変えて、

「場違いな戦場に立ってる自分に嫌気がさすぜ、クソッたれが」

 ズゴン!! と、本来はヘリコプターや戦闘機に撃つ地対空ミサイルを容赦なく『エンジェル』の木崎仁と美神翼のもとへ発射した。

 直後に。

 鼓膜を突き破る爆発が炸裂した。


 

 

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