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あれ

「……ホントに『あれ』を深い部分まで知ったようですね、あなた」

「ああ、いろいろと調べたさ。なぁ上岡真。いや、『怪物人間』とも言われていたな。―――『千の怪物を身に宿した千の呪いを扱う悪人』だったか? 面白い研究素材だ君は」

 千体の怪物を宿し、千個の呪いを操る悪人こと上岡真は笑みだけは崩していない。ここまで来てもなお笑っている彼の顔は何よりも恐怖感を芽生えさせる。

 上岡は右手を軽く振って、

「とりあえず死体確定ですよ『お利口』さん」

 ゴワッ!! と、猛烈な烈風が振った手の軌道を描くように走り抜けた。まるで砲弾のような風圧。近くにあったワンボックスは車体そのものが分断されていた。複数のパーツにバッサリと切り捨てられているのだ。

 まるで見えない斬撃そのもの。

 しかし本質は、

「風を使った一撃か。それは『風神の呪い』……いや、見た感じでは風というよりは切り刻むような風を使用したし『鎌鼬の呪い』か?」

「あれれ、また無傷ですかあなた」

「そう言うなよ。こっちも死にたいわけじゃない」

 鎌鼬かまいたちは日本に多く伝えられる妖怪、もしくはそれが起こすとされた怪異である。つむじ風に乗って現れ、鎌のような両手の爪で人を切りつける。鋭い傷を受けるが、痛みはない。別物であるが中国の窮奇きゅうきと同一視され、かまいたちを窮奇と書くこともある。

 すなわち風を操る妖怪サイドの怪物だ。

 そう。

 悪魔という怪物の力を使った上岡真は、次に妖怪という別ジャンルの怪物の力を使っているのである。

「で、あなたはどうして死なないんですか? 不死身キャラは僕の部下にいるんで、そろそろ死んでもらわないとウケないんですけどね」

「簡単な話だ」

 獅子堂は上岡に不気味な笑顔を見せて、

「俺も『あれ』を自分自身にやって、お前には及ばないが『数十の怪物を体に宿している』んだよ。だから自然と回復力も高いし皮膚だって強い。それだけだ」

「……ご自分がしたことが、どれだけ危険性の高い行為か自覚はありますか?」

「なんだ、『好きで千の怪物を宿したわけじゃない』君から見て、『好きで数十の怪物を宿した』俺はムカつく対象になるのか?」

「はは、さてどうでしょう」

 上岡は笑った。

 どこまでも、どこまでも、どこまでも、

「―――ハハハハ」

 禍々しさを隠す柔和な笑顔で笑っていた。

 そして彼は言う。

『あれ』についてを語り始める。



「『多重怪物憑依実験』」



 上岡の告げたその一言で、獅子堂も動きをピタリと止めた。

「僕はその『エンジェル』が企画した実験の被害者でした。ですけどあなたは『進んで』その実験を己の体に再実験した。結果的に『成功』したのはいいものの、共通する『悪』さえもない複数の怪物を同時に宿す―――『強制的』に宿すあの実験の成功確率は0.8パーセントと言われてましたね。だというのに、あなたは躊躇わずそれをやった。恐怖心という生物にとって大事な感情はないんですか?」

「ないな。それに『0.8パーセント』という成功確率の中で君は実際に成功している。その時点で俺にできないことはないだろう」

「あんなクソッタレな実験の被害にあった僕からしてみれば、あなたの神経が理解できませんね。『僕以外の成功者はいない』あの実験は、僕以外の実験体である人が実験失敗で約5千人ほど死にました。もともと不可能な話なんですよ、複数の怪物を強制的に人一人の体へ宿すなんて。まぁ、その後の僕は『エンジェル』の施設を抜け出して『デーモン』へ加わったんですがね」

「だが、その5千人の死者の中でも君だけは『成功者』だったじゃないか。―――誇れよ!! 楽しめよ!! その世界でただ一つの『千の怪物を宿した』核兵器そのものの体をなぜ誇らないんだ!? それだけの絶対的な力があればもっともっともっともっと人生たーっぷり楽しめるだろうが!!」

「……二人目の成功者である貴方は、その『数十の怪物を宿した体』を持って楽しいんですか?」

「―――最高に決まってんだろうがよ!!」

 ハイな笑顔を咲かせた獅子堂。

 彼はよほど『楽しい』ようで、身振り手振り加えながら大声をあげる。

「正確にいえば十体の怪物を俺は宿してる!! それも共通する『悪』なんて無視だ無視!! ガン無視で俺が一方的に押さえつけてるんだよ怪物どもを!! これ以上の優越感はねえよ!! ぜ―――――ったいねえよ!! だがまだ不満バリバリなんだよ俺は、君の持ってるその体が欲しいんだよ!! 『千体』の怪物を宿した、その怪物よりも怪物らしい怪物を従えてるボディがちょー欲しいんだよ!! それ以上の実験材料はない!! だからくれよ、その体ァ欲しいんだよ!!」

「おやおや、ホモネタはよく使ってた記憶がありますが本格的に迫られると引きますね。僕は女性が好みなようで安心しました」

「その余裕だって『千の怪物を身に宿した千の呪いを扱う悪人』だからこそじゃんかよ!! 千体以上の怪物を従えてるその体がありゃあ、そりゃ誰にだって負けるわけねえわなぁ!! それも『呪いの侵食』なんてない体だ!! 『一方的に怪物の力を引き出せる』故に永久的にその力は扱える、すんげー体なんざ持ってりゃ『笑顔』で常にいられるよなぁオイ!!」

 上岡は何も反応しない。

 ただただ、笑っているだけだ。

「だから俺は君を持ち帰って君の臓器、腕、足、脳みそ、全部全部移植して俺がその『怪物人間』なんて言われる最強の体を振るう。だから君は死んでくれ」

「はは、これはこれは血気盛んで羨ましい限りです」

 十の怪物を従える悪人。

 千の怪物を従える悪人。

 双方ともに、覚悟は決めたようだ。

「そういう余裕はやめろよ。俺は十対の怪物を持ってる。お前は千体の怪物を持ってる。だが結果的に怪物の数だけで勝てるとは限らないんだよ上岡くん!!」

 

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