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嬉しい

 夜来初三は拷問部屋へと戻ってきていた。『エンジェル』がこの地下アジトへ攻め込んでくるという情報から、大柴亮が撃退方法を作り上げて、そのやり方に乗っ取って戦うという単純な作戦を立てて話し合いは終わったのだ。

 故にハッキリといえば、戦闘前の夜来は暇なのである。

 彼の隣には大悪魔サタンがいつものように懐いているが、彼女は普段通りに夜来へ飛び込んだり抱きついたりはしない。

 なぜなら、

「あーあ、コイツァまじでドン引きだな。あのクソ上司、俺よりやっぱイカレてんぞ」

「うん、我輩も同意だな。我輩や小僧のように敵をなぶり殺して笑ったり、叫んだり、暴れまわって興奮するのとは違う。あの小虫は『平常心を保ったまま』ここまで拷問を行えたのだ。つまりそれは我輩や小僧よりも『ネジ』が外れているのかもしれない」

 彼らが眺めているのは―――ピクピクと時たま動く肉塊。おそらくはダルク・スピリッドなのだろうが、もはや原型を体全体がとどめていなかった。下顎は何かで吹き飛ばされたのか『無い』故に、ズラリと上顎の歯が並んでいるのが見える。近くにはピンク色の柔らかそうな塊―――形状からして人間の舌が転がっていた。

 爪は全て剥がされていたようで、肉だけの指が両手両足にはあった。上岡の宣言通り股間付近は鮮血だけがこびりついているので『本当にやった』と理解はできたが、それ以上は気分が悪くなるので詮索しない。

 しかし。

 それでもダルク・スピリッドは生きているのだ。

「ここまでグチャグチャに遊んでおいて、あのクソ上司は『殺してやらない』のか。マジで俺と同類みたいだな、類は友をよぶってガチで名言だぜオイ」

「確かにここまでされて生きているというのは逆に地獄だ。いや、もしかしたら『だからこそ』生かしておいたのかもしれんが」

「……行くか。これ以上は気分が悪い」

 夜来はサタンを連れて拷問部屋を出て行く。暇つぶしにおとずれてみただけだが、改めて自分の上司の危険性を理解できたのでいい収穫といえよう。

 廊下を歩いていく夜来は、サタンの手を自然に握った。

「っ!?」

 そう、あのデレなしツンデレの夜来くんがサタンと手を繋いだのだ。しかも自分から。これ以上ないくらい目を見開いたサタンは、

「こ、小僧どうした!? 何かすんごく恋人みたいにナチュラルに当然のように我輩と触れ合ってるがどうした!? 堕ちたのか!?」



「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………っうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?? な、何で俺お前と手ぇつないでんだぁぁあああああああああああああああああ!?」



 どうやら無意識にサタンと手をつないでいたらしい夜来。

 即座に握り合っていた手を離そうとする夜来だったが、サタンがミシミシミシミシ!! と骨が音色をあげるほどの握力で夜来の手を握り締めてきた。さすがは悪魔の大将。デレデレと嬉しそうに微笑みながら、一生離しませんと言わんばかりに夜来の手を握り締めている。

「っぐあああああああああああああああああ!? い、いたいいたいいたいいたいいたい―――痛ェっつってんだろクソ悪魔ァァァァァあああああああ!!!??」

「え、いやだって小僧逃げるんだもん」

「逃げねぇよ!! 逃げねぇから早く離せぇぇえええええええええええ!!!!」

「マジで?」

「マジだから早く離せぇぇえええええええ!!」

 パッと夜来の手を解放したサタンは、ニコニコニコニコと笑って踵を軸にクルクル回っている。アイススケート選手もビックリの回転を見せた彼女は、勢いよく夜来の胸に飛び込んだ。

「ああ、どうやら小僧は我輩にベタ惚れみたいだな」

「はぁああああああ!? 何言ってんだテメェ殺すぞ」 

「むふふ、では先ほどの現象をどう説明するつもりだ? 自然と、無意識に、我輩の手を握ったのはどこの小僧で誰の小僧かな? ううん?」

「うるせぇつってんだろ離れろアホ、つーか殺すぞ」

「早口になってる時点で図星をつかれた証拠だなぁ、ああ可愛い。『我輩の小僧はツンデレヤンキー』だ」

「何だよその売れねぇラノベタイトルは!! マジで殺すぞ、つか離れろ殺すぞコラ!!」

「皆さんよく覚えておいてください、小僧はデレると『殺すぞ』がいつにもまして多くなります」

「誰に宣伝してんだよ!! マジで離れろ殺……殴るぞ」

「SMプレイ上等!!」

「ダメだこいつ全ッッ然効果ねぇじゃん!!」

 ギャーギャー騒ぐ二人はいつにもまして仲が良さそうに見える。というのも、もしかしたら環境が『昔に戻った』からかもしれない。 

 夜来初三と大悪魔サタンは、七色夕那と出会って引き取られる前から一年ほどは二人きりの時期があった。夜来初三が夜来家で苦しみながらも暮らしていた頃の話である。当時はもちろん、世ノ華雪花、雪白千蘭、唯神天奈、秋羽伊那、鉈内翔縁、七色夕那といったいつもの面子とは出会ってもいない。

 つまり夜来初三と大悪魔サタン二人きりの時期があったのだ。

「なんつーか、昔を思い出す。お前といると」

「ん~? もしかして小僧は我輩と『久々』に二人きりになれて嬉しいのか?」

 その通りだった。

 昔とは違って、今では夜来初三の周りには人がいるようになった。夜来が孤独じゃなくなったから、必然的にサタンと二人きりになる時間はまったくなかったのだ。

 家には唯神天奈や秋羽伊那がいる。

 外には雪白千蘭や世ノ華雪花たちがいる。

 故に、



「ああ……俺ァお前と二人きりで嬉しいんだろうな」



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