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SOS

 祓魔師エクソシスト

 名前からして神聖な職業かと思うだろう。その認識の仕方に間違いはないが、何事にも『例外』はある。悪魔祓いを目的とした祓魔師とは、基本的に魔術を使って対象悪魔を追い払ったり撃退するので悪魔にとっては天敵とも言える存在だ。 

 そんな祓魔師達のイメージと言えば真面目や善人などがあろう。

 しかしコイツは例外で、

「ダッリーちょーダリー。何かもう祓魔師エクソシストとかやってらんねーわ、俺ってば失敗したなぁ就職。もっと夢あふれる輝いた保育園の先生とかになりたかったわ、悪魔とか可愛くないし」

 そう呟いたのは、椅子に深く腰掛けている由堂清ゆうどうしんだ。

 場所は『エンジェル』の分散してあるアジトの一つ。内装は洋風でヨーロッパ風の屋敷であるが、本質は『エンジェル』という怪物と悪人を利用した謎の組織のたまり場である。

 よって屋敷の内装に惑わされてはいけない。

 由堂が座っている椅子はベランダにあるので、屋外で優雅に紅茶でも飲みそうな雰囲気が漂っている。しかし彼は紅茶など飲まない根っからのアルコール大好きな大人でもあるので、ますます祓魔師という肩書きが薄れていくようだった。

「ホントに俺は困ってるわけよ、分かるー伊吹ちゃん? こっちゃあよーやく義手の扱いにも慣れてきたってのに早速出動命令だぜ? もーやだ、いっそのこと殉職しそう」

 由堂は自分と丸テーブルを挟んで対面式に座っている伊吹連いぶきれんに共感を求めていた。ちなみに由堂清の片腕は肩から先がガチャガチャと機械的な音を鳴らす義手になっていて、見てて痛々しくなる。

「あーあ、マジで義手とかなんなの? 俺はどっかの錬金術師なの? 鎧の弟でも傍にいるわけ?」

 その理由はかなり遡ることになるが、以前、由堂清は上からの命令で夜来初三と激突したことが過去にあった。その際に腕を肩から引っこ抜かれて大怪我を負ってしまったことが原因で、今では機械の腕を使っている。

「ザクロさんだって現在は体調を安定させていることに専念してます。由堂さんも頑張ってください、以上」

「うわちょースパルタアドバイスじゃん。お前上司を敬う気ねえだろ?」

 伊吹は頬杖をついて、ベランダであるこの場所から伺える青空を見上げながら、

「偏見ですよ、俺は一途ですから。ほら、あの雲みたいに一途に決まった方向へ進んでいくんですよ」

「とかいう奴に限って浮気するよな、絶対ダメだよ『一途』とかワード。俺の知り合いの男に彼女がいんだけどさ。そいつの彼女、『私って一途だから!!』とか断言してドヤ顔してたらしいけど先月に浮気してたらしいよ。何でも『ジャニーズ系じゃないと生理的に無理』になったらしい。うわー、女ってちょ怖いわー。俺ってばホモでいいわー」

「そこは独身でいてください。ホモは論外ですから」

「論外じゃねえよ。俺はね、女なんて汚い存在は眼中にないのよ、分かる?」

「分かりたくないです。分かったらホモに目覚めそうで分かりたくないです」

「分かってくれて嬉しいよ」

「あんたが一番分かってねえ!?」

 伊吹と由堂は特にすることもなくぼーっと椅子に座っていた。といっても、彼らは仕事をサボってるわけでも抜け出してるわけでもない。伊吹連は腹部についていた傷―――とある『悪人祓い』の少年に付けられた傷跡を軽く服の上からさすっていた。

 既に完治はしているので問題ないが、傷跡は『九尾の呪い』を宿している伊吹でも残ったらしい。彼の直属の上司であるザクロは傷が治りきっていないので、伊吹は必然的に上司の体調が良くなるまではお休みという状態だ。

 そんな様子に由堂は軽く失笑して、

「んだよ、お腹スリスリさすっちゃって―――妊娠したか?」

「俺の性別を変えないでください」

「女の子なら遥香はるかちゃんで、男の子なら信二しんじくんだな」

「何であんたが名付け親になってんですか。妊娠してないですけど腹がたちましたよ」

「ったく、ザクロの部下はこれだからノリが悪いんだよ。堅苦しくてちょー合わねえ」

 この、人を常にからかうような祓魔師・由堂清も仕事を放ったらかしにしているわけではない。彼の場合は既に仕事へ向かう出勤時間が決められているので、その間の息抜きというやつだ。

「あ、そうそう伊吹。そういや言い忘れてたが……ダルクの奴らが『デーモン』に拉致られたかもしんないと。下部組織の班がそんな情報を持ってきやがったわ」

「……それ、ちょっと笑い事じゃないですよね」

「まぁそうだな。今頃は向こうさんに拷問されてんじゃね?」

 ちっとも心配する様子がない由堂清。

 彼はどこか苦笑した表情のまま続けた。

「ま、だから俺は今回駆り出されたわけ。まーた『デーモン』ちゃん達と楽しい楽しい殺し合いだよ。面倒くさいったらありゃしねえ」

「ダルク・スピリッドを救助に行くんですか?」

「さーな。とりあえず、何か連中にダルクが拉致られてこっちもやばい、SOS! SOS! みたいな状況らしいから、敵さんたくさん殺して来いだと。ようは敵戦力の削りだな」

「現時点での話でしょう。後々厄介な命令が下りるんじゃ?」

「……かもな」


 

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