表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

255/539

二者一択

「あ、いにくと……僕も滑……るよ、うな口を……持ってる、わけじゃ……ないよ……」

 途切れとぎれ反抗の意思を表してくるダルク・スピリッド。とても頭皮をズタズタに燃やされて、爪を剥ぎ取られた人間の顔とは思えない余裕さが表情としてあった。

 その辛抱強い姿に、うーんと首を捻る上岡。

 が、そんな彼の横を豹栄真介がすっと通ってダルク・スピリッドを見下ろし、

「上岡さん、いろんなもん吐く口と動いてる心臓がありゃいいんですから、さっさとコイツ死なない程度にバラシちゃいましょうよ。個人的にコイツの面ァ顔面崩壊させたいですわ」

「あれ、豹栄さんもサディスティックサイドでしたっけ? 顔を壊すのはいい趣味してますね」

 壁に寄りかかっていた夜来初三も、同じような感想を告げる。

「んだよ、テメェと趣味が合うなんざゴメンだぞシスコン。新しい扉ァ開いちまったのかよ、あ?」

「あー、そうじゃなくてよ―――こういう『仲間は裏切らねえ』的な感じでカッコつけてるナルシスト見てるとムカムカすっからさー。大体こういう奴に限って大抵あっさりとダチ売るし。つーか絶対『うっわ、俺って仲間のために耐えてるカッコイー』とか腹で思って酔ってるぜ、このクソ野郎。だーからさっさと鮮やかに散らしてやりてえんだよ、俺の刑罰基準じゃー死体決定だって話なわけだな」

 豹栄に哀れむような目を向けられているダルク・スピリッドは、今にも失いそうになる意識を精一杯保っていたようだった。しかし夜来初三もその案には賛成なようで、腕を一方的に組んでくるサタンと共にダルク・スピリッドの傍へ寄る。

 そして興味なさげにクソ野郎を見下ろして、鼻で笑った。

「まぁ確かに、三食毎日・暴力蹂躙フルコース付けにしてやってもこれだ。俺もそこのシスコンと同意見なのは腹ァ立つもんがあるが同意だね。コイツ、何も吐かねぇようならストレス発散ようのサウンドバックにでもすりゃいいじゃねぇか。ウチの組織員たちもスッキリするだろうしよ、いっそ売り飛ばしちまったほうが得じゃねーの?」

「確かに拷問が無意味というのならば俺も同感だな」

 大柴亮が離れた場所で静かに頷く。

「拷問の目的は情報の入手だ。そいつがいくら拷問しても何も話さないならば時間の無駄。今すぐにでも『エンジェル』の下部組織狩りへ回ったほうがいい」

 大柴の言葉は正しい。ダルク・スピリッドがこのまま何も吐かないようならば時間は無駄遣いするだけになる。だったら連中の下部組織のアジトを粛々と潰したほうが意味はある。

 だが、

「えー、僕は反対ですよー? ようやく黒マグロが取れたのに食べないようなもんじゃないですかぁそれじゃ」

 せっかく釣り上げた大物をみすみす無駄に使うような真似もしたくはない。ダルク・スピリッドは時間をかけて料理し、有力な情報を吐かせることのほうが結果は大きいと考えている上岡もいる。

 ダルク・スピリッドをすぐに殺して下部組織狩りへ移るか。

 ダルク・スピリッドを引き続き拷問して情報を吐かせるか。

 二者択一。

 運命の分かれ道ともいえよう。

「じゃあ具体的な打開策くらい付け加えて喋れよスマイル野郎」

「夜来さんは短気すぎますって。釣りだって耐えることが大事です。魚が餌にかかるまでは暇でしょう? 今はそれと同じ状況ですよ、ゆっくりとダルクさんがエサに噛み付いてくるのを待つだけですって」

「釣りなんざ五分で飽きて竿ボッキリ折ったっつーの。俺にゃ耐えられねぇな、こんなクソ無意味な時間」

「え、ええ!? 夜来さんご自分の竿折ったんですか!? 新手の自家発電ですかそれ!?」

「テメェいい加減にシバくぞコラ」

 と、そこでジーっというチャックを開けるような音が夜来の耳に聞こえてきた。下へ視線を落としてみれば、サタンがしゃがんだ状態から夜来の着用している黒ズボンのジッパーを慎重に下げている光景が映る。

 性犯罪未遂の銀髪幼女悪魔はハァハァと荒く息をして発情しながら、

「こ、小僧の竿が無事かどうか確認するだけ小僧の竿が無事なのか確認するだけ小僧の竿が無事なのか確認するだけ小僧の竿が無事なのか確認するだけ小僧の竿が―――」

「今まさに危機が迫ってるわボケ!!」

 ゴン!! と強烈な拳骨をサタンの脳天へ叩き込んだ夜来。可愛らしい悲鳴を上げたサタンだったが……しがみつくように夜来の腰に抱きついてくるので倒れることはない。そこまでして彼とくっつきたい悪魔の熱い執念が分かるやりとりだった。

 もう呆れて何もいえなくなった夜来は、サタンに溜め息を吐いて切り替える。

「で、そこのクソ野郎をしつけるマニュアルくらいは用意してんだろうなスマイル野郎」

「ええ、もちろんです」

「っ」

 夜来、豹栄、大柴の三人は眉を潜めて少々息を呑む。

 あっさりと肯定した上岡の笑顔から、少しだけドス黒い色が溢れたように見えたからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ