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辿る末路

『デーモン』のアジトとは無数に散らばっている。故に根本的な本部などは基本的に存在しない、自由感溢れるシステムだとでも認識して構わないはずだ。

 上岡真はアジトの一つへ訪れていた。

 ここは前回に夜来初三が訪れていた地下施設型のアジトである。

「しかし面倒なことですねぇ。僕としては観賞するより実行するほうが好きなんですけど。ほら、サッカーの試合とか見ていると、自分なら今攻撃してたのに何やってんだコノヤローみたいな感じになるじゃないですか。そういう気持ちになるんで、こっから眺めるだけというのは不満が蓄積します」

「上岡さん、あなたのやり方は無駄に残忍すぎて相手が先に喋れなくなるという噂が流れてますよ。やりたいんじゃなくてやれないんじゃないんですか」

「えー、僕はただ殴ったり蹴ったりしてたら、相手がハァハァいって興奮するからお望みどおり気持ちよくしてあげてるだけですよ? 愛で愛の愛ゆえのムチですよ、僕の振り下ろす暴力は」

「それは多分興奮じゃなくて恐怖です」

「っ、そうか! あとちょっと虐めてあげていれば皆さん全員絶ちょ―――」

「ああもう豹栄さんくるまでは黙っててくださいよ! 俺はそういうノリ無理ですから!!」

 面倒くさい上岡の隣に立っているのは大柴亮だ。もともとは豹栄真介率いる『凶狼組織』の一員で、現在は『デーモン』の一員でもある人間。普段は上岡の相手は豹栄真介という決まりが暗黙のルールとして出来上がっているのだが、彼は任務へ駆り出されていて不在。夜来初三も個人的な用事があるとかで消えているため、上岡の暴走に大柴が付き合わされている構図である。

 ちなみに。

 上岡と大柴が見ているのは、透明なガラスの先で椅子へ拘束されている十人程度の男女たちだ。上岡たちは白い壁で一面を作られた大きな通路から、その窓ガラスの先を眺めている。

「じゃ、そろそろ実行しちゃいましょーか。あと三分で拷問時間です。あ、大柴さんは拷問初めてでしたよね? しっかり僕のテクニシャンな動きを見て勉強してください」

「テクニシャンとか響きが嫌なんですけど……」

 上岡は近くの扉へ入っていったので、続いて大柴も後を追いかける。どうやら扉の先は、先ほど見ていた拘束された男女たちがいる拷問部屋へつながっていたようだった。

 上岡はニコニコ笑顔を崩さない。

 いや、むしろ笑顔でいないことの方がない。

「えーっと、どなたでしたっけぇ。夜来さんが捕まえてきたタヌキは―――ああそうそう。あなたでしたあなた」

 上岡は椅子に縛り付けられている男女の中から、一人のヨーロッパ人のもとへ近寄っていき、

「ダルク・スピリッド。『エンジェル』の中でもトップクラスなレベルに立つ人物で、以前、夜来さんと豹栄さんを派遣した際に激突した本道賢一ほんどうけんいち達の直接的な上司でしたよね。いやいや、見つけた書類にあなたのことが記載されててラッキーでした。こうして情報たからを吐き出してくれる人が見つかったんですからね」 

 ダルク・スピリッド。彼の顔はやつれていて、おそらく三日ほどの食事は与えられていないのだろう。これはおそらく精神的に追い詰めるための策略だ。食事を与えることをせずに、判断能力を低下させていく上岡たちの作戦である。

「お、まえ、は……!! 上岡、かな……? は、はは、そうかそうか。じゃあ僕らを襲ったあの黒い少年は夜来初三というわけだ……!!」

 ダルクは憤怒に顔を染めて吐き出すように、体力が無いのか途切れとぎれ言い放つ。

 しかし上岡は相手をせずに、今後のプランを考えているようで、 

「えーっとなになに……ナニ? あ、すいません! な、何か僕ってば下品なこと言っちゃいましたかね!?」

「上岡さん真面目にやってください。ホント笑えないんで早くやってください」

「ははぁ、やっぱり豹栄さんがいないと調子狂いますねぇ。彼ならきっと『ナニのナニが下品ナニ!』とか何とかアヘ顔で言ってくれるんでしょうけど」

「言いませんよ!? 豹栄さんの印象おかしくないですか!?」 

「大柴さん、おふざけもこのくらいにしましょう。仕事とプライベートは切り替えなさい。というわけで、情報の確認をお願いします」

(こっちのセリフだよ!! む、ムカつく……!! っていうか、本当に豹栄さんは苦労してたんだな……今度酒でも送ろう)

 大柴は大きな溜め息を吐いてから、懐から一枚の書類を出した。スラスラと、その内容を音読して読み上げていく。まるでアナウンサーのようにミスをすることがない、完璧といえる読み上げだった。

「ダルク・スピリッド。『プリデン城』の撤去を『表向き』では街の農作業に使用する敷地が必要だからという理由付けをしているが、実際は『エンジェル』の下部組織をフランスにも設置するために敷地が必要だっただけ。街の全員も『エンジェル』に協力している者であるので、シャリィ・レインという少女が主であった『プリデン城』を奪う計画を練っていた。……という感じの悪党ですね」

「まったくねぇ、まさかフランスに『エンジェル』の上層部クラスの大物がいるとは思いませんでしたよ。っていうか―――『街の人間全員』が『エンジェル』に協力しているって、そのシャリィさんとかいう少女が実に可愛そうですね。理不尽すぎる渦に巻き込まれただけじゃないですか」

「はい。ロウン・シングリッドというシャリィ・レインの戸籍上は父親にあたる男性を事故死に見せかけて殺害してますしね。街の人間・『エンジェル』総出で殺したんでしょう。それならば事故死に見せかけるのも可能です」

「はー、何ていうかくそったれですね。まぁ、それは僕らも同じですが」

 上岡に見下ろされているのは椅子に縛られているダルク・スピリッドだ。他にも十人程度の男女たち―――シャリィ・レインを殺すために動いていた『街の人間』の一部が同じような拘束方法で集められている。

「っていうか、夜来さんって永遠の反抗期なんですかね。確かに本命のダルク・スピリッドは死なないように回収しろと言いましたが……」

 上岡はダルク・スピリッドの両足―――不自然な方向に捻じ曲がっている下半身を見つめて、大きく肩をすくめた。

「まさか下半身をグチャグチャの肉塊にして、言葉通り死なないレベルの状態にして回収してきたんですから。ダルクさんの足、もうこれ治りませんよ」

「ええ、まぁ、あいつはそういう奴ですよ。敵は最大限まで追い詰める悪魔です。殺すなと言われればギリギリまで殺しますし、殺してもいいなら確実に殺す。……ソースは俺です」

 かつて、大柴亮は『凶狼組織』全員で夜来初三に奇襲をかけた過去がある。あの時は自分のグループが全員殺されて、視界が鮮血で満たされた悪夢のような現実を味わった。しかし奇跡的に大柴だけは『マシな悪』という評価を押されて命だけは助けてもらったのだ。

 そう、死なない程度に弾丸をぶち込まれて、死ぬ思いで助かったのだ

 当時の出来事を思い出しているのか、大柴は吐き気を抑えるように口元へ手をやっていた。その姿に苦笑した上岡はダルク・スピリッドを見下ろして告げる。

 彼の送る末路を告げる。

「それじゃ、気持ちのいい拷問を始めましょうか」

  





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