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予想外のおかえり

 七色夕那は日光を浴びながら病室のベッドで休んでいた。腹部に空いていた怪我も大分塞がってきているので、順調に行けばあと少しで退院だそうだ。

『対怪物用戦闘術』をつかって怪我を治す……ということも考えたが、さすがにバンバンと『本来の使用方法』から離れた場合に使うのは失礼だ。主に『悪人祓い』としてのプライドへ失礼だ。

 故に七色は、現在、大人しく点滴の取替時間である。傍には点滴交換をしている女医・五月雨乙音が立っていた。

「どうだね? もう痛みとかはないだろう」

「ああ、まったく問題ないわい。儂のパーフェクトボディに傷がついたのは癪じゃが、良い女は全てを受け入れるような心構えが大切なのじゃよ」

「なるほどね。つまり―――『己の幼女体型に傷がつくのは嫌だが、見た目は幼女なんだし中身くらいは大人な女でいたい』ということかい」

「どんな解釈しとんじゃおどれはァァアアアアアアア!! 儂の発言が全部全部悲しく聞こえるじゃろうが!! なんなの!? お主って儂に喧嘩売ってるの!?」

「ふむふむ。大声で叫ぶくらいには元気、と」

「冷静に診察されてるじゃと!? お主何者!?」

 すっかり調子を取り戻せていた七色夕那だったが、五月雨は相変わらずなクールさを保ったまま点滴を新しいものに取り替えていた。

「というか七色。私の発言に激怒している時点で全てを受け入れきれていないよ。良い女にはまだまだじゃないか」

「ば、馬鹿者。あれは肺を鍛えていただけじゃ。本当は儂ってばなーんにも怒ってないもん。むしろ笑って爆笑してやるもん」

「ロリと言われて爆笑する君の絵は実にシュールだね」

 そこで。

 ガララ、と音を立てながら病室のドアが開いていった。見舞い客だろう。正体は私立天山高等学校の教師をしている速水玲だ。

「やぁやぁ元気かい? 我が友、『フォーエバーロリ・七色夕那』よ」

「そろそろ友達を一人ぶっ殺そうという神秘的な趣味を始めたいんじゃが、速水、お主はどう思う?」

「お、俺はそういう危ないことは頷けないなぁ。―――ていうか悪かったよ、からかいすぎたごめんなさい! だからもうそんな涙目にならないでくれって!!」

「わ、儂は一生ロリだもん……フォーエバーロリって友達にあだ名つけられるくらいロリだもん……もう幼稚園にでも入ってやりたいもん……」

「お、乙音ちゃん、俺が悪いのかな、これ」

「大学時代でも基本的にこういう構図だったろう。七色がロリで速水にいじられて、私が傍観者でいる。大学内ではいろいろと有名な構図だったそうだ」

「そ、そうかい。何だか今になって罪悪感がすごいね、これ」

 ベッドの上で、ウルウルと瞳をうるませている七色(見た目幼女)を見ながら速水は己の罪を数えていた。ほとんどの罪が七色に対するロリ関係のものだったが。

 と、そんな不思議な絵になっている病室だったとき。

 再びドアが開いて訪問者がやってきた。

 そこには。

「こ、こんにチクワ。お元気でごんすかぁマイマザー?」

 何やら無駄にくだらない挨拶と共に七色夕那の育ててきた子供の内の一人。茶髪にパーカーにチャラ男の鉈内翔縁がやってきた。

 彼の登場に速水は気軽な挨拶を交わしてきて、五月雨はお仕事お疲れ様と気をかけてくれるが、七色夕那(涙目で瞳をウルウルさせている見た目幼女)だけは違った。

「しょうえええええええええん!! 翔縁翔縁しょーえーん!! もうやだ! なんかもう皆して儂のことロリロリ言うんじゃ!! サタンだってロリキャラなのにあんまりじゃ!! 秋羽だってロリじゃん!! 儂なんかより小学五年生っていう証拠付きの完全完璧ロリ星人じゃん!! なのに何で儂なの!? 儂だけがロリキャラみたいな扱いだけどもっといっぱいロリいるよね!? ねぇ!?」

「あ、あははぁドンマイだね夕那さん。で、ところでなんだけど紹介したい人がいるんだ」

「?」

 ものすごく苦笑いしている鉈内翔縁は、病室の外へ声をかけていた。すると七色の見知った顔が入出してきて、頭を軽く下げてくる。

「お久しぶりです、七色さん」

「お、おお、黒崎。久しぶりじゃのう、どうしたんじゃ一体、急にき―――」

 そこで新しく一人の少女が入ってきた。綺麗なヨーロッパ人だ。肩まで伸びている外国人特有の地毛である金髪に色素の薄い瞳。シャリィ・レインという女の子だった。

 が、そこまでならいい。

 まだ許容できそうな事態かもしれない。 

 しかし―――病室へ入ったシャリィの後からゾロゾロと二十人以上の幼い子供達が入ってきたらどうだろうか?

「シャリィ・レインです。えっと、家が事情の影響でしばらく住めないので、七色さんという方が力を貸してくれるはずだという話を黒崎さんから聞きました。えっと、よろしくお願いします」

 七色は一切自己紹介を聞いていない。

 ただ。

 ただただ。

 二十人以上の幼い子供達の姿を凝視しながら、涙腺崩壊だったその目から涙をついに噴出させて、



「うわーん! む、息子がビッグダディになって帰って来たぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



「何でそうなる夕那さぁぁああああああああああああああん!!」

 さすがに訂正しなくてはいけない誤解が生じたことに、鉈内も思わず絶叫をあげる。

 しかし七色は、息子が最低最悪のクソ野郎に堕ちたと思っているようでグスグスと泣きながら(ガチ泣き)嗚咽混じりの声を出す。

「よ、ヨーロッパに行かせたらこれじゃ! 後先考えず現地で仕事ほったらかしてヨーロッパ美少女と夜のお仕事をしてきたんじゃ!! どこで育て方を間違えたのかのう!! 全部全部儂がロリだからダメだったんじゃあああああああああああああ!! ウワぁぁあああああああああああああああン!!」

「何でロリが出てくんの!? っていうか違う違う!! ちょっとは話を聞いてよ!!」

「ま、孫なんて儂いらないもん!! 儂が孫みたいなのに孫が出来たら儂の存在感なくなるじゃろうが!! しかもなんじゃこの子供の人数は、孫パラダイスなんて趣向にドン引きじゃバカが!! ギャルゲー業界に『孫ブーム』でも巻き起こす気お主は!!」

「な、なんか機嫌悪いんだけど、どうしたんすかこれ」

 チラリ、と速水へ視線をやった鉈内。

「は、はは、さぁね。俺もさっぱりだよ」

 原因が自分だとは言えない速水は、脳内で右往左往している状態だった。

 そんな情緒不安定な七色夕那に鉈内は必死になって説明を始める。シャリィ・レイン達の家がとある事情から住めなくなったこと。その問題が解決するまではどこか知っている場所を寝床として提供してくれないかということを。

 七色夕那とは容姿こそ幼いが寺の主だ。故に困っている者を寺で助けたり、力を添えてやることは不思議なことじゃない。七色寺の主とあらば、迷い人を救うのは当然だと彼女自身が理解している。付けくわれば、七色夕那本人が優しすぎるからだろうが。

「―――とまぁある程度の話は区切ったけど、あとで全部説明するからさ。ひとまずこの子達をどこかに預けられないかな? ようは知恵を借りたいんだよ」

「よ、ようわからんが、仕事中にハプニングが発生して、最終的にそやつらは住む場所がなくなったと」

「そうそう、さっすが夕那さん。いっやー、頭良くて助かるわ。さすが『大人の女』だね、もう色っぽいところも素敵だよマイマザー」

「そ、そうかのう? 色っぽい? 儂って大人? ちょー美人?」

「夕那さんの魅力に僕が耐えられるのは息子だからだね、他人じゃ絶対アタックしてるってー」

「む、むふふふふふふ、しょうがないのう。そこまで言われたら儂も助けてやらんこともない。まったくもう、手間をかけさせる息子なんじゃから」

(う、うわー、ご機嫌すぎてキャラブレイクしてんじゃん。やばい、ちょっと褒めすぎた)

 内心で七色のご機嫌状態に軽く引いていた鉈内。そんな彼には気づかずに、一瞬でニコニコ笑顔になった七色夕那は携帯電話を枕元から取り出した。

「はは……ん?」

 そんな彼女を眺めていた鉈内は、ふと、病室に備えられていたテレビへ視線を向ける。

 そこには、あの鉈内からしてみれば因縁があるにはある老婆占い師・『ビッグマザー』が映っていた。

 的中率百パーセントだのなんの言われている占い師。

 そんな彼女に鉈内は苦笑して、 



「僕は運命を逆転させる男みたいだね、まったくもって自慢したいよ」

鉈内には占い師も敵わないようです

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