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住めない

「……ん」

 気づけば、鉈内翔縁は朝日によって目を覚ましていた。しかもフカフカの高そうなベッドへ身を沈めていたらしく、軽いセレブ気分を味わっている。

「あ、れ。僕、確かあのクソ野郎と殴り合ってて……」

 右腕を使って身を起こそうとした鉈内は、そこで思わぬ激痛に顔を歪めた。見てみれば、右腕にはグルグル巻きにした包帯がつけられていて、確実に骨折していることが分かる大怪我をしている。首を捻りながらも、彼は唯一使える左手で体を起こした。

 そこで改めて周りを見渡してみる。

「ここって―――『プリデン城』か!? あ、あれれ? 僕ってば最後に腹を撃たれた感じだったけど、もしかして内なる力が暴走した結果、敵さん全員フルボッコして勝っちゃった!? 隠された封印が解き放たれた的なやつすか!?」

 鉈内は『プリデン城』の一室で休んでいたようだ。豪華な部屋を見渡しながらも、彼は驚愕の展開の追いつけていなかった。

 が、そこで。

「随分と元気だな、心配していた私の心を返して欲しい」

 扉を開けて入出してきたのはシャリィ・レインだ。彼女は右腕を骨折しているというのに、堂々とはしゃいでいる鉈内の傍によっていく。

「あ、あれ? あのさ、何か雰囲気的に終わった感じだけど、どういうこと? その……情けない話、僕ってば負けちゃったからこんなハッピーエンドみたいな空気を吸ってることに驚きだよ」

「ああ、いや、ハッピーエンドでいいのかどうかは私も分からないんだ」

「え? どういうこと?」

 シャリィ・レインは視線を下げて、静かに事実を伝えた。

「―――この街の人間のほぼ全員が消えた。ダルク・スピリッドも行方不明。敵は全員第三勢力によって撃破された……みたいな感じだ」

「……へ?」

「理解できないだろうが、事実なんだ。気づいたらこの街の人間―――私たちを殺そうとしていた全ての人間が消えていた。あまりにも追っ手がこないことと、君が『プリデン城』へ向かってから帰ってこないことに不安を感じて黒崎が『プリデン城』へ行ってみたんだよ。そしたら、最低限の手当を受けている君が床に転がってて、ダルク・スピリッドもその他も全員がいなかった。まるで誰かに殺されたか拉致されたみたいに」

 呆然としている鉈内だったが、必死に頭を使って状況を飲み込み、

「じゃ、じゃあ待って。僕がダルクの奴に負けた後、『何か』がダルク達、何千っていう武装軍団を撃破したってこと?」

「そうなると思う。そしておそらく、その第三勢力がダルク達を血祭りに上げたのはこの『プリデン城』だろうな、と黒崎は言っていた」

「な、なんでここ? 確かにダルクとはここでやりあったけど」

「黒崎がここにたどり着いた時に、気づいたんだよ。死体とか戦闘の後は消しているが、『わずかに鉄臭い』臭いが充満していることに。だからきっと、君がダルク達に気を失わされた後に『何か』が事件に幕を下ろしたんだ。全員を片っ端から潰して」

「な、なんだそれ……」 

 困惑している鉈内だったが、結果としてはいい方向なのかと思う。これで『プリデン城』は守られたし、目標は達成できたのだろう。

 と、考えていたがシャリィは悩むように言った。

「しかしどうするか。このままでは『プリデン城』で住んでいけない」

「!? な、何で!? 僕はぶっちゃけ死ぬ思いで死守したのにそれって残酷じゃない!?」

「いや、そうではなくて。言っただろ? この街の人間ほぼ全員が消えたんだよ。ほぼ、というのは生存者がいるかもしれないという可能性から出た言葉だ。つまり実質は、今、この街には私達しか存在していない」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………つまり『住みたいけど街そのものが滅んだから生きていけない』ということっすか?」

「う、うん。あ、あのさ、死ぬ思いで戦った結果がこれでガックリするのは分かるけど目が死んでるよ。怖いから元に戻ってくれないか」

 確かにこのままでは生きていけない。『プリデン城』を守れたのはいいが、誰一人いない街では住んでいけないだろう。料理を食べるための店だって『誰もいない』から利用できないし、生きていく上で必須な食料だって購入できない。なぜなら店員となる、責任者となる、材料を仕入れする人だっていないから。


 つまりここは無人島と同じ。

 

 確かにこれでは『プリデン城』で生活していけない。

「い、いやいやいやいや!! なんで!? 何でこうなんの!? 確かに誰もいないんじゃ、飲食店、肉屋、スーパー、雑貨屋、生きていく上で必要なものを揃えられないから住めないけど、ええ!? はぁ!? あぁ!? んんああ!?!? 納得できるわけないだろバッカヤロー!!」

「ちょ、落ち着いてくれ。傷が痛いから枕を殴るしかできないのは分かるが落ち着いてくれ!」

「解説しなくていいから!! 確かに壁殴りたくても手ぇ痛いから無理だし失礼だから、仕方なく『バッカヤロー』のセリフに合わせて手軽なものを殴ってるけど解説しなくていいから!!」

 意外と元気な鉈内くんは、黒崎と話し合うためにベッドから急いで身を起こす。傷が深いため、フラフラと歩きながらも部屋を出て何やら騒がしい声が聞こえるほうへ進んでいく。

 たどり着いたのはリビングだ。

 ダルク・スピリッド達と戦った因縁の場所。窓ガラスは割れたりしているままだが、確かに死闘で出来た痕跡は全て消失していた。

 まるで、窓ガラスが飛んできた野球ボールによって事故で割れただけのような『普通』の部屋。

「な、鉈内さん!! 怪我が治ったんですか!?」

 聞きなれた同僚の声が、そこで鉈内に届いた。

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