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絶望襲来

「ああ、みんなすまないね。見苦しいところをみせた」

 鉈内を最後に蹴りとばした後、仲間達に振り返ってダルクは的確な指示を出す。既に興奮状態からは脱出していたようで、その顔には冷静さを取り戻せた色があった。

「まずは拷問する班は人数じゃなくて質で決める。とりあえず僕と―――」

 だが。

 だがそこで。



 本当の絶望が彼らの前に現れる。



 ここは『プリデン城』のリビングあたる部屋だ。入口のドアはダルク・スピリッドが背を向けている方向にあって、非常に大きなドアである。まるで騎士軍が行進でもしてくるような大きな扉が唯一の入口で出口だった。

 その巨大なドアの向こう側から―――悲鳴が聞こえて来るのだ。

 何かを感じ取ったダルクは、仲間から無線を借りて『プリデン城』の城内に待機させていた別部隊に連絡を取る。

 ブツ、と通信が繋がったので『プリデン城』の城内で何があったか仲間の一人に尋ねた―――だが。

「おい、なにを騒いで―――」

『だ、ダルクさん!! 何か妙なや―――ザザザザザザザザザザザザザ―――ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!??!?! がか、ぐぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?? ―――ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ』

 その悲鳴は明らかに異常だった。通信が悪いのか、雑音が時折生じて聞こえて来る激痛に苦しむような大声。まるで唇と舌を引き抜かれて絶叫しているような、痛々しい音にならない声だった。

 ダルクを含んだ、この場にいる全員がゾッとしていた。

 何かが、この『プリデン城』にいる。

「おい!! 応答しろ!! 何があったんだ!? そっちで何が起きてる!?」

 咄嗟に応答を願うが、やはり無線からは雑音しか返ってこない。それでも辛抱強く待つこと十秒。ようやく無線から声が飛んできた。

 しかし、



『ぎゃっはははははははははははははははははははは!! 元気かなぁ~? 徒党ぞろいの犬畜生諸君、テメェら全員ぶっ殺し決定だ。今から五秒で皆殺しにしてヤル。遺言はダイイングメッセージ風にしておけよぉ? そっちのほうがポリコーも盛り上がってせっせと働くだろうしなぁ、ハハ!!』



 聞いたことのない悪魔の声だった。

 おぞましい笑い声が炸裂している。無線越しでも分かるが、こいつはきっと化物だ。聞いた者全ての細胞が逃げろと意思表示するように暴れだし、脳みそも頭の中で震えているような現象が起きる。

 殺される。

 本当にコイツに殺される。  

 そう理解した時には既に遅かった。ダルク・スピリッド達は意味不明な事態に呆然としていて、悪魔が宣言していた『五秒』という貴重な逃亡時間を無駄にしていたのだ。

 気づけば、

 既に五秒が経過していた。

 タイムリミットと同時に、『プリデン城』のリビングであるこの部屋へ繋がる唯一の巨大な扉が―――ギギギギギギギギと、軋むような音を立てながら開いていった。……いや、きっと扉は軋んでいるのではなく『怖くて震えていた』のだろう。

「……っ」

 ゆっくりと振り返って、開いた扉の先に映る廊下の光景を見たダルクはぎょっとした。壁も床も青いカーペットも全てが血で染め変えられていたのだ。しかも廊下の先では―――まだ生き生きとした『生首』が転がっているようにも見える。

 そして一番驚いたのは。

「みーっけぇ。テメェがダルク・スピリッドって爆笑しちまうレベルのクソ野郎で合ってんだよなー?」

 女の左足『だけ』を片腕で握っている一人の悪魔だった。おそらく無理やりもぎ取ったのだろう足は美しい色をしているので、ついさっき叩き潰した女性のものだろう。

 悪魔は持っていた左足を横へ投げ捨てる。

 そして。

 ニィ、と引き裂くように凶悪な笑みを顔に刻み込んだ。同時にポケットから携帯電話を取り出して、画像ファイルから『ターゲット』の顔写真を確認する。

 結果、

「ハハ、あーそうそうコイツだコイツ。ダルク・スピリッド、『エンジェル』の上層部クラスに立ってる無駄に地位の高ぇ調子こいたクソだったか。いやいや物忘れが激しくってねぇ。だからまぁ―――ついうっかり殺しても構わねぇかなぁ?」

「!? な、何で僕のことをそこまで知っ―――」

 言いかけたタイミングで、ダルクは呼吸を忘れそうになった。

 なぜなら、

 ゴッシャアアアアアアアアア!! という鮮血が舞い散った音が鳴る。周りにいた武装状態の何百という仲間から血しぶきが上がって、ビシャビシャと血肉をこぼしながら倒れていったのだ。

 一瞬で壊滅。

 まばたきをした直後には辺りが血で染まっていた。

 自分の服にもべっとりとした鮮血が付着している。仲間の血だろう。ここまで周りが血まみれになっている空間だと、鉄臭い臭いを気にすることもなかった。

 残ったのはダルク・スピリッドただ一人。

 そして悪魔はゆっくりと歩き出した。

「ったくよぉ。こっちもこっちでクソだりぃ海外出勤してきてやったってのに、なんだぁテメェ。もーちっと俺が腹ァ壊す勢いで笑えるリアクションはねぇのかよ、あ?」

 悪魔はイラついた調子でそう言うと、ベルトに挟んでいた拳銃を取り出して無防備なダルクへ発砲した。バァン!! という鼓膜を破るような銃声と共に、弾丸は標的の左足を貫通する。

「ぐおおあああああああああ!?」

 痛みに絶叫したダルクは思わずうずくまった。

 が、さらに。

「なに寝てんだよカス」

 ゴキィッッ!! と、いつの間にかすぐ傍へ来ていた悪魔がダルクの右足を踏み潰した。文字通り骨を粉末にされた故の激痛は凄まじい。喉を裂くような悲鳴が上がって空間を震わせる。

 しかし悪魔は止まらない。

 彼は持っていた拳銃を使って、ダルクの両足にダンダンダンダンダンダンダンダンダン!! とやり過ぎなほどの銃弾を浴びせていたのだ。当然、発砲する度に悶え苦しむ悲鳴は上がるのだが、悪魔は貼り付けたような笑みを絶やすことなく『仕事』を終わす。

「あッけねぇにも程があんだろ。クソレベルの雑務だったなぁこりゃ」

 ダルク・スピリッドは死んでいない。なるべく殺さないよう、いつも笑顔の気に入らない上司から悪魔は言い伝えられているからだ。故に彼は、下半身を鉛玉でめちゃくちゃに潰してやったことで気絶しているダルク・スピリッドを髪を掴んで引きずっていく。

 ブチブチと何本かの髪を引きちぎりながらも、悪魔は面倒くさそうにダルクの体を運んでいった。が、そこで全身を黒スーツで固めた五十人くらいの男達が部屋へ遅れて入ってきた。

 それを見た悪魔は、近くに来た数人の男達に引きずっていたダルクを無造作に渡す。

「残飯処理くらいはやってくれ。俺は眠いから先に上がる」

「あ、ああ。分かった。明日は早朝六時に帰国するから、忘れないよ―――」

「あーはいはい。じゃあお先」

 悪魔はひらりと手を振って振り返らずに立ち去っていった。

 どこまでどこまでも闇へ潜っていくように。

 その部屋を出て廊下を歩いていく後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認した男達は、思わずほっと溜め息を吐いた。どうやら彼らも、悪魔と同じ空気を吸うことは重苦しく、緊張し、ストレスが非常に溜まるらしい。

 しかしそこで。

 一人の男が仰天した声を上げた。

「お、おい!! こっちに来てみろ!!」

「どうした? 何か使えそうなモンでも―――」

「違う! 鉈内翔縁がここにいんだよ!!」

 その人名には彼ら全員心当たりがあった。確か先ほどの悪魔と関わりのある人物で、以前までは自分たちと敵対関係にあったような相手だった。

「どうする……?」

「どうするってお前……夜来の奴に言ったら言ったで面倒になるぞ。黙ってるしかねえよ」

「そりゃそうだが、手当すんのか?」

 男達は物陰に転がっていた鉈内にチラチラと視線を向けながら、敵でもなければ味方でもない重傷を負っている状態で発見した少年に決断を決めかねていた。



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