どこまで腐ってる
もともと鉈内が窓ガラスを割ったり、派手に暴れたりしていたので、バレルのも時間の問題だとは理解していたが正直悔しい。
歯噛みしている鉈内は心で吐き捨てていた。
(あと、ちょっとで『プリデン城』の撤去を白紙に戻せそうだったのに……!! くそ!!)
ダルク・スピリッドを追い詰めて、刃物でも突きつけて命を奪うと脅せばその案も通ったかもしれない。それにダルクを人質にしてしまえば、周りにいる武装した男女だって銃を下ろさずにはいられないはずだ。
だが。
鉈内はダルクを倒すこともできずに、無数の銃器に狙われている。
「最高に……最悪なオチだね、これ」
鉈内のつぶやきに、ダルクは笑い声を上げた。
「ははは! なんだい、随分と落ち着いているねぇ翔縁くん。もう少しやることがあるんじゃないかい? 命乞いとか交渉とかさ」
「言ったろ。女の子は裏切らねえって」
「格好いいねぇ、いい男だよ君は」
「おっさん相手にするような趣味はないから他所を当たってよ。腕を広げて受け付けるのは、美少女かお姉さんか巨乳かだ。それ以外は論外だっつの、特にロリは論外な」
「ふむふむ、翔縁くんは年上好きらしいね」
ダルクは額から流れてきた血を袖で拭った。おそらく戦闘の際に切れてしまったのだろう。彼は自分の負傷具合に思わず苦笑し、告げる。
「さてと。翔縁くん、どうだい。君はこれから銃弾で蜂の巣にされるか、命乞いをしてシャリィ・レインたちの居場所を吐いて助かるか。まだ命は救ってあげるけど、どうするのかな?」
「―――美少女万歳だ、ボケ」
「ここまできても尚シャリィ・レインたちを取るか。うーん、これはいよいよ本気で君とはお別れしなくちゃならないのかねぇ」
鉈内は冷や汗を流していた。
確かにこのままでは、黒崎たちと合流することもなく他界するハメになる。日本に戻っていつもの面子と顔を合わせることすら叶わない。
しかし降参なんてしない。
鉈内は生唾を飲み込んで、ゆっくりと自分を囲んでいる武装集団を眺める。
(……やばいな。こりゃ逃げることなんて出来ないや)
そこで、聞きたくないクソ野郎の声がかかってきた。
「なぁ翔縁くん。君は本当に降参しないんだね?」
「……殺すんなら殺せよ、もう、覚悟はしてるって」
「はは、潔くてそこも男らしいね。本当に素晴らしいよ。でもねぇ翔縁くん、安心したまえよ」
ダルク・スピリッドの笑顔が濃く染め上がって。
最悪の運命を告げられる。
「ロウン・シングリッドの件を知った時点で、君を含んだ全員は海に沈める。仲良くあの世で楽しんでくれたまえよ」
「……そんなとこだろうと思ったさ。どうせ、命乞いすりゃ助けるってのも、シャリィちゃんたちの居場所を吐かせたあとに殺す気だったんだろ?」
「当たり前じゃないか、生かしておけるわけがない」
「まぁ、そうだわな。事故死に見せかけて、街中の人間で協力してロウン・シングリッドを殺害。そんな重大な秘密を知った僕たちを逃がすわけがないね。秘密を知った奴の口は塞ぐっていうお決まりの展開だろうなぁとは知ってたよ」
「じゃあ、この後どうなるかわかってるね?」
その問いに対して、鉈内は舌打ちを小さく鳴らした。
忌々しげに告げる。
「僕を拷問してシャリィちゃん達の居場所を吐かせる。その後に僕を殺すんだろ、知ってるからいちいち言うなおっさん。死ねゴミ。クズ。ゲロ。ゴミ。ゴミが」
「ゴミが一番多い評価か……まぁいいさ。君のことは本当に気に入っていたから、安楽死でいかせてあげるよ。拳銃でバーンと頭を、ね」
「……僕は、だと?」
「そうそう。いっやー、実は街のみんなをこんな大掛かりな仕事に駆り出せたのは苦労したよ。でもまぁ、『捕まえた女は好きなようにしていい』って言ったらさ、もう独身の男なんかはやる気まんまん! まったくもって若者はいろいろとすごいよねぇ。ほら、あの子、黒崎くんなんかは可愛いくて人気なんだよー。だから一通り遊ばせた後に殺してもらう予定だから安心したまえ。そうだねぇ……天国で黒崎くんの処女があるかどうかお楽しみってことで、先に君を殺してあげるよ。あ、もしかしてグチャグチャにされる黒崎くん見たい? だったら冥土の土産に生鑑賞させてあげるよ?」
目を見開いている鉈内は、奥歯を砕く勢いで歯切りしを鳴らし始めた。そして唸るように、今すぐ殺したい殺害衝動を押さえ込むように、血走った目をぎらつかせて鉈内は呟く。
「…………………お、マエ……ら……!!」
瞬間、
ついに彼を縛り付けていた鎖が断ち切れられた。
「オマエらァ一体―――どこまで腐ってやがんだァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ボロボロの状態だということを気にせず、鉈内は全力で走り出していた。まるで先ほどまでの戦いで食らった傷なんて嘘のように突っ込んでいく。
鉈内の目は本気だった。
本気でダルク・スピリッドの首を潰す勢いだった。
が、しかし。
バン!! と、ダルクのもとへ襲いかかろうとしていた鉈内の脇腹へゴム弾が撃ち込まれる。前もって、殺さずに後々拷問できるよう準備されていたのだろう。あっという間に気を失った鉈内はあっけなく床の上へ崩れ落ちた。
「あーあ、格好いいシーンで台無しじゃないかい翔縁くーん。まったくもって予想通りな展開だね、飽きてきちゃったよ。あっははははははははははははははは!!」
軽い調子で言ったダルクの笑い声が空気を振動させる。鼓膜を引き裂くような音と禍々しいその声に、彼の周りにいた仲間達も思わず息を飲んでいた。
「はは、ははは! さてさて、じゃあ翔縁くんを拷問部屋へ連れてってあげようじゃないか。―――他のみんなは女たちを探せ。あの日本人の女、黒崎燐はこの街じゃ目立つ。班を二つに分けて行動しよう。一つは翔縁くんの大事なあそことかを『潰し』たりして情報を掴む班。他は黒崎燐とシャリィ・レインたち全員を捕まえるだけの役割の班だ」
ダルクはニコニコと笑いながら、気を失っている鉈内の頭を軽く踏みつける。グリグリと床へ埋めるように踏みにじりながら、笑顔を嘲笑へ変えて言った。
「楽しみだねぇ翔縁くん。大人しく化物退治していればこんな目には遭わなかったのにさぁ。ハハ!! なぁ翔縁くん、男の子にぶら下がってるアレって焼いたりしたらどうなるのかなぁ。きっと痛いだろうねぇ、ああきっとすごく痛い! 子供は生めなくなるし絶望オンパレードで興奮しちゃうよねぇ翔縁くん!! ハハハハハ!!」
戦っていた際に鉈内に押されていたことを根に持っているのか、ダルクは息を荒げながらも鉈内の頭を蹴り飛ばした。気を失っている鉈内に痛みはいかないが、ダルクにとっては憂さ晴らしになる。
ひたすらに鉈内の体を蹴り潰すダルク。ドンゴングチャゴカバキ!! という容赦ない蹂躙が発生している事実が分かる音と衝撃が空間を支配した。
「はぁー!! はぁー!!」
気づけば鉈内の片腕は―――ポッキリと折れていた。頭からは血がドクドクと出ていて、誰がどう見てもやり過ぎだということが分かる。気絶していた鉈内は痛みを感じていないので、不幸中の幸いといったところだろう。
あまりにも蹴りすぎてダルクの呼吸が乱れている。既に鉈内は立てないほどに怪我を負っていたのだが、ダルクはそれじゃ納得できなかったらしい。
「まぁいい!! 僕としても君にはお返しをたーっぷりとしたいからねぇ!! まずは耳をそぎ落とす!! 次は僕がすることを全部見れるように瞼を剥ぎ取ってあげよう!! 肘の関節に杭を打ち込むのもありだ!! その後は股間についてるそれをらライターで炙ってあげるよ、睾丸も一個くらい潰しちゃおうか!! 二つ玉はあるんだし、一個くらい良いよねぇ!? さんざん殴られて僕もイライラしてるからさぁ、君の前で黒崎くんをグチャグチャにさせてから殺してあげるよ。ああそっか、シャリィ・レインもいたなぁ。あの化物も見た目はいいし問題ないだろうが、子供はどうするかね。ロリコン趣味はないんだっけかなぁ翔縁くんには、じゃあ『そういう性癖』を持った野郎にプレゼントしてあげるから感謝してくれよぉ!? あっはははははははははははははははははははは!!」
純粋に殴られたことに対する怒りを爆発させているダルク・スピリッドは、ぜえはあと息を整えて行動に移そうとする。
もう邪魔はない。
鉈内翔縁を撃破したのだから後はじっくり他の奴らを料理すればいいだけだ。




