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戦いの終わり

 場所は変わって宿泊予定の神水峡旅館。

 既に時計の針は午前十二時を回ったばかりの深夜なのだが、一度も温泉に入らないというのは少々旅行に来た意味があるのか疑問に思うため、夜来は人がすっからかんの温泉に身を沈めていた。

 体が骨まで温まる。

 激しい死闘を繰り広げ、雨で冷え切っていたせいもあるのか、いつもの風呂とは明らかに気持ちよさに差があった。このまま眠ってしまい、湯船と一体化さえ出来る意味不明な自信さえ湧いてくる。

「……しっかし」

 一人で入るには少々絵的に寂しいものがある温泉から出た夜来は、近くのシャワーを使ってもう一度髪を洗い流すことにした。

「まさか、あんなことになるとは……」

 椅子に座る。手になじませたシャンプーを髪に付けて、少し前の肝が冷えた出来事を思い出す。

 突如現れた大規模犯罪組織『凶狼組織』と、それを率いる世ノ華雪花の兄・豹栄真介との激闘を行っている最中に登場してきた『凶狼組織』を本当に操っていた『上の連中』の一人―――上岡という男。

 さらに、彼を直接叩き潰した黒いゴスロリ服が目立つ大悪魔サタン。

 彼女はあの後、自身の魔力を広範囲に解き放って……街どころか日本という島国そのものを『壊す』威力と規模を持つ核爆弾のような一撃を下した。

 サタンが地上から離れた空中で、その『関係のない地上の人間』すらも巻き込むような大破壊を実行したことが不幸中の幸いで、被害はゼロと言える。

 しかし、上岡と豹栄真介の姿は既に消え失せていたので、おそらく逃亡に成功したのだろう。夜来や七色達と戦闘を行った『凶狼組織』のけが人や死人、証拠なども全て処理し終えてあったので、完全撤退というやつか……。

「あのロリ悪魔。見た目に似合わず派手な真似しやがって」

 愚痴るように呟いて、頭の洗浄を続けていく夜来。

 しかし、今思ってみれば、サタンが助けに入っていなければ実はピンチだったのも事実。あれ以上『サタンの呪い』を行使し続けていれば……間違いなく人間には戻れなくなっていた。しかも豹栄真介には『不死身』という絶対的な能力があり、上岡という男も何かしらの力があるはずだ。

 余裕を見せて戦っていたが、実のところは夜来初三最大のピンチだった。

 悔しいが、認めるしかない。自分の力不足を。

「あー、クッソダりぃなぁ」

「うぅぅ、それでは我輩とお話はできんのか?」

「……」

 何気なく頭を洗いながら独り言をぼやいていた最中に、聞き覚えのある声がした。ふと視線を下げれば、長い銀髪が床を這っていて、背中には二つの小さな感触が当たっている。感触と評価するには膨らみが足りないそれは、子供の胸部だと簡単に察せるものだった。

 抱きつかれていることに気づいた夜来初三は、大きな溜め息を一つ吐いてから言い放つ。

「テメェ、さっきのはちっとやりすぎだぞコラ。限度ってモン知らねぇのかよ。宇宙誕生説を実写化したみたいなビッグバン巻き起こしやがって」

「我輩が頭を洗ってやろう」

「無視すんなボケ!!」

 注意を完全スルーしながら、シャンプーで泡まみれになっている夜来の頭部に手を置いてゴシゴシと洗い始める大悪魔サタン。

 夜来は正面に設置されている鏡で、自分の顔の主に右側を確認してみた。

 やはり紋様が消えている。サタンが人間界に再び出現してきたからだろう。

(っつーかコイツ……さっき『お話はできんのか?』とか言ってたが……まさか……)

 鏡に映る、自分と同じで生まれたままの姿のサタンを一瞥して考える。椅子に座っている夜来初三の頭部にすら、つま先を立てなければ手を置けない幼女悪魔について脳を働かせる。

(寂しがってるのか……? いや、確かにその可能性はありえる。コイツァ俺を気に入ってるみてぇだし、日中は絶対に俺の中から出てこねぇ。ならやっぱり……)

「おいロリ悪魔」

「なんだ、我輩の小僧」

「『我輩の』を強調すんな。……日中は無理だが、日が落ちてからなら……俺の中から出ていいんだぞ? 何か、お前のことだから俺に気を遣って出てこねぇんだろうし」

 サタンはシャワーを取ってお湯を出す。それを使って、夜来の頭に群がるシャンプーの泡を落としていきながら会話を続けた。

「しかし、小僧はいつも疲れて早く寝るではないか。だから我輩が夜に出てきたら、相手にするのは面倒くさい……だろう?」

「……余計なこと考えんな。俺とお前は言葉通りの『一心同体』の関係だろうが。俺が死ねばお前も死ぬし、俺が生きてりゃお前も生きてる。俺がトイレ行ったら必然的にお前も俺の中にいるし、俺が寝てりゃ必然的にお前は常に俺の中にいる。一緒にいねぇ時間なんてねぇだろ。そんだけ許し合ってる関係が俺とお前だ。だから俺が夜中にテメェと顔合わせるぐらいで、迷惑だとは思わねぇよ」

「ほ、本当か? 我輩、今まで小僧と会えなかった分、はしゃぎまくるぞ?」

「……勝手にしろよ」

 苦笑するように言うと、サタンは心底嬉しそうな眩しい笑顔を咲かせた。

 さらに小さく首を振る。

「うん♪」

「んだよ、こんだけのことでご機嫌になりやが―――っあがああああああああああああああああああああっ!? しゃ、シャンプー目に入ってンだろォがあああああああああああッッ!!」 

 あまりの嬉しさに注意不足になったサタンの握っていたシャワーの向きが、夜来の頭にあったシャンプーの泡へ変換されてしまった。そのお湯の一撃によって泡の大群を顔に思い切り落とされてしまい、顔を泡まみれにする夜来。そして目に豪快に侵入してくるシャンプーの激痛に悲鳴を上げる。

「あ、すまん小僧。ぼーっとしちゃった」

「ぼーっとで済ますなボケ!! さっさとこの泡を流せ!!」

 ……そうやっていろいろなハプニングが起きながらも、ようやく流し終えたので、もう一度大きな温泉に浸かることにした。今回は輝く満月を眺められる、有名な露天風呂に入る。

 女の子の銀髪悪魔と混浴するのもどうかと思ったが、常に自分と離れないでいるサタンならば良いだろうと、夜来は密かに納得することにした(見た目が幼女だから性的な目で見ない安心もある)。 

「……綺麗だな」

「あ? ああ、満月のことか。まぁ綺麗なんだろうな」

 雨はすっかり止んでいて、露天風呂に入る絶好の天気になってくれている。サタンは満月を見上げ、湯に体をさらに沈ませて、またぼやくように口にした。

「……美しいな」

「そうだな」

「……風呂が気持ちいな」

「そうだな」

「……新婚旅行にはここに来たいな」

「テメェ狙ってやってんだろコラ」

 いつも通りのやり取りをしている内に、ふと、サタンの顔から笑みが漏れた。

 そして隣に座る彼の肩に頭を乗せて、電車で眠るような格好になった。

「何だ。眠いんならもう上がるか?」

「そうではない。やっぱり、小僧といると幸せだなーと思っただけだ」

「……そりゃ結構」

 彼は思いつめるような顔をする。 

 湯船に浮かぶ自分の顔を凝視しながら、口を開いた。

「俺は世ノ華のガキを今回、助けられなかった。もちろん、俺の言ってる助けるってのはアイツの兄がわりとして当然な行為だから、実質的には助けるつもりはねぇ」

「分かってる」

「ならいい。話を続けるが……妙な男も出てきやがったが、アイツは一体何なんだ? あの身体能力の高さからして『呪い』にゃかかってんだろうが」

「我輩にもわからん。ただ、『呪い』を使って何かを企んでいるようではあったな。我輩たち『怪物』に何かしら繋がって、何かを企んでいるのは間違いない」

「……次も、俺らの前に無謀にも現れるんだろうな」

「だろうな。まぁ、連中の目的は我輩たちに関係ない。小僧の害になるものは何だろうとぶち殺すまでだ」

 今回の戦いで分かったことは以下の事実のみ。

 世ノ華雪花を滅亡させた兄―――豹栄真介は、実は妹の世ノ華を救うために今まで行動していたこと。

 大規模犯罪組織『凶狼組織』を操っていた『上の連中』の一人である上岡という男とその仲間には、『呪い』や『怪物』と関係した何かの目的があること。

 そして―――今回ばかりは世ノ華雪花を救えなかったという事実だけだ。

 何も得られず、失っただけの結果とも言えるかもしれない。

「気を落とすな小僧。確かに貴様は鬼女を『本物の悪』として救えなかったが、奴らと再びあったときがチャンスだ。次がある」

「……チッ」

 吐き捨てるように大きな舌打ちだけを吐いた夜来。

 サタンは落ち込んでいる彼を元気づけるためなのか、己の私利私欲のためかは知らないが……。

「どんな表情も可愛いなぁ小僧は。もう食べちゃいたいレベル」

 正面から彼の胸に抱きついて、頬をスリスリとこすりつけた。

 夜来は眉を動かしただけの反応を見せたが、すぐにいつもの不機嫌顔に戻り、

「ハッ。小動物みてぇなガキんちょだな」

「というわりには我輩と顔を合わさんが、恥ずかしいのか」

「バーロー。いくらテメェでもマッパは俺に見られたくねぇだろうなと思っただけだ。俺はロリコンじゃねぇんだよ。まずはそのランドセルにぴったりな体を成長させてこい」

「なんて言いながらも、実はロリコンなんだろう? 構わんぞ。どんどん見るがいい。小僧ならば、もれなく『サタンちゃん下半身観覧券』を贈呈してやろう」

「それ貰ったら俺人間として失格だろオイ」

「何だそうか。小僧はおっぱいが見たいのか」

「鏡を見てこい断崖絶壁。ブラ付けるレベルになったら俺が選んでやるよ」

 普段通りの、じゃれあいのようなことをしている彼ら。一見、仲睦まじい兄妹のようにも思える光景だが、実際のところは少年と幼女(悪魔)なだけなので、裸同士で混浴していいのかどうかは危ない関係だ。

 なので、



「いや、幼女と混浴してる時点で既に人間として失格でしょ……」



 その事実を知っている鉈内翔縁から見れば、夜来初三が自分の言うことはなんでも聞くサタンに混浴を要請して楽しんでいるようにも見えるわけだ。彼はついに夜来がロリコンになったと勘違いしているようで、驚愕の色に顔を染め上げていた。

「「……」」

 夜来もサタンも突然の入浴者の登場に無言で顔を見合わせるが、特に動揺している様子はない。

 さらに作戦でも練ったかのようにジロリと鉈内を無表情で睨みつける。

 その後……。

 神水峡旅館の深夜の露天風呂では、一人の少年と幼女によって記憶を消された茶髪の少年の悲鳴が鳴り響いたという。

















「……はぁ」

 宿泊部屋のベッドの上に座り込み、何度目か分からない溜め息を吐いている旅館から借りた浴衣姿の世ノ華雪花。

 しかしまぁ、彼女が溜め息を吐くのも無理はない。なぜなら今回の事件の中で、自分の憎き兄である豹栄真介が実は自分のことを『憎まれる』ことを覚悟の上で守り続けていてくれたからだ。

 ……しかし、彼に滅亡させられたことに変わりはない。そこは揺らぐことのない事実だ。

 だが、両親の魔の手から救ってくれたのも事実。

(アイツのことは……まだ、よく分からない。あの上岡とかいう変な男とグルらしいし……またいつか会う。顔を合わせる。だからそのときに……)

 ふと時計に目を移せば時刻は深夜の一時。あんな騒ぎがあったからこそなのか、雪白千蘭も七色夕那も目が覚めきっているようなので、部屋の中には就寝しているような人物は一人もいない。同じように旅館から借りている浴衣姿の二人はトランプでババ抜きをして暇を潰しているようだが……二人だけでババ抜きとは少々つまらないのではないのだろうか。

 ……まぁ確かに、あそこまでの激闘を繰り広げたからこそ、眠るなんてリラックスしてなくては行えないような休息の仕方は取れないのだろう。まだ戦場の感覚が抜けきれていないのだ。

「世ノ華、お主もやらんか? 二人だけではつまらんのじゃ」

 予想通り、二人だけでババ抜きはつまらなかったようだ。振り向いてみると、そこには世ノ華の分までトランプを配り終えている状態のテーブルと七色達の姿がある。

(……悩んでても仕方ない。今を楽しくするしか、ないよね。どっちみち、豹栄の奴とはまた会うだろうし)

「はいはい、分かりましたよ。っていうか、何でチョイスがババ抜きなの? もっと他のないの、他の」

「えーと。お、ウノならあったぞ。……何だか妙に使いこなされていてボロボロだが」

「一体誰のじゃ? そんなになるまでウノをやるような奴、心当たりがないのじゃが」

 雪白がカバンから取り出したウノのカードは、ケースも何もかもがボロボロな……まるで、空手の稽古をしすぎて帯の色が薄れ、糸がほつれているような状態のカードだった。

 歴戦をくぐり抜けてきたようなウノのカードとケース。もう、その事実からして相当のウノの実力者が持ち主だと断定できる。

「まさか、夜来か……?」

「いやいや、それはありえんよ。あの不良息子にはウノをやるような友達が一人もおらんからの」

「言いにくいことだけど、確かに兄様の交友関係は皆無といっていいわね」

「う、ウノをする相手さえいないほどアイツは孤独なのか……。何だか笑えん話だぞ」

 確かに、あの短気で無愛想で口癖が『クソ』の多用や『殺す』などの映画で見るようなヤクザよりもガラが悪い夜来初三が、仲良く楽しく誰かと群れてウノをすることはイメージすること自体が不可能だ。誰かが『ウノ!』と言った瞬間、『あぁ!? ざけんなクソ野郎。ぶっ殺すぞコラ』と脅してきそうなイメージはできるが、ウノを平和に進行できるとは思えない。多分、ゲームそのものが続けられないだろう。

「では、誰だ? このウノのカードの持ち主は」

「おそらく、翔縁のじゃろう。あやつなら、コミュ力は無駄に高いし、ウノを誰かとしていたこともありそうじゃからな」

「ああ、確かに。『はいウノウノ! やっばい、僕まじイケてない!?』とか言って上がりそうよね。あのチャラ男」

 と、ウノの所持者を誰か推理していくことに夢中になってきた一同。

 盛り上がっている彼女達だったが、そこで一人の少年と少女が部屋の扉を大きく開けて現れた。風呂上りのようなので、浴衣を着用している体からはいまだに湯気が上昇している。

「お、帰ったか夜来……と、なぜお主までおるんじゃ?」

「小僧から『夜中は俺の胸へダイブしていいぜマイハニー資格』をもらったからだ」

「おいコラ、そうやってクソ面倒くせぇ誤解招く真似やめろクソ悪魔。ようは、夜中くらい顔出せよって言っただけだ」

 夜来の浴衣の帯から手を離すどころか、がっしりと抱きしめながらも、歩行を彼に完全完璧に合わせることで邪魔になっていないサタン。ある意味神技と言えるのかもしれないくっつき方だ。

 腰にひっついたままのサタンを気にすることもない彼は、それを自然体のように感じているのだろう。それほどまでにサタンのくっつき方は夜来とのシンクロレベルが高かった。 

「あ? テメェら何やってはしゃいでんだ?」

「ああ、これだこれだ。このウノをやろうと思っていたが……そうだ、夜来も一緒にやるぞ。せっかくの旅行だ。一つくらいお前との思い出を残したいしな」

「……チッ」

 雪白の言葉に顔を背けて肯定の舌打ちを吐いた夜来。彼はサタンと共に七色達が囲んでいるテーブルの一角に着席する。

 するとサタンは、あぐらをして座っている夜来の足の間にすっぽりと収まるように腰を下ろした。とても可愛らしい姿である。夜来も特に気にしてないようで、反応一つ見せることがない。

 が、しかし。

「お、おいサタン。さすがにいつもいつも夜来にひっつきすぎではないのか……?」

「そ、そうねぇ。ちょっと兄様から離れたほうがいいんじゃない? ほら、兄様もお困りのようだし……」

 怒りを堪えるように拳を握りしめている雪白と世ノ華。彼女達から放たれた言葉に首を傾げたサタンは、

「小僧、我輩がここに座るのは迷惑か? それとも―――我輩の体重に耐えられなくて、もう苦しいか?」

「……子犬みてぇな体重のテメェなんざ何の迷惑にもなんねぇよ。この程度なめんな」

 わざと挑戦的な言葉に言い換えたサタンの作戦は成功したようで、夜来は雪白達にとって最悪の返答を返してしまう。

 すると、世ノ華は立ち上がって勝者の笑みを浮かべているサタンを指差し、

「なら、ウノでその特等席を決めましょうよ。一回目のウノで勝ったら、兄様の膝の上はその勝った人のもの。二回目も三回目も同じよ。ようは一位になったら兄様の膝の上を玉座にできるわけ。どう? いい提案でしょ?」

「っ! ナイスだ世ノ華! 久々に貴様と意見が一致したぞ!!」

 雪白はやる気満々のようで、その瞳には明確な勝利の意思が宿っている。七色も息子の膝の上に座ってみたいのか、うずうずしている様子が見られる。乗り気なようだ。

 が、しかし。

 平等な勝負に持って行かれているサタンは焦りの一つも見せずにこう提案をだす。

「ならば、一位が小僧だった場合はどうなるんだ? 当然、小僧が小僧の膝の上に座ることは不可能なのだから、その時点で小僧の上に座っている者の席替えはなしなのだろう?」

「まぁ、そうなるわね」

「よし、いいだろう。我輩もその勝負にのった」

 なぜか勝手に話を進められていくこの状況。

 当然、景品のように自分の膝の上をかけられている当の夜来は、

「おいおいちょっと待てやオイ。なーんで俺の許可も取らずに勝手に話進めて―――」

「それでは勝負開始よ!! カードは誰が配る?」

「……話聞けよ」

 もう仕方ないと踏んだ夜来は、大きな溜め息を吐いた。

 その後、右手を面倒くさそうにウノのカードを握っている世ノ華に突き出した。

「貸せ。俺がやる」

「ありがとうございます、兄様」

 彼女達のイカサマを防ぐために自分からカードを切って配ると夜来は提案したのだろう。彼は受け取ったカードを全員分に渡し、作業を終えたことに肩を落として息を吐く。

 これで完全に平等の戦いの場は整った。

 あとは少女達が己の手で決着をつけるだけである。

「勝負開始よ!!」


 その後……ウノを始めてからもう一時間程度たっただろう。

 勝負の回数は十回にも及び、何度も何度も激しい激闘を披露していた。 

 そして。

 その結果が、一度たりともサタンが夜来初三の上から動くことがなかったという、完全優勝という唖然とするものだった。

「じゅ、十回連続一位、だと……!?」

 雪白千蘭は一位の座を降りることがないサタン―――ではなく、夜来初三に向けて驚愕の声を漏らしていた。まさか、サタンではなく彼の方が強敵だったとは知らず、激しく後悔してしまう。

「ふっ。これが小僧の実力だ。まぁ、我輩は小僧がウノで負けることがないと確信していたからこそ、この勝負にのったのだがな」

「……まさか」

 とある可能性を抱いた七色が、今回使用していたウノのカードケースをまじまじと手に取って観察し、持ち主の名前がケースの裏に書かれていることに気づいたようで、仰天の声を上げた。

 そして、夜来初三に振り向き、

「こ、このいかにも『ウノをやりまくった歴戦の跡が残ってる』カードは、お主のじゃったのか!?」

「あ? ああ、そうだ。つーか、誰の持ち物か分かンねぇモン使ってたのかよ」

「え、ええええええ!? に、兄様に、ウノのやるようなお友達がいらっしゃったのですか!?」

「お、お主にゲーム相手などおったのか!? い、いたのなら儂にきちんと紹介せい! お主は永遠のぼっちだと心配しておったんじゃぞ!」

「……喧嘩売ってんのかこいつら」

 額に青筋を浮かべる夜来。

 サタンが腕を組みながら、自慢げに口を開いた。 

「貴様らは知らんようだから言っておくが、小僧は『一人遊び』のプロだ! ウノは自分なりの必勝法を研究したし、他にもトランプからゲームまでいろいろなジャンルまで研究していた。なぜだか分かるか? 答えは―――小僧はぼっちだから、不登校だったから、ってかもうガチの方の引きこもりだったから、暇で暇でしょうがなかったから、ウノを一人でやったりトランプを一人でやって研究して暇を潰し―――」

「もう止めろマジ止めろマジ殺すぞクソ悪魔ああああああ!!」

 ……彼の悲しい生活の一片を知ってしまった気がするが、そこは触れないでおこう。七色達も悪いことを聞き出してしまったと後悔しているようで、夜来と顔を合わせることをしない。

 それにしても、夜来初三の中にサタンがいるということは、彼のプライベートは全て彼女に筒抜けということのようだ。……どうやら、夜来に本当の自由はないらしい。

 とまぁ、いろいろな出来事が多発した旅行だったが、こうして夜は老けていく。いずれは月が沈んで太陽が顔を再びだしてくるのだろう。

 そう。

 すぐに明日はやってくるのだ。

 たとえ。

 世ノ華雪花が今回の事件によって、どれだけ豹栄真介のこと思い悩もうとも。

 夜来初三が世ノ華を完全に救えず、保留のような形になったことを後悔しようとも。

 しかし、一つだけ朗報がある。

 それは―――

「兄様、もう一回勝負しましょうよもう一回!!」

「ったく、面倒くせぇ妹だな」

 肩に勢いよくすがりついてきた、自分の妹に大きな溜め息を吐いた夜来。

 仕方なそうにしながらも、最終的には付き合ってくれる自分の兄に微笑む世ノ華。

 これこそが朗報。

 これこそが、夜来初三と世ノ華雪花の『兄妹』という絆がしっかりと結ばれていたという事実を示す一つの光景。


 彼は兄。

 彼女は妹。


 つまり二人は―――仲睦まじい『兄妹』なのだ。



 滅亡させる悪。

 滅亡を司る鬼に憑かれた少女の闇は払いきれない結果に終わってしまった。

 だが。

 しかし。

 彼女は救われはしなかったが、助けられはしなかったが、新たな『兄』とはっきりとした『兄妹』という関係になれた。が、もう一人の自分を滅亡させた兄の正体が『実は妹想い』の兄だったという事実には、いまだに驚愕するものがある。

 もちろん。

 その件は、いずれ解決するしかないだろう。

 彼女自身の手で、きちんと豹栄真介という自身の兄との決着をつけなければならない日が来るはずだ。

 故に彼女の滅亡している悪は以前変わることはない。

 悪は宿したままである。 

 しかし。

 それまでは、その悪と、兄と、全ての決着の日が来るまでは。

 新しい兄との『滅亡しない』日々を送ろうじゃないか。

 

 今度こそ『滅亡させる』ことも『滅亡する』こともない『滅亡しない』日常を送ろうじゃないか。


 彼女はそう思って、今日も笑う。

 愛しの兄様に温かい微笑みを向けるのだった。

 


 

 

世ノ華と豹栄。

二人の展開を今後いつ、どこで、どうしようかなぁ・・・と考えてる私ですが、後書きが優先ですね。




今回の悪人話で分かったのは、豹栄真介は結局は悪人だった。作中でも夜来くんが説教してくれましたが、妹を守っていても結局は妹を傷つけてる。守りたいものを傷つけてる時点で『クソったれな悪行』なんですよね。

 でも、豹栄真介は結局、妹を思っていた……何やら難しい話でした。自分で書いて何ですが、豹栄真介は良いやつじゃないんですよね。結局、妹を親から救っても滅亡させたクソったれ。―――悪人でした。



 理由はどうであれ、守るものを傷つけてる時点で悪行。

 滅亡させられた妹と、不本意にも滅亡させた兄のお話―――悪人話でした。まさしく豹栄真介は今作・悪人話にピッタリのキャラでした、悪人だけど……うん、結局は悪人。



 ただ、『良い悪人』とは思えましたかね(笑)

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