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蹂躙劇

 戦闘時間は五分程度だと思っていいはずだ。鉈内翔縁が行った大胆かつ手っ取り早い本命のターゲットへの接近方法の結果、窓ガラスを蹴り破ってきたのだから音が周りには響いていた。いずれはダルク・スピリッドの増援がこの部屋へ押し寄せてくるだろう

 故に、

(さっさと『プリデン城』の撤去をなしにするよう頼みたいんだが……どっからどう見ても、おとなしく話なんて聞いちゃくれないよねこいつ!!)

 ダルクは倒れていた部下が所持していたショットガンを持って迫って来ていた。鉈内も急いで夜刀を使って応戦する。叩き下ろされるショットガンは、もはや銃ではなく刀として扱われていた。

 激しい金属音が鳴り響く。

 銃と刀のぶつかり合いの証拠だ。

「ダールクさんっ!! お話しーましょ!!」

 一歩後退した鉈内の大声。

 しかし相手は爽やかな笑顔でこう言い切った。

「んー? 『プリデン城』の撤去を白紙になんかしないけど、他のお喋りなら賛成だよ?」

「ああもう!! それ言われちゃこっちとしても強硬手段に出なくちゃダメじゃん!!」

(ダメだ! 話し合いに持ってけないんじゃ、やっぱりボコボコにして脅すしかない。一通り殴って、ナイフでも喉につきつけて頼むしかないか。すんごく乗り気にならない作戦だ、これ!!)

 だが、と鉈内は己自身につぶやき、



(ダルク本人もそこそこ強いんだけど、この場合はどうすりゃいい!?)



 振り下ろされるショットガンの脅威は止まらない。鉈内が一歩前進して夜刀を振るえば、ダルクはステップバックしてショットガンを叩きつけてくる。その返しの一撃を回避しても、続いては拳や蹴りのオンパレードで吹っ飛ばされるのだ。

「くっそが!!」

 踏み込んで夜刀の先をダルクの顔に突き刺した。まるで閃光のような速さと鋭さの一閃。しかしそれを前にしてもダルクは、笑みを絶やさずにさっと首を横に傾けるだけで回避する。

 余裕の色が浮かび上がっている笑顔。

 明らかに実力の差がそこにはあった。

「ハハ、翔縁くんとは酒でも飲み合う仲になりたかったのだがねぇ!!」

「っつが!?」

 バギン!! と木の棒を折ったような音が炸裂した。カウンターの右フックが鉈内の額を捉えたことで発生した衝撃音だろう。額から伝わって来る重み、嫌な感触、痛み、全てに歯を食いしばって耐えながらも鉈内はあっけなく殴り飛ばされる。

(―――っ、やば!!)

 結果、思わず握っていた皮膚を硬化させるための御札を離してしまった。

 おそらくは向こうの計算通り。

 さらに。

 体勢を崩している鉈内の体には再び暴力が牙を向く。距離を詰めてきたダルク・スピリッドがショットガンではなく応用性の高い拳と蹴りをぶち込んできた。

 御札を無くしたガキ程度に、恐れる要素は何もないと判断したのだ。

 顔を殴って、腹をひざで蹴って、背中に肘をねじ込んで、鼻っ柱を殴り砕いて、顎をサッカーをするように蹴り上げて、みぞに拳を爆発的な速度で押し込む。

 これだけの豪雨が降ってしまえば、もはや戦いなどではない。

 ただの蹂躙である。

「がっぱぁ……!?」

 思わず口から赤い液体をドロリと吐き出す鉈内。

 それを見てもなお、ダルクの猛攻は止まることを知らない。

「どうしたのかね翔縁くん! 君みたいに職務を全うする人間は素晴らしい存在だとは思うが、今回は仕事のベクトルがおかしくないかな? 化物退治にきて何で最終的には化物の味方をしているんだい?」

「―――化物じゃねえって言ってんだろうがよ!!」

「しつこい人だねぇ君も。あれのどこが化物じゃないんだい。ロウン・シングリッドの忘れ形見のような子供達がうじゃうじゃいるがね、本質は気持ちの悪い化物だよ。意味がわからないねぇ、どうして君はそちらにいる? 僕と共に今からでも共闘して友情を芽生えさせようじゃないか」

 その言葉を聞いて、鉈内は思わず鼻で笑った。

 爪が割れる勢いで漆黒の刀・夜刀を握り直し、その刀身の先をダルク・スピリッドというクソ野郎の顔へつきつけて、

「化物じゃねえよ。ただの美少女とその家族たちだ。―――やっぱアンタは鉄拳制裁で拳骨しねえとわからねえみたいだな、オイ」

 鋭く突き刺すような瞳。

 その憤怒と激怒に染まった顔。

 鉈内にロックオンされているダルクは、両手を降参するテロリストのように頭上へ上げて、

「おお怖い怖い。翔縁くんは怖いねぇ。君のそれは優しさという素晴らしいものなのだろうが、その優しさを向ける対象は間違えちゃいけないよ」

「どういう意味だ……?」

「化物にまで優しさをかける必要はないってこと」

「―――っ」

 カッ!! と両目を見開いた鉈内は今度こそ喉が血まみれになる勢いで絶叫する。

 咆哮と雄叫びを混ぜたような声量で、



「てめぇが化物化物化物化物言ってる化物は―――てめぇら街の人間があの子らの親を殺したから化物になっちまったんだろうがァァああああああああああああああああああ!!」



 叫んだ鉈内の姿に、ダルクは溜め息を吐いてから一瞬で突っ込んできた。フラフラの鉈内の懐へ入り込んだダルクは、ギリリ!! と石のように硬く握った拳を引いて、

「化物を作ったのは確かに僕らだが、正直そこは『どうでもいい』んだよね、責任とかも持ちたくないし」

「ふざけんな!! てめぇらが元凶でシャリィちゃん達はあんな顔してんだぞ!! どのツラ下げればそんなセリフが出てくんだっつ―――」

「んーそうかい。分かり合えないようじゃ、さようならだね」

 軽い調子で別れの挨拶を済ませて、

 ズドン!! と鉈内の腹に殴っただけじゃありえないほどの破壊音を生み出すボディブローを殴り込んだ。メキメキメキ!! と骨や筋肉が崩壊する感触を感じた鉈内は、目を見開いて盛大に血を吐き出した。ビシャビシャと床に広がるカーペットを赤く汚すことになったが、ダルクは戦意喪失といったふうになった鉈内に笑って、

「詰みだね、翔縁くん」

 全力でムチのように曲線を描く軌道の蹴りを鉈内の顔面にえぐり込んだ。鼻っ柱へ直撃した靴先からピキボキベキ!! と何かが壊れた鈍い感じがダルクの全身へ伝わってくる。しかし気づけば鉈内は埃まみれの床を乱暴に転がっていた。

 こうして。

 一方的な蹂躙劇は幕を閉じる。

「まったくもって悲しいねぇ翔縁くん。僕はね、君とは本当に仲良くしたかったんだよ」

 笑顔の中からそんなことを言ったダルクが見ているのは、ボロボロになって倒れ伏している血まみれの鉈内翔縁ただ一人だった。 

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