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激突

「痛いねぇ。まだ痛みは取れていないようだ、はは」

 ダルク・スピリッドは軽い調子で鉈内に殴られた頬をさすっていた。場所はシャリィ・レイン達を襲撃した広大なリビング。茶色のソファへ身を沈めているダルクの周りには数人の男達が武装した状態で固まっていた。

「それにしても翔縁くんは結構乱暴だね。僕としても彼のことは気に入っていたから、出来れば殺したくなかったんだがなぁ」

「ダルクさん、あんたは少し気を抜きすぎだって。俺らもこうしてクッソ重い銃もって頑張ってんだから、自分の身くらいは自分で守ってくれよ?」

「おいおい、僕は平和主義者なんだよ。そう血気盛んにはなれないさ」

「ぬけぬけと嘘を言うなって」

 仲間の言葉に肩をすくめて笑顔を浮かべるダルク。彼はソファから立ち上がって、伸びをしながら満月が見える大きな窓ガラスへ近づいていった。

 綺麗な月である。

「日本の昔話の竹取物語を思い出すね、ああも美しい月を見ていると」

「なんですかそれ。竹?」

「ああ、日本の話なんだがね。確かえーっと、おじいさんがピカピカに光っている竹を切ってみたら、中から小さな女の子―――かぐや姫が出てきて、おばあさんと一緒に育て上げた結果、最終的にかぐや姫は月に帰ってしまう……だっけ。まぁ昔話で実話じゃないさ。ノンフィクション好きな君には分からないだろうけどね、僕はフィクションでファンタジーが好物なんだよ。魔法使いとかには憧れるね。ほら、見てみなよ。あんなに綺麗な月があるんだから、もしかしたらかぐや姫も実在するかもしれないよ?」

 ダルクの言葉に促されて、数人の男達はアサルトライフルを下ろしながら窓ガラスの先に浮かんでいる満月を見上げた。確かにどこか幻想的で非現実的な存在がいてもおかしくないように思える。

 だが。

 その輝く満月に黒い影が浮かび上がった。

 


 ロープを使って屋根から飛んできた鉈内翔縁が、窓ガラスを蹴り破る寸前の瞬間だったからだ。



 ドガッシャアアアアアアアアアアン!! と、ガラスは絶叫を上げてバラバラに飛び散る。咄嗟に顔を覆って緊急回避しようとした男達だったが、鉈内はそれを許さない。

「やっほー! かぐや姫登場だぜぇコノヤロー!!」

 窓を飛んで蹴り破ってきたベクトルを利用した鉈内は、近くに呆然と突っ立っていた黒髪の男に膝蹴りを叩き込む。鼻っ柱をおられた男は気絶してゴロゴロと転がっていくが、それで鉈内の襲撃は終わりなわけじゃない。

 ギロリ、と殴り飛ばす予定である目標対象のクソ野郎を睨みつける。

 既に彼の顔には笑顔ではなく憤怒のみが張り付いていた。

「ダァァァルクちゃァァァァァァァァァんッ!!」

 絶叫と共に、本命を睨む。

 そして瞬時に取り出した御札を漆黒の刀・夜刀へ変化させて飛び出していった。当然狙いはダルク・スピリッドただ一人。あのクソッタレな悪たれだけは、どうしても鉈内は許せなかった。

 しかし。

 斬りかかってくる鉈内を前にしても、ダルク・スピリッドは余裕の笑みを浮かべていた。

「はは、こりゃーおてんばなかぐや姫もいたもんだなぁオイ!!」

 傍にいた仲間の男からアサルトライフルを強引に奪い取る。そして迷わずに照準を合わせて引き金を引いた。鼓膜を突き破るような銃声が絶え間なく続くが、ターゲットにされている鉈内は避けることすらしない。

 なぜなら、

「っ!?」

 鉈内の体へ飛んでいった弾丸が全て、甲高い音を鳴らしてあらぬ方向へ弾けとんだ。

 鉈内は左手に発光している御札を握りしめていた。

 ザート・アルン達が銃撃してきた際にも使用した『己の皮膚を頑丈にする対怪物用戦闘術』を使っているのである。つまりはアサルトライフルなんて弾を吐き出すしか脳のない代物では何の役にも立たない。

 鉈内翔縁は日々日頃から人間と戦っているのではない。



 日々日頃から『怪物』と命懸けで戦っているのだ。


 

 故に人間の域に留まっている存在なんて、今の彼ならば軽くあしらえることが可能だ。といっても、そうバンバン後先考えずに御札を使用するとストックが切れていざという時に対応できないため、あまり使用は控えていたが。

「とりあえず殴らせろゴミが!!」

 右手に握られている夜刀。肉を斬り捨てるその輝きが一段と強く強調されるように雰囲気を放った。振り上げられた夜刀はダルクの上半身へ斜めから落下していく。

 しかしダルクは一歩後ろへステップバックして一撃をかわす。

「翔縁くーん、大人は君たち若者みたいに動いてらんないんだよ。加減してくれたまえ」

「っが!?」

 ズガン!! と見事としか言い様のない回し蹴りが鉈内のこめかみに叩き込まれた。スピードもパワーも全てがプロレベル。やはりダルクは面倒くさいほどに力を備えてはいるらしい。

 さらにアサルトライフルを構える者が三人はいた。

 まずはそちらの雑魚を片付けるのが先決である。

(よーしオッケー!! 僕的にゃダルクだかダルクソだか知らねえゴミを後できっちり殴る予定なんだよ!! それを邪魔するってんなら、まずはyou達全員ゴートゥ天国だよボケが!!)

 夜刀を改めて握り直して、手近にいた男の右耳上あたりを峰打ちで殴り飛ばした。頭蓋骨が割れないよう手加減はしたのだから問題はない。離れた場所にあったソファへ派手に頭から突っ込んだ男だったが、鉈内は気にもとめない。

 残るは二人だ。

 引き金を引かれる前にこちらから動いてやる。

「おお!! ザ・ヒーローじゃないか翔縁くん! 生憎とカメラは回っていないし、もう二度とスタントマンは用意できないよ?」

「ハッ!! そんな三流スタントマンかき集められても、こっちのテンションだだ下がりだわアホ!!」

 一番離れた場所で狙い撃ちしようとしている男を見つけた。即座に鉈内は動く。持っていた夜刀を槍投げをするように男のもとへ投擲したのだ。

「っひ!?」

 咄嗟に回避行動を取る男。

 その当然の反応を鉈内は待っていた。

 夜刀を投げたと同時に走り出していた鉈内は、転がるように刀の投擲を回避した男の頭を蹴り飛ばす。飛び蹴りの要領から繰り出した一撃だ。あまりの威力に鉈内の足のほうにも痛みが走る。

 白目を剥いて崩れ落ちた男。

 その最後を見届ける―――なんてことはせずに、鉈内は夜刀を拾い上げて最後の一人をつぶしにかかった。

「ラストぉぉおおおおおおおおおおおおッ!!」

「く、くそが!! なめんなクソガキァァああああああああああ!!」

 おそらく最後の男が持っているのはショットガンだ。流石に皮膚を硬化させているからといっても、ショットガン何て高威力なものまでは防ぎきれるか分からない。

 故に。

「―――ッな!?」

 スパン!! と、狙いをつけていたショットガン自体を一瞬で真っ二つに切断してやった。居合切りの形から放たれた斬撃。それを繰り出した鉈内の目は武士のように据わっている。

 後は予想通りの結果だ。

 鉈内にみぞを殴られて意識を失った男はズルズルと崩れる。ほこりが充満しているカーペットに倒れふして完全に動けなくなった。

「後はてめえだゴミ野郎……!!」

 さぁ、もう邪魔者はいない。

 鉈内翔縁は残ったダルク・スピリットに眼光を輝かせて鬼の様な顔になる。

「ゴミか、なかなか親しげのあるあだ名だねぇ!! 僕としても君とは仲良くなりたいから喜んで受け入れるよ翔縁くん!! ってことで早速殺されてあの世で懺悔してくれたまえよマイフレンド!!」

「一人称被ってんだよぉゴミが!! こっちは僕キャラ取られそうで冷や汗流しながらここまで来てんだ、絶対ェ一発は殴っからなぁ三下ァァああああああああああああッッ!!」

 余計な戦闘を避けるために屋根からここまでたどり着いた鉈内翔縁は、夜刀を振って忌々しいゴミ野郎に絶叫をあげる。対するダルクも手ぶらだということに構わず笑顔だけは崩さない。

 直後に、鉈内は気に入らないクソ野郎を殴るために飛び出す。

 二つの影は共に走り出し、激突した。

 



鉈内ってホントこの作品の中で一番イケメンですね・・・・こんな男はなかなかいないのでは

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