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まずい

 静寂が場を支配した。

 しかし決して居心地の悪いものじゃない。黒崎はシャリィ・レインの素晴らしい人間性や生き方に純粋な尊敬を抱いていただけだ。

 が。

 事態は悪い方向へ急降下する。

「っ!?」

 思わず息を飲んだ黒崎。

 その理由はいたって単純で―――窓から武装した十五人程度の者たちが蠢いて見えたのだ。まるで鹿狩りをする狩人のようにアサルトライフルやらマシンガンを構えていて、固まって動いている。間違いなくダルク・スピリッドの手下といったところだろう。

 シャリィに目配せだけで敵襲がきたことを知らせる。彼女も窓の先から見える武装集団に気づいたようで、子供達を連れて奥の部屋へ避難していった。不思議そうな顔をしていた子供達も、シャリィの緊迫した表情からただごとではないと踏み、おとなしく従ってくれる。

 残ったのは黒崎燐ただ一人。

 彼女はリビングであろう現在の部屋から、窓の先に映る敵軍兵をじっと見つめる。

「予想以上に早く見つかったけど……鉈内さんがやってるんだし私もやらなきゃね。敵の数は十五人。ここら周辺にはこの一軒家以外に建物はないだろうから、間違いなく向こうは必ずここに攻めてくる。なら―――」

 覚悟を決めた黒崎燐は、ポケットから御札を取り出した。即座に『対怪物用戦闘術』の武器変換呪文を唱えることで二丁の拳銃『魔銃』を両手で握り締める。

 こちらも装備は万端だ。

 黒崎は鉈内とは違って純粋な『対怪物用戦闘術』を手加減しながら扱うことも可能な故に、敵がただの人間なのだから苦戦することはないだろう。

 と、思っていたのだが。

「っ」

 ポケットの中にある御札の数を確認していたら、思わず喉が干上がった。

 なぜなら―――その『対怪物用戦闘術』を使用する際に必須な御札のストックが切れかかっていたのだから。

(まずい……!! 『プリデン城』に行った時に受けた襲撃から今までの道のりでかなり御札を切らしてた。というか、私も鉈内さんと同じで武器を使って戦うタイプだし、そもそも『街の人間全てが敵』になるだなんて想像さえしてなかったから……御札が数枚しかない。もともと大量に使うこともないと思っていたから油断してた!)

「どうする……? 敵の数は現在十五。でも間違いなく、今戦えば銃声とか悲鳴が鳴り響いて増援が襲いかかってくる。しかも街の人間の数は百とか千単位レベルだし……御札が足りない。銃二丁だけじゃちょっとまずいかも」

 額から冷や汗が流れ落ちた黒崎。

 しかし戦う以外に選択肢はないことを理解する。

「やるしかない、か」

 握っている『魔銃』に装填しているのは実弾ではなくゴム弾である。着弾した衝撃をある程度吸収する作りにもなっているため、頭に直撃しても脳震盪程度で済む威力の弾丸だ。

 ガチャリ、と二丁の拳銃をリロードした彼女は即座に決心を固めた。

 そして動く。

 近くにあった窓を少しだけ開けて、再び迷うことがないよう一瞬で動いた。


 バン!! と開けた窓の隙間からターゲットの一人に照準をつけて、銃声を炸裂させると同時にゴム弾が銃口の先から放たれる。


 黒崎の射撃の腕は一流だ。よほどの事態ではない限り狙いを外すことは絶対にない。レーザーのように狙いをつけていた男の額に突き進んでいったゴム弾は―――派手な音を上げて直撃する。

 ズガン!! とバク転をするように額に弾丸が直撃した男は吹っ飛んでいく。二回転か三回転しながら土の上を転がっていき、あっさりと気絶して倒れふす。

「まずは一人」 

 他の敵兵たちが突然の事態に混乱し始めた。倒れた仲間を介抱しているようだ。故に黒崎はその隙をついて、隠れ場所にしていた小屋から抜け出す。この小屋にいてはシャリィ・レイン達を巻き込んでしまう恐れがあるからだ。

 ちなみに、この場所は半径百メートルほどを草一本生えていない綺麗な平地にされていて、その周りを木々が覆っている森の中だ。

 故に近くに隠れる場所はない。

 だがそれは黒崎だけでなく相手も同じだ。

 なので、



「向こうに撃たれるより先に私が撃ち倒せばいい」



 そう。

 お互いに隠れる場所もないのならば、後は真っ向からの銃撃戦だ。だがもちろん、それでは現在・十四対一の少数側である黒崎が不利。まず勝ち目はない。

 しかし。

 最初に敵兵の一人を奇襲したことで、向こうはこちらの存在よりも倒れた味方のほうへ意識を向けていた。

「奇襲された仲間は放っておくのが正解ですよ」

 小屋から飛び出た黒崎は、こちらの存在に一切気づいていない敵兵たちへ静かにアドバアイスを送る。―――そして引き金を弾きまくった。バンバンバンバン!! と、一秒にも満たない時間の中で照準を完璧に合わせると同時に、四人の獲物へ弾丸をプレゼントする。

 全員が頭へゴム弾を叩き込まれた。

 よって地面へ崩れ落ちる素人共がまた生産される。

 さすがに黒崎の襲撃に気づいたのか、残っている敵兵たちは振り返って銃を構えようとする。が、引き金を引こうとした瞬間には頭部に重い衝撃が走り抜けるのだ。そしてグラリと意識を刈り取られて気絶する。―――つまりは黒崎のほうが素早く、正確に、完全すぎるほどの技術を用いて拳銃を使いこなしている。

「ふぅ……結構減りましたね。御札はまだ使わなくて済みそうです」

 結果的に残ったのは八人。十五人いた武装集団がたったの数秒で八人である。半分近くをあっという間に削られてしまったのだ。

「銃撃戦っていうのは、弾丸があたらなければ意味がないんですよ。いくら味方の数がおおかろうと、弾を当てなければ無意味。だから別に、私一人だからといって私に勝率がないわけじゃない。さすがに相手側が十五人のままなら危ないですが、八人程度ならば私一人と大差ないです」

 黒崎は再び二丁拳銃をリロードする。

 弾数から、引き金を引いた直後からの発射時間までを熟知している愛銃を強く握り直して、残った徒党共を殲滅するために動き出した。 


 

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