狩人
鉈内翔縁は黒崎燐達と別れて『プリデン城』へ引き返していた。確証はないだろうが、敵の根本的な目的は『プリデン城』を撤去すること―――つまりは『プリデン城』そのもの。その目的を達成するために障害となっているシャリィ・レイン達を殺そうと奮闘しているだけだ。
ならば敵は既に『プリデン城』という本当の宝を確保しているはず。
だからこそ、鉈内は木々の裏や物陰に隠れながら移動し、密かに隠密行動を心がけて『プリデン城』へ接近しているのである。
「さて、あとはダルク・スピリッド……もといク〇パをマ〇オらしく上から踏んづけてマグマに突き落とすしかないね。ファイヤーフラワーとかその辺に生えてるといいんだけど、まぁあるわけないか。僕ってばアイスフラワー派だし」
キョロキョロと、茂みの中に息を潜めながら辺りを見渡す。既に『プリデン城』のすぐそばの森の中へは到着している故に、あとは城内へ潜入して敵を無力化・ダルクのクソ野郎をぶん殴ってやればいいだけだ。
やるべきことは不良ドラマのようなカチコミだ。
相手は何百人いるか分からない。鉈内一人で街一つを相手にしているのだから、当然、百単位どころか千単位ほどの人数を誇る街の人間全員に勝てるわけもない。
だからこそ。
敵の親玉的立場だったダルク・スピリッドに狙いを絞ることにした。
(ダルク・スピリッドは、確か街の奴らを代表して僕達に依頼をしてきた。いわば、街の人間を代表するほどの地位や信頼や立場はあるんだろう。つまりアイツが敵軍の大将だと思っていい。『プリデン城』で囲まれた時も、ダルクのアホだけは手ぶらでいかにも指揮をとってますみたいな余裕ブリブリな顔をしてた。最悪、アイツを人質にとってうまく話をつけることだって可能かもしれない)
まぁ結局、と苦笑するように呟き、
(いつかは戦うことになるんだよね。その『いつか』が今だってこと。シャリィちゃん達は僕よりも優秀な『悪人祓い』がついてるからどっかに避難してるだろうし、さっさと解決しちゃいますかね)
握りしめているのは漆黒の刀・夜刀。
ギラつく刀身は頭上で輝いている満月の月光を浴びて不気味なオーラを発していた。肉を切って骨を断って血を啜りたがっている斬殺用武器だ。
その輝く刀身に向けて、彼は言った。
「僕にとっての武術は守るための力だ。人を殺して人を切って、ただ人から人へ憎悪や悲劇や絶望を与える力とは違う。だからこそ―――その人を斬りたがっている刃は使わないよ。今もこれからも峰打ちのみだ、相棒」
何よりも殺傷能力の高い刃をクルリと回して、人を斬るための道具という存在価値を否定するように峰打ちに構える。
そう。
今回の鉈内の目的は『「プリデン城」の撤去を白紙に戻す』ようダルク・スピリッド達に要求することだ。だから人を斬る必要はどこにもない。向こうを納得させるのに対して、返り血をシャワーのように浴びることはないはずだ。
「さてと行きますか。正直いってメチャクチャビビってるけど、こんな情けない姿じゃー燐ちゃんとかシャリィちゃんに立ってるかもしれないフラグ折れちゃうからね、ハハ」
いつものように振舞って。そうやって自己暗示をかけるようにして。無数の驚異が待ちわびているだろう敵陣の中へ一人で突っ込むことに勇気を持たせた。
息を吐いて目を閉じる。
意識を耳へ手中させる。
(……『プリデン城』は目の前だ。つまりそれは敵も近くにいるということ。だったら少しで戦力は削れるように、見かけたバカ野郎どもは無力化させたほうがいい)
足音が三つほど近くで聞こえた。おそらく『プリデン城』の周りを警備している血気盛んな者たちだろう。話し声も聞こえて来ることからして、三人まとまって行動しているようだ。
つまりは集団が相手という状況。しかも相手はご丁寧に武装までしている。
「ったく、それじゃあ刀使ってる僕じゃちょー不利じゃん。マジでどうしてくれんのさ、銃とか反則じゃね? なんかもうカードゲームしてる時に三ターンくらいで超上級カード召喚するような奴と同じじゃね? すんごく冷めるよね、みんなで互角にやってた空気ぶち壊すやつ。……ってか、ホントびびってるな僕。これじゃ本当にハーレムラノベ主人公目指してる候補生として情けないわ」
ふぅ、と一息吐いた。
狙いは三匹。狩るのはたったの三匹だ。相手はこちらの存在に気づいていないのだから、三匹の狐程度あっさりと仕留められる。
狩人は自分。
獲物は相手。
その立ち位置を強く意識して、自分が狙われてるのではなく自分が狙っているスナイパーだということを自覚し、
「行くか、必〇お仕置人で鍛えた暗殺術を見せてやる」




