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空に息を潜める一流の悪人と最強の悪魔1

 同日・同時刻。

 場所はフランス上空。

 時差も生じて時間帯は夜だ。

 そんな輝く夜空では、一機の大型飛行機が猛烈な速度を開放して飛空していた。外装が全体的に黒色の怪しいと言えば怪しい飛行機である。しかし地上からはかなり離れた高度で飛行している故に、地上にいる誰もがその姿を目にすることはない。

 その飛行機の広大なスペースの中で、一人の全身黒ずくめの少年は窓から見える眼下の夜景に忌々しそうな舌打ちをする。彼の周りには数人の黒スーツを着用した男達が離れた場所で群がっているが、一流の悪人の出す威圧感にビクビクしているようだった。

「チッ。ったくよぉ」

 心底面倒くさそうにぼやいた一流の悪人。鋭い目つきと誰もが怯える恐ろしい声。同時に見えない緊張感を無意識に周囲に張り巡らせるような悪人面。

 彼はガシガシと己の頭を掻き毟りながら、

「ふざけんじゃねぇよあのシスコン。つーかあのクソ上司も同罪だ。何で俺一人で『書類』にご丁寧に記されてた『エンジェル』の上層部のクソをぶっ殺しにいかなきゃならねぇんだ? あぁ? 先輩っつー権力利用して後輩パシリにする中坊かよ」

「そういうな小僧。我輩とラブラブデートだぞ? しかも外国旅行だぞ? これはもはや仕事というよりご褒美とやつではないか?」

「んなわけねぇだろアホめ。お前みたいなマセガキに俺がウハウハするわけねぇだろ」

 一流の悪人の隣には、立っているだけで床に這いそうになるほど伸びた長い銀髪銀目の悪魔がいた。その体のサイズは小さくてお人形さんのようだが、一流の悪人の腰にひっついている悪魔にも近寄りがたい雰囲気があった。まるで二人で一つのような一体感さえもつ悪人と怪物だ。 

 が、ここで忘れてはいけないのが一流の悪人と悪魔の周りにも『一応』の仲間はいるということ。黒スーツを着用した男達は拳銃やらアサルトライフルやらの手入れをしている。

 しかし一流の悪人も最強の悪魔も彼らを『仲間』だなんて腹の中では思っていない。勝手に死んで勝手に殺されてろ、といった風な仲間意識しかないのだ。もはや味方でもない他人どうぜんの扱いである。

「あーあ、こっちもこっちでクソ面倒な乗り継ぎしながらこうして異国なんぞに来たってのに、何で隣にゃロリが一匹しかいねーんだかねぇ。もっと笑えるトークするような奴ァいねぇのかよ」

「とかなんとか言いながらも我輩のことが大好きなのが小僧なんだよな。だってちょっと前に告白したものなぁ、好きだって言ったものなぁ??」

「その口閉じろクソ悪魔」

 ニヤニヤと笑って腰に抱きついたままの悪魔を一瞥した一流の悪人は、飛行機を運転している運転手に『おい』と声をかける。ただ声をかけたと言えばそれだけなのだが、一流の悪人の声質や音は非常に耐性がないものからしてみれば背筋が凍るのだ。

 故に、ビク! と肩を震わせた運転手は、裏返りそうな声で返答を返した。

「な、なななんですか?」

「この飛行機デカブツはどこに着陸する予定だ」

「あ、ああはい。一応、着陸場所はここから二時間ほどで到着する伐採途中で停止した森の中にする予定です。もともとは畑を作るために大きく伐採された平地の場所があるらしいので、そこにしようかと」

「ふーん。じゃあ何だ? 俺はあと二時間もここのロリと仲良く観光気分でファッションの街を見下ろしてろってのか」

「い、言い方によってはそうなります」

 瞬間、

「―――ふざけンなよコラ」

「っ!?」

 一流の悪人の声が禍々しさを増大させた。

 運転手は前を見てハンドルを握っているため、後ろに立っている一流の悪人に振り向くことができない。その後ろから何をされるか分からないという現実によって余計に恐怖心を高めたのか、運転手は喉が干上がってしまい、ゴクリと咄嗟に生唾を飲み込んだ。

「二時間も付き合ってらんねぇな。俺ァここのロリと一緒に途中で『降りる』から、後はテメェらで仲良くやってろ」

「し、しかし!! 作戦通りに全員で行動して万が一を想定しないと―――」

「ターゲットの捕獲・手がつけられなかったら殺害が素敵な目的だったよなぁ? だったら別に友情・努力・勝利の三大原則守るような真似しねぇで独断行動してもいいだろうが。つーか、俺はジャンプじゃなくてマガジン派なんだよ。それにテメェ……今なんつった? 『万が一』だと?」

 一流の悪人は自分の腰に抱きついたままの悪魔の頭を軽く叩きながら、

「俺とコイツがいる戦場せかいじゃ他ァ邪魔なんだよ。うっかりテメェらまで『壊しちまう』かもしんねぇじゃん。戦場で敵と味方の区別なんざつけてる暇ァねぇよ。そもそも俺はあの女との『約束』ほったらかしにするギリギリのラインでテメェらとツルんでんだ。理不尽だろうがな、こっちもそろそろ憂さ晴らしに『一匹くらい殺してやりたい』んだわぁ」

 ゾワリ、と機内の空気が氷点下に達した。

 その反応に軽く笑い声を上げた一流の悪人は、運転手以外の者にも聞こえるよう宣言する。

「テメェら全員ここで笑える死体に変えてやって俺一人で帰ってもいいんだぞ」

 全員が全員顔を青ざめているが、一流の悪人は構わない。なぜならコイツらは単純に馬鹿だったからだ。馬鹿すぎてイライラが爆発しそうだったからだ。

「いい加減気づけよ。―――俺一人でも先にターゲット殺しに行ったほうがとっとと仕事が片付くだろうが。こうしてる今も悲劇は引き金を引かれてるかもしれねぇ。『エンジェル』を徹底的に潰すのが俺らの仕事なんだろうが。だったらテメェらに俺が合わせて着陸までの『二時間』もタイムロスするような真似はただの『馬鹿』がすることだ。……あんま舐めたこと吠えてっと殺すぞ?」

 その言葉には誰もが反論できなかった。確かに一流の悪人だけでも先に出動できるのならばそうしたほうがいい。敵は巨大な組織なため、こうしている今も何らかの悪事を働いている可能性だってある。

 故に。

 一流の悪人の言ったことには何も言い返せなかった。

「わ、分かりました。通信で上岡さんに一応確認をとっ―――」

「必要ねぇよ」

 通信を取ろうとハンドルの横にあるスイッチに手を伸ばした運転手だったが、一流の悪人の一言に仰天する。

「!? で、ですが、やはり命令違反に等しいことはよろしくないかと。きちんと作戦変更の申請だけでもしなくては、本当に万が一というときに対処できません。お互いにバックアップし合うことで作戦成功率を高めるのが本来の作戦ですが、あなたの言うとおりあなただけでも先に出動したほうが良い。それには賛成です。しかし無断でやるの―――」

「あーそっかそっか。テメェらは何か勘違いしてるみたいだな」

 運転手の正論に対して、一流の悪人はだるそうに言い放つ。

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