正面突破
夜刀を勢いよく突き刺した。弾丸のように突き進んで行く夜刀のギラリと光る先はザート・アルンの頬をかすめて彼の顔に小さな切り傷を作り上げる。
寸前のところで回避された。
やはりこいつは強い、と確信を改めて持った鉈内は夜刀を振り回す。
しかし全てを大剣でガードされるかギリギリで回避されるかの2パターンが結果で待っているだけだった。まったくもって致命傷とはいかなくとも、戦闘不能になる程度の一撃を与えることができない。
「そらよジャパニーズ!!」
「!?」
さらに鉈内の攻撃パターンを読んだのか、時折凄まじい威力で地面を叩き潰す大剣が降り下りてくる。地盤を砕く破壊力を毎度毎度見せられる鉈内からしてみれば迷惑行為そのものだった。
しかし相手は構わない。
故に動きすぎて疲労がたまってきた鉈内に薄く笑って、
「今度はこっち無双だな!!」
「っ、んなわけねえじゃん。一生僕無双だっつーの!!」
「戯言ばかり吠えるな!!」
ゴオッ!! と迫って来る大剣の壁。もはや剣というよりはハンマーに近いその鉄の塊が脳天へ降り注がれた。
咄嗟に身をよじって回避するものの、そこから反撃へ持っていくほどの余裕はない。
その状態に気づいたのか、ザートは大剣を軽々と肩に担ぎ上げて、
「おかしなやつだな、お前」
「はぁ? 何を言ってんだよゴリラ」
「お前は『悪人祓い』という怪物退治を行っている者なんだろ? だったら魔法のような愉快な力があるんじゃないのか? 実際、『プリデン城』から逃亡した際にはお前の相方が御札を使って逃げ道を作り上げていただろう」
「……」
それは鉈内だって使えるものなら使いたい。彼だって初歩的な『対怪物用戦闘術』ならば扱えるし、相手がただの人間だからこそ決着をあっさりとつけられる。
だが、だからこそ無理なのだ。
生身の人間だからこそ使えないのだ。
鉈内のような『対怪物用戦闘術』を制御できない未熟者が生身の人間に肉体的なダメージを与える術を扱えば殺してしまう可能性がある。
睡眠系や麻痺系の相手の体を傷つけることがない安全な『対怪物用戦闘術』ならば話は別だが、生憎と鉈内の『対怪物用戦闘術』のバリエーションはそこまで豊富ではない。
故に。
敵を殺すつもりがない鉈内は、いつものように肉体労働に特化するしかないのである。
「何を黙ってるんだ? もしやお前は使えない落ちこぼれなのか?」
「半分正解だけど半分は不正解だね」
「おやおやすまないな。心に傷をつけてしまったようだ」
「あーはいはい。じゃあお返しで―――肉体的に傷つけてやるよゴミが」
再び鉈内は飛び出した。真正面から堂々と。無駄に度胸だけは一人前にも見えたが、ザートからしてみれば絶交のチャンスだった。
相手は正面突破する気でいる。
ならば、大剣をタイミングよく合わせてぺしゃんこにしてやればいい。
(その根性だけは見事だったぞ、小僧。お前は少々殺したくない相手だった。すまないな)
心の中で謝罪の言葉を送ってから、
「終いだあああああああああああああああああああああああああああ!!」
雄叫びを上げながら一歩踏み込み、背筋と腕力を駆使して大剣を振りおろそうとする。
だがそこで。
「っ!?」
なぜか足がピクリとも動かせなくなっていた。




