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スピード

 鉈内は握りしめていた夜刀に力を込めた。足首のバネを最大まで利用して、勢いよくザート・アルンの懐へ入り込む。まるで放たれた矢のような速度だ。

 さらに勢いよく夜刀を下から上へ振り上げた。

「遅いぞ、もやし」

 が、顔へ直撃する寸前に大剣を使って受け止められる。必死になって押し返してみるが、ビクともしない腕力だった。もとは傭兵でもやっていたのではと想像するほどだ。

「ばっか!! お前みたいな筋骨隆々な野郎はモテないんだよ。絶対あんた独身っしょ? そんなドカンみたいな腕じゃあ女も腕組みとかしたくないもんね、ちょー可哀想」

「ほう、まだまだ余裕があるようだな!!」

 勢いよく大剣を振るわれたことで鉈内は背後へ一時撤退する。あれだけの重量を秘めた大剣を軽々と振るっているザートに力勝負は挑めない。真っ向から挑んでは力技でねじ伏せられるのが見えている。

 よって、鉈内はスピード勝負へ持っていくことにした。

 再び接近し、ザートの背後やサイドにステップしながら攻撃する位置を変えていく。上半身から下半身までに輝く刀をバラバラなポイントへ振るい、時には間合いを取って安全を確保する。

「っ、ピョンピョンと跳ね回るうさぎだな!!」

「そうだよ僕はうさぎさんだよ。月に僕がモチついてる姿うつってるだろ? ああいうのマジやめて欲しいんだよねー。いやね、こっちは毎日毎日汗水たらして月でモチついてんのにさ、そういう仕事をエンターテインメントとして扱って欲しくないんだよね? マジでうさぎ舐めんじゃねえよ。あんまうさぎ舐めてっと怪我すっからね」

 この戦術は効いたようだ。

 確かにザート・アルンの大剣は厄介だ。その刀自体が化物級の重量を誇るし、それを使いまわすザート本人の腕力も超人的。鉈内のような細い腕では刀ごとへし折られてしまうだろう。

 しかし、やはり重い刀はその分スピードが落ちる。

 鉈内の扱っている夜刀のようなサイズならば重量は少ないが好きなように振り回せる。しかしザートの扱う巨大な大剣では一撃一撃は強力だが、素早く動かすには限度があった。

 故に、お互いに弱点がある。

 鉈内は剣を合わせて力勝負に持ち込まれれば間違いなく負ける。しかしスピードでは勝っているのだから、そこを百パーセント利用しなくては勝ち目はない。

 スパン!! と、ついに鉈内の動きへついていけなくなったザートの頬に赤い線が走る。次第に血がにじんでいき、ドロリと地面へこぼれていった。

「なるほど、ジャパニーズにはジャパニーズ式のやり方があるわけか」

 薄く笑ったザートは唇に垂れてきた血を舐めとって、

「しかしまぁ、ジャパニーズは無駄に素早いようだな。まるで逃げることに特化しているようにも見えるほどだったが」

「そっちは随分とまぁ荒療治な使い方するね。刀ってのは斬るためのもんだ。それをハンマー振り下ろすみたいに扱うあんたは剣を握る資格がない」

「くはは、言うじゃないか日本人!!」

 瞬間。

 目を見開いて口の端を釣り上げたザートが大剣を振り下ろしてきた。咄嗟に転がる格好で地面へ飛んで回避した鉈内だったが、つい先ほどまでいた場所には亀裂がビシビシと入っている。

 砕けた地面の破片が周囲には転がっていき、その威力を示すがごとき破壊のあとが出来上がった。

 間違いなく、あんな一撃は鉈内じゃ受け止めきれない。

 斬撃一つでも刀で防御すれば―――死ぬ。

 故に、

「ってことは避け続けるしかないのかよオイ!!」

 

 

鉈内とザート・・・・・ようはスピードタイプとパワータイプ。―――クッパJrとクッパってことですね

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