表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

225/539

隠れんぼのプロ

 ギギギギ、と軋む音を立てて開かれたドア。

 それを大木の影や草むらの中に息を潜めている街の男たちは見た。中から出てきたのは一人の少年。片手に黒い刀を握った茶色の髪をした少年一人だった。

 鉈内翔縁。

 すなわち街の人間が雇った『悪人祓い』である。

 しかし今では敵対関係にあるような状態故に、手を振って仲良く話し合う気はサラサラない。場合によっては殺害すら躊躇うことはないのだ。

 が。

 それは相手も同じだったようで、

「聞いてんだろーコノヤロー。今ってば僕ちょーキレてっから、死なないように気を使って来てね? マジで血圧沸騰してやばいから。もう何かアタタタタタタタタタタタとか言いながらお前らの秘孔を押してやりたい感じだから」

 ふぅと溜め息を吐いた鉈内は。

 刀の切っ先を前方に突き向けて、



「ってなわけで―――僕無双の始まりだ」



 御札を取り出して走り出した鉈内。同時に、物陰で息を潜めていた男達は照準を合わせて引き金を引く。アサルトライフルの銃口から飛び出ていった弾丸は、少年の体へ吸い込まれるように直進していき、

「『絶対防具―――鋼皮』」

 鉈内の肉体へ直撃した瞬間、ガキィン!! という甲高い衝撃音を鳴らしてあらぬ方向へ弾き返された。

 思わぬ事態に息を飲んだ男達。

 彼らの反応を予想していたのか、鼻で笑った鉈内は口を開いた。

「まぁここらで自分の能力公開、的なことしといたほうがモチベーション上がるし教えてあげるよ」

 鉈内の左手では赤く発光した状態の御札が握られていた。

 彼はそれを見てから続ける。

御札これを持っている限り僕の体は肉体強化される。皮膚が硬くなるってわけ。身体強化系の『対怪物用戦闘術』なんだけど……わかんないか。まぁとりあえず、ただ体ガッチガッチにするような簡単な術なら未熟な僕でも使えるってわけ」

 説明終了、と軽い調子で言い放った鉈内は弾丸が飛んできたルートに従って駆けていく。結果、大木の裏で息を潜めていた男の一人を発見した。

「みーっけ」

「っひ!?」

 情けない悲鳴を上げた男。

 対して、右手で握り締められている黒い刀を全力で引いた鉈内は勢いよく男の脳天へ振り下ろした。ただし斬撃の後に血は舞い上がらない。理由は鉈内が峰打ちで刀を振るったからだろう。

 ガゴン!! という衝撃音が炸裂した後に男の体が地面へ倒れこむ。

「まずは一人だね。隠れんぼの鬼役は僕の特技って知ってる? 僕ってば『心眼の鬼』って呼ばれてた隠れんぼのプロなんだぜ?」

 さらに今度は芝生の中に息を潜めていた男を一撃で気絶させて、木陰の中で照準をつけていた者の意識も刈り取った。

(あれ、何か僕ってばいろいろ修羅場経験して強くなってる?)

 相手がただの人間であることも影響しているだろうが、それ以上に自分の体を上手く使いこなせるようになっていた。おそらくそれは実戦経験を積み重ねた故。『死神の呪い』を宿した秋羽伊奈から始まり、最近では『九尾の呪い』という九尾の狐の力を振るう悪人と死闘を繰り広げていた。

 故に経験値が加算されたようなもの。

『殺し合い』というものを肌で感じ取ってきたことで精神的に成長したのだ。

「まぁ、やっぱり殺人は犯せないけどね!!」

 ズガン!! とナイフを突き刺してきた男の顔を漆黒の刀・夜刀で殴り飛ばし、あらかたのお掃除をすませた鉈内。

 彼は静かになった周囲を見渡し、

「もういないか……?」



「ああ、あとは俺だけだ」



 背後から聞こえた日本語。その声が鼓膜に届いた瞬間、脳や細胞が悲鳴を上げたことだけは分かった。間違いなく後ろに立つ者は敵。

「っ!?」

 バッと振り向いた鉈内は見た。

 一人の大男が片手にデカイ大剣を握ってニヤニヤと笑っているのを。

「あっれ、まだ残党いたんだ。ちょっと休憩したかったんだけどな」

 雰囲気から分かるが、あの男は強い。

 図体も二メートルくらいある巨大な体なため、斬撃の一撃一撃は重たいはずだ。

「ザート・アルンだ。よろしくジャパニーズ人」

「山田太郎です。よろしく巨人」

「見え見えの嘘ほど悲しいものはないな、くはは」

 鉈内は夜刀を低く構えながら言う。

「で、なにか御用かな、砂糖・アー・ルン」

「ザート・アルンだ。そこまで虐められると涙が出るぞ」

 ザートは全長二メートルほどの巨大な大剣を肩に担ぎ上げながら、鉈内を指差して告げた。

「ところで、お前は別に殺す必要がないんだがな。今からでもシャリィ・レイン達を引き渡してもらえればお前とあの日本人の女は生かしてやれるかもだぞ?」

「なに言ってんだお前」

「ん?」

「ンなダッセー真似するわけないじゃん。格好悪い」

 その返答を耳にしたザート・アルンは、声を押し殺して笑う。

 そして大剣の先を鉈内に向けて、獰猛な笑顔と共に宣言する。

「いいだろう。どっちみち『あの事件』を知った時点でお前は処分したほうがいい。殺してやる」

「上等だよゴリマッチョ。今は細マッチョの時代だってことを教えてやる」

  

  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ