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敵と認識

 その瞬間だった。

 持っていた本を閉じて、持ち主であるシャリィ・レインに手渡そうとした瞬間だった。

 


 ガッシャアアアアアアアアアアアアアン!! という窓ガラスが砕けて悲鳴を上げたと同時に、無数の男や女が鉈内達が集まっていた部屋へ突撃してきたのだ。



 割れた窓ガラスから飛んできた者や、部屋の扉を蹴り破って侵入してきた者達の数は即座に数え切れない。しかも全員の手には槍や鉈や拳銃や猟銃といった殺す気満々の道具まで装備されている。誰がどう見ても仲良く話し合いに混ぜてくれといった登場でもない。

 明らかに、殺意に光る目が蠢いている。

 そこら中に。

「燐ちゃん!! 子供を集めて!!」

「は、はい!!」

 突然の事態に反応が少々遅れたが、あまりにもびっくり仰天な展開ですぐに冷静さを取り戻す。鉈内の指示通りに黒崎やシャリィ・レインの周りへ集められた子供たちは突然の襲撃にプルプルと震えていた。

「おいおいおいおい、どういうことですかおい。不法侵入ってレベルじゃないでしょ。強盗にしても気合入りすぎじゃねー?」

「ははは、まぁ相手が化物だからね。これくらいの用意はしないと」

 返ってきた声には聞き覚えがあった。

 銃火器を所持した男女の群れが道を作るように横へずれていく。その結果出来上がったルートからは一人の男がニコニコと笑いかけながら手を振ってきた。

 その人物に鉈内は無理に笑顔を返しながら、

「どういうことですかぁダルクさん。今は僕たち仕事中ですけど。まだ依頼は遂行してないですよ?」

「いやいやすまないね、翔縁くん。僕としても君たちに任せて優雅にコーヒーでも飲もうかと考えたんだが、やはり相手は化物だ。だから君たちのことが心配で心配で、こうして『街の者』を集めて『協力』しにきたのさ」

「……気持ちだけ受け取っておきますよ。安心して撤退してください。それと『化物』なんかいやしませんでしたよ。ここにいるのは―――ただの子供たちと超絶美少女だけです」

 その言葉には鉈内の背後で子供達と共に身を固めているシャリィ・レインが肩を大きくはね上げていた。

 しかし、ダルク・スピリッドは純粋に見える笑い声を上げて微笑んでくる。その清々しいくらい人当たりの良さそうな笑顔をから視線を外して、周りを囲んでいる武装した男女の数を確認する。そうして警戒を怠らない鉈内だったが、ある程度の敵数確認が済んだことで改めてダルクへ目を向けた。

「面白い冗談だね、翔縁くん。超人的な力を振るい、街の人を無差別に襲撃してくる者達は化物以外の何者でもないじゃないか。さぁさぁ、君たちの仕事を僕たちも手伝うよ。協力してそこの化物を倒そうじゃないか」

「……化物じゃないって言ってるでしょうよ」

「いいや、化物だろう。人間という域を超えているだけならばまだしも、その圧倒的な力を使って街の者という『罪なき』人間を傷つけているんだよ? これのどこが化物じゃないんだい?」

「化物じゃないから化物じゃないんですよ。ここにいるのは何の変哲もない家族だけです」

「いいや、彼女たちは化物だ。ただの気持ちの悪い化物に過ぎない」

「っ」

 瞬間。

 目の色を憤怒の色へ変えた鉈内は、喉から血が吹き出るほどの勢いで叫んだ。

「―――化物じゃねえっつってんだろうが!!」

 この広い室内でも反響して耳に帰ってくるほどの大声。突然の激昂によって、鉈内の後ろにいた黒崎やシャリィ・レイン達までもが仰天して目を見開いていた。

 しかしダルク・スピリッドだけは笑みを絶やすことはない。

「いい加減にしろよゴミ。あんた達のせいでこちとら血圧上がって死んじゃいそうだわ。っつーか今すぐゴミ掃除したくてうずうずしてきたわ。どうしてくれんの? 僕ってば潔癖症だから周りに群がってるゴミを今すぐ処理したいんだけど」

「おやおや、怖い顔をするねぇ翔縁くん。一体なにが不満なんだい? 僕達はただ、君たちのやってる怪物退治の手伝いをしようと―――」

「怪物じゃねえよ。ただの家族がここにいた。……それだけだ」 

「ほーう」

 面白いものを見るように視線を向けてくるダルク。

 対して、鉈内はギロリと気に食わない笑顔を貼り付けたゴミ野郎を睨みつける。

「一つ聞いとくよダルクさん」

「なんだい?」

「ロウン・シングリッドって病死で死んだって言ってましたけど、あれってマジですか?」

「―――ううん、僕らが殺したよ」

「っ」

 あまりにもあっさりとした自白に、鉈内も黒崎も大きな動揺を見せた。

 だが、ダルクは両手を合わせてごめんなさいのポーズを取りながら、

「いやーごめんね? 翔縁くんや黒崎くんに嘘ついちゃったんだよ、ほんとごめん。僕としても罪悪感があったんだけどさ、街全体の意向から君たちには『あの事件』に関しては黙っておくように決めてたんだよ。まぁもうバレちゃってるみたいだから別にいいんだけど」

「っ! マジであんた僕のこと舐めてんの? もうちょっと誠意ある謝罪の仕方しらないのかな?」

「謝罪って、誰にだい?」

「シャリィちゃん達に決まってんだろ。わざわざ言わせないでよ」

 ダルク・スピリッドは鉈内の背後で子供達を抱き寄せているシャリィ・レインを視界に捉えた。しばしの間彼女を凝視するが、その目には怪訝そうな雰囲気が見られる。

「うーんとねぇ」

 ようやくシャリィから鉈内へ目を向け変えたダルクは、開口一番にありえない発言をした。

「彼女たちに謝る理由が分からないんだが……どうすれば翔縁くんは機嫌を直してくれるのかね」

「……は……?」

 思わずあんぐりと口を開けて呆然としてしまう鉈内。あまりにも『ズレている』ダルク・スピリッドの言葉を理解することができなかったのだ。 

 しかし、呆然としているのは数秒。

 瞬時に鉈内の瞳がギラギラと輝いて、ギリギリと歯切りしを鳴らし始めた。

「てめぇ……!! それ本気で言ってんのかよ……!!」

「本気もなにも『化物』相手に謝罪する必要はないさ。僕から言わせてもらえれば、今君が怒っている理由がさっぱり『分からない』んだが?」

 その返答だけで彼らを敵と認識可能になった。もしもダルク・スピリッドを含む街の人間全てが少なからずシャリィ・レインたちに罪悪感や謝罪したい気持ちがあったのなら、全員で話し合いに持っていく予定だった。無駄に殴り合うことなく、穏便にことを済ませたかった。

 しかし。

 その希望ははかなく打ち砕かれた。

 現在、鉈内達を取り囲んでいる無数の武装した男女は街の人間。つまりは己の悪行を自覚していない、本当のクソ野郎共というわけだ。

 彼らに謝罪する気持ちがないのなら。

 もはや、今回の件に平和的進行は訪れない。

「っ、救いようのない悪人だわ、アンタら……!!」

 このままではシャリィ・レイン達をダルク・スピリッドと周りの街の人間全てに殺されることになる。彼らがシャリィ達を敵と認識している時点で、もはや血を流し戦場を走り抜ける決意をしなければならなかった。


 

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