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真相の内容


 静寂が場を支配した。

 聞こえて来るのは幼い子供たちのじゃれあう声や物音。残るは時計の針の規則的な音のみ。鉈内も黒崎もシャリィの言葉を理解するまでに少々時間をかけてしまった。

 それでも、吐き出すように鉈内は声を出す。

「え、えと……え?」

「だから君たちは『騙されてる』んだって。ダルクの野郎、ついに無関係者まで利用して私たちをつぶしに来たか。まったくもって救いようのない奴だな」

「あ、え? 騙されてる?」

「そうだ」

 こくんと頷いたシャリィは、自分の膝の上に一人の女の子を乗せて、頭を撫でながら言い放つ。

「どうしてこんなにたくさんの子供がいるか、気になるだろう?」

「え、は、はいまぁ」

 突然話がずれたことに動揺しながらも、鉈内は首肯する。確かに何十人もの幼い子供たちが集まっているかには疑問を持っていた。

 するとシャリィは小さく笑って、 

「ここにいる全ての子供は皆、そのロウンさんが育ててた孤児や親がいない子供たちだ」

「っ!?」

「もちろん、私もロウンさんに育てられた。いわば長女だな。だからこの子達は私の弟妹だから、ロウンさんがいない今は私が面倒を見ている」

 息を飲んだのは鉈内も黒崎も同じだ。

 その反応が予想外だったのか、シャリィは少々まばたきをして笑い声をあげる。

「ははは、何だやっぱり良い人そうじゃないか。良かった良かった、まだ君たちに対する警戒心は溶けていなかったが、それじゃ安心だよ」

「ちょっと待ってください! えっと、じゃあまとめてしまえば―――ロウンさんは私たちに依頼した街の人全員に殺されて、街の人は私たちに病死だと嘘をついていた、と」

「その通りだな。ああ、何なら証拠でもみせようか?」

 立ち上がって部屋の隅に向かったシャリィは、箱の中から溜まった新聞の山を取り出す。そこから一枚の新聞紙を持ってきて、黒崎と鉈内に手渡した。

 ほぼ無意識のうちに新聞紙へ視線を走らせる鉈内と黒崎は、しばらくしてから一枚の記事を発見する。

「こ、これ……『プリデン城』の中で男性死体が発見って……ロウンさん、なんですか……? あ、あれ? 私たちが聞いた話とは……」

「ああ、ちょうど―――その辺で殺されていたよ」

 シャリィが指差した場所はすぐそこの壁際だ。思わずギョッとしてしまう。自分のすぐそばには過去に死体があっただなんて考えたくもない。

「わかったろ? 少なくとも病死じゃない。病死だったら記事にならない。君たちは騙されてる、それは事実だ」

「ま、待って待って! じゃあ聞くけど、何でロウンさんは殺されたの!? そこが分からなきゃ納得でき―――」

「新聞、よーく読んでみな」

 シャリィの冷たい言葉が場を支配した。

 外国の……しかも街だけで取り上げられた内容を記事にした新聞なんて鉈内は読めない故に、黒崎が見やすいよう新聞紙そのものを広げてやることしかできない。

 すると早速ヒットしたのか、黒崎が『あ!!』と大きな声を上げた。

「鉈内さん、ここですここ。えっと、『プリデン城の撤去』を街中の人が提案していたそうです。何でも、『プリデン城』の敷地が大きいせいで農作業やその他の商売が不可能なために撤去したかったようですね。つまりはここを片付けようとして、『プリデン城』の持ち主であるロウンさんが一人で街中の人間と敵対していたのかと。記事にも『反対派一名』って書いてますし」

「もしかして……ロウンさんは『プリデン城』に住むシャリィさんとか他の子供たちのことを考えて、反対したんじゃ……」

「その通りだよ」 

 さらりと告げたシャリィ。

 彼女は低い声で言った。

「あの人は私たちを守るために街中から敵視されるのを承知の上で戦ってくれた。そして抗って戦って対抗した結果……殺されたの。街中の人間が一致団結してあの人を殺したんだよ。殺害班、証拠隠滅班、バックアップ班って様々な巧妙な手口であの人を殺した。結果、その新聞に書いてる通り『事故死』ってことになってる。君たちに病死って嘘をついたのは、まぁ、極力その事件を勘付かせないためだろうな」

「……ちょ、ちょっと待って、じゃあもしかして君たちが街の人を襲うのは―――復讐、ってこと?」

「とも言える。だがあいつらはまだ『プリデン城』を撤去することに諦めていない。そのためにも、夜な夜な戦力を削ぎ落としてやるために襲ってはいる」

 諦めていない、というのは説得力に溢れていた。

 事実、鉈内たちが現在いる場所が『プリデン城』だ。ならば街の者たちの目的は達成されていないことと同じ。すなわち再び街中が敵になって、この『プリデン城』という彼女達にとって大切な家を奪おうとするだろう。

「逃げるような言い方で悪いけど、私は『お返し』だと思ってるが。実際、私たちは誰一人として殺していない。一発や二発なぐっただけで妥協してるんだ、こっちは『親を殺された』のにね。正直、皆殺しにしていいなら今すぐにでも街ごと殺しに行く」

 待て、と鉈内は思った。

 今まで自分達は敵を間違って認識していたのではないか? そもそもシャリィ・レイン含む幼い子供たちが街の人を襲おうようになったのは『街の人が悪い』からじゃないのか?

 街の者にも事情があって『プリデン城』を撤去しようとしたのは分かる。

 しかし。

 それだけの理由で親を殺されたシャリィ・レイン達の心が『はいそうですか』と納得できるわけがない。

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