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真相

 場所は変わって『プリデン城』内に存在するリビング……のはずだ。

 煮え切らない言い方だったが、実際に分からないのである。リビングと呼ぶにはあまりにも広い、大きい、長い、無駄にデカイ。正直言って、ここをリビングと認識するのなら一般家庭のリビングはタンスの隙間程度の見方になってしまう。

 鉈内と黒崎は大きなソファに腰掛けていた。

 その対面には、先ほどの女性と幼い落ち着きの無い子供達が座っている。

「あ、あの、すんません。あなたは一体……」

「シャリィ・レインです。先ほどはこの子たちが本当に迷惑をかけてしまって、すいません」

 言って、鉈内と黒崎を襲撃してきた四人の子供達の頭を順番に拳骨していった。まるで昭和の厳しいお父さんのようである。殴られたことで軽く涙目になった四人は、ペコリと素直に頭を下げて謝ってくるが、鉈内が求めているのは謝罪の言葉などではない。

「あのさ、お兄さんはね? いやまぁ確かに殺されそうになったのはマジでびびったよ? あ、いや別にビビってないけどちょっとビックリはしたよ? いくら一子相伝の殺人拳を極めてる世紀末を走り抜けたお兄さんといってもね、やっぱり多少はビックリするんだよ、うん。で、話も戻すけど……何で僕たちのこと襲ってきたのかな?」

 尋ねると、男の子がうつむきながらポツリと言った。

「……この街の人だと思ったんだけど、違った。でも、何かお兄さん怖かったから」

 その言葉を黒崎から日本語に変換してもらって聞き取った鉈内は、いつものようにニコニコと笑った。そして男の子の頭をポンポンと撫でてから、

「はは、別にまぁそれは怒ってないからいいよ。僕だって無事だったんだし。えーっと、でもさ、何でこの街の人だったら襲うの? やっぱり、最近起こってる街の不可解な事件は……」

「私たち……が犯人ですね」

 答えたのはシャリィ・レインだ。どこか呆れる調子で言ったが、実に奇妙なものである。街の人間を無差別に襲っているというのに、先ほどのような拳骨を一つも子供達に放っていない。

 まるで。


 街の人間を襲撃することを肯定しているような様子だった。


 眉をピクリと動かした鉈内は、さりげなく黒崎に目をやった。

 すると視線が合う。どうやら黒崎も同様に不思議に感じていたらしい。

「あの、シャリィさん。何で街の人を襲うことに賛成してるみたいな感じなんですか? っていうか、聞いた話ではこの『プリデン城』は空家だと―――」

「空家ではない!!」

 突然の大声。

 必死さが見て取れる形相。

 その二つを兼ね備えているのは勢いよく立ち上がっていたシャリィ・レインである。しかしすぐに己の目立った行動を自覚したのか、腰をソファに下ろした。

「あ、いや、すいません。ついカッとなってしまって……」

「あの、敬語めんどくさかったらやめていいですよ? 僕も敬語めんどいんで」

 鉈内の提案に賛同するが如く黒崎も頷いていた。

 シャリィは己の失態に寛容な二人に小さくお辞儀をしてから、再び口を開いた。

「言っておくけども、ここは空家じゃない。きちんと私たちが住んでいる」

「ですけど、私たちが入ったときは外が掃除されていなかったり……」

「それは単純に手が回っていなかっただけだ。……これだけ広いんだから仕方ないだろう」

 確かに広い。この『プリデン城』を隅から隅まで掃除するなど不可能な芸当である。できるならば金を取れるレベルの掃除技術だ。

「それとあなた達は―――ロウン・シングリッドさんをご存知で?」

 ロウン・シングリッドという人名には聞き覚えがあった。依頼主であるダルク・スピリッドから得た情報では、確か病死してしまった『プリデン城』の住人だったらしい。

 そのところを説明すると、シャリィは眉根を寄せて、

「どういうことだ……?」

「ど、どういうこと? えっと、あと僕たちも質問あるんだけど、シャリィさんたちっていつからここに住んでるの? なくなったロウンさんだけが住んでた的なことを聞いていたんだけど……」

「すまないけど、ちょっと待って欲しい。頭の整理がおいつかない」

 何やら眉間に手を当てて視線を落とし始めたシャリィ・レイン。……うすうす鉈内も黒崎も気づいてはいたが、微妙に話が噛み合っていない気がする。

 そして。

 ようやく整理とやらがついたのか、シャリィは顔を上げて、

「あの、一つ聞くけど、いいか?」

「あ、うん。どうぞ何なりと」

「ロウンさんはどうして亡くなったか聞いているのか?」

「確か、病死だったよね。病気でなくなったって聞いてるけど」

 瞬間。

 シャリィはうっすらと目を細めて、

「……違う」

「え?」

 怪訝そうな声を上げた鉈内と黒崎に構わず、シャリィ・レインは本当の事実を告げた。



「ロウンさんは殺されたんだよ―――あなた達が守ろうとしてる街の人間全員の手で」


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